第2話 すべてがAになり
〜1日目〜
「あと6日! あと6日で私の豊満なおっぱいはAカップのままなのよ!?」
古本屋の床にへたり込み、女神カトレアは泣き崩れていた。書店に足を運ぶ客が不審そうな目を次々に向けてきた。
女神カトレアは昨日より実体を持ってその存在を世に露わにした。それには理由があるのだが。
だが、ただ泣いてばかりで、あかりとしては面倒な存在としか捉えられなかった。
「静かにして。店員に追い出される」
我妻あかりは目に入った180円の写真集をぺらぺらめくる。
「見なさい。この元グラドル。かつては国宝級って人気絶頂だったの。もっとも、今はただの人」
次に手に取った写真集のページをめくる。 どのモデルも、均等。完璧に均等。世界はAカップで統一されていた。体型さえ同じならどの水着でも身につけられそう、とあかりはにんまりした。
「辞書引いてみなさいよ」
「もう引いた」
あかりはスマホを差し出す。
“巨乳” “豊胸” そういったワードが検索しても全く引っかからなかったのだ。なんなら豊満術さえこの世から消失してしまっていたのだ。
「概念ごと消えるとかやばすぎ」
あかりは肩をすくめる。
「そうよ。そして、貴方の陳腐な願いのせいで牛までぺちゃぱいなのよ!!」
「ちょっとそこは気持ち悪いと思った」
「思ったのね!? なら戻しなさいよ!」
「嫌」
即答だった。牛がぺちゃぱいだからって別にあかりが困ることなどないのだ。
カトレアが言うには、あと6日以内にあかりが願いを取り消せば、元の世界に戻るらしい。カトレアはそれを聞き入れるべく、実体を持って今もあかりのそばに居続けるのだ。
「絶対に嫌!」
あかりは言葉を吐き出した。あかりにとって巨乳はそれほどのものなのだ。
〜3日目〜
「今、D県って言ったわよね」
あかりはテレビの地震速報を眺めながら言った。
D県にて震度2があったらしい。
「言ったわよ」
カトレアは気だるそうに答えた。
「いつかD県で震災があるのよね?」
あかりはわなわなして確認した。
カトレアいわく、前回カトレアを呼び起こした青年は「次に日本で震災が起きる日時と場所を教えてくれ」とお願いしたらしい。
で、カトレアはその話をあかりに喋った際、その場所をうっかりD県だとあかりに漏らしてしまったのだ。D県は隣の県。とんでもないことを聞いてしまった、とあかりの心拍数は爆上がりしていた。
そしてこのタイミングでドンピシャで地震速報があったわけだ。
「そうよ」
「いつ!?いつ震災がくるの!!??」
「言わないわよ。貴方の願いじゃないもの」
「そこまで言っておいて何なの!!」
「うるさい小娘ね。じゃあ、願いを取り消してくれたら教えてあげないこともないわ」
「うー……絶対嫌!!大学卒業したら遠くに引っ越してやる!!」
あかりはヒステリックにそう吐いた。
世界は今日も変わることはなかった。
〜5日目〜
街は平和だった。
誰も違和感を抱いていない。 それが当たり前なのだから。違和感だと認識できているのはあかりとカトレアだけなのだ。
「ねえ、あなた本当にこれでいいの?」
カトレアの声は少し弱かった。目に隈ができ、表情に覇気がまるでなかった。
「コンプレックスってね、比べるから生まれるの」
あかりは鏡を見ながら言う。その顔には自信が漲っていた。今までのあかりには考えられないことだった。
「比べる対象がなければ、苦しまない」
「あなたは苦しまなくても、私は苦しいの!」
「それは自分の価値を胸に置いてるからでしょ。私、自己中な人嫌いなの。もちろん、自己中な女神もね」
カトレアは絶句した。そして再考した。
どうすればあかりの価値観を変えられるのか。
「もしも元の世界に戻してくれたら貴方の胸を好きなサイズにしてあげるから!!」
「ううん、いいの。もう私に胸なんていらない。このままのいい」
あかりは意地を張り続けた。もとより、他人に口出しされて意見を変えるのを嫌うあかりと、交渉し続けるカトレアとでは相性が最悪だった。
そして世界は変わることのないまま、取り消しが可能な最終日を迎えた。
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