第7話 また会えたなら、〜礼里彩波の物語〜
8月14日。
明日が最後の日。1ヶ月がすごく短かった。
「…あと少しだね。」
何がとは言わない。でももちろん伝わるそれが、より現実を知らしめる。いつまでも続いて欲しい。
「うん。だね。」
蒼夜がこちらに向き直って
「ねぇ、彩波。明日もそばに居たい。」
なんて言うからさ、また期待してしまうじゃん。蒼夜が私のことホントに好きで、って。
御伽噺の世界では死も呪いも、真実の愛が助けてくれる。もしかしたらって思ってしまう。
目が熱くなるのをグッとこらえる。
「…プハッ!もう、急に何…?当たり前…じゃん。」
あぁダメだ。溢れ出てしまう。蒼夜がじっとこちらを見つめてる。女の子の泣き顔なんて見ちゃダメだよ。
「もう、そんな見ないでよ、恥ずかしい。堪えてたのに。てか、フェアじゃないし、蒼夜も少しくらい泣くとかさないの。あぁ、もう。」
言葉が止まらない。記憶が無いとはいえ、死んで1ヶ月の繰り返し。何となく私の方が大人のように思えて、泣くなんて出来なかった。大人っぽくお姉ちゃんみたいに最後まで振舞っていたかった。
「恥ずかしくて言ってねーけど、俺だって泣くとか会ったし。折角こんな気があったのにすぐに会えなくなるんだもん、悲しいのは当たり前じゃん。」
そうだったんだ…。蒼夜の言葉に返事がしたくても何も思い浮かばない。それくらい一言一言が暖かい。
「てか、彩波こそ、あと少しとか言っときながらスンってしてるし、俺だけかと思った。」
そんなわけないじゃん…。あぁ、もう。好き、大好き。こういう言葉の全部が雰囲気が愛おしくて、大切だった。涙で別れたくなんかない。顔がグッしゃグッしゃなのを承知で無理やり笑顔を作る。
明日は最後。しっかり言いたいことを言ってから消えれるように!
「ねぇ、明日さ!いつもより早く会お?そして夜ご飯一緒に食べたい。一昨日いい匂いさせてたご飯屋さん行きたい。」
「あぁ、あそこね。俺も最後に…行っときたかった。朝8時半とか?」
絶対に足りない、もっと早く。あでも、迷惑かけれない。
「んー、いや、8時にしよ。どうせ時間足りないよ。」
「オッケ、8時な。」
ごめんね蒼夜。蒼夜の最後の日に何があっても私は行けない。すごいこと言ってるってわかってる。でも、明日は何があっても会いに来て欲しい。そう思い小指を差し出す。
「約束。ね。」
「うん、約束。また、明日な。」
照れくさそうに指を結んでくれた。
カウントしていいか微妙だけど初めて手を取ることができた。たぶんこれが最後。ちゃんと手を取ることは出来ないだろう。
「……うん。そう、だね。また、あした。」
迎えたくなかった最後の明日を受け入れる挨拶すら、大切にしたかった。ホントは言いたくない。でも、言わないと後悔しそうだったから。
部屋についても涙が止まらない。これで目腫らして最後がブスなんて冗談じゃないから、しっかり目を冷やして早いうちに寝ることにした。
今までで1番可愛い私でいたいからってめっちゃ髪整えて、笑顔も練習して。出る直前少し泣いたけど跡にはなってない。部屋を出てしばらくして戻り、おばあちゃんのデジカメを手に取る。病室にいる間の唯一の楽しみだったおばあちゃんの写真達は宝物だったから、そこにぜひ今1番の宝物を入れたかった。
海岸に着くともう蒼夜がいた。まだ待ち合わせの10分前なのに。
「おまたせ〜!早いじゃん蒼夜、寝坊しなかった?」
「とか言う彩波がしたんじゃねーの?」
「はー?してないしー?」
こんな会話ですら愛おしくて泣きたくなる。
来たばかりは違和感あるくらい白い肌が健康的に焼けてきて、少しつり目で大きな目は横から見るとすごくまつ毛が長い。この姿を見るのも今日が最後。そんなの嫌だから、私は最悪のお願いをする。
「ねぇ、写真撮っていい?」
もちろん私の、でも、私と、でもない。蒼夜の写真。
「え、あぁ。もちろん。てか、いいの?」
「あ、私の写真じゃないよ。蒼夜の。」
「あぁー、そーゆう?酷くね、俺だけとか。」
「女の子には女の子の悩みがあるの。モテないよ?」
んなわけあるか。こんなかっこよくていいやつがモテないならそれは世界がおかしい。
「よけーなお世話ってやつだわ。」
「アハッ、ごめんごめん。ほらこっち見て!」
そう言ってデジタルカメラを蒼夜に向ける。
パシャッ
画面に映る彼の姿。現実の方がずっといいけどこれで大丈夫。
「うん。撮れた、…ありがとう。」
「こんくらいいいけど、こういうのって明日やるもんじゃね。」
私にとっては今日だからしかたないんだよなぁ。
「うーん…。まぁ、そうかもだけどね、今思いついたし。…明日忘れたら嫌じゃん。」
「いや、そこは忘れんなよ。」
なんて言おうと悩んだけど、全て冗談っぽくすればいい。
「明日には自信がないんだよ」
今、私は上手く笑えてるのだろうか。
コンビニでいつもと同じおにぎりをお昼ご飯に買う。コンビニから少し歩いたところにある滑り台だけの小さな公園の東屋でお昼ご飯を食べるのがいつものルーティンだ。
蒼夜の方は眺めがよく海が見えるはず。海が嫌いと言った私のためか蒼夜はいつもそこに座る。少し話してると背中が太陽の陽を浴び始め夕方が近づいたことを教えてくれる。いつもならここで解散だけど、最後だからって言ったわがままで、まだ一緒にいれる。
一昨日気になるねって話してたご飯屋さんは海鮮の定食屋みたいで、おすすめ今日の焼き魚定食を頼む。気を使ってくれたのか、私と蒼夜には違う魚がでてきた。どちらも脂が乗っててすごく美味しくて。目の前には大好きな人がいて。
最後の晩餐に最適だった。
「明日も8時?」
「?」
口に魚を頬張ってるから返事ができない。
「明日の待ち合わせ。明日こそ17時の船だから、16時30分には港行かないとだし、会える時間短いじゃん。」
そっか、終わる気でいたけど蒼夜にとっては違うから。会えないなんて言えない。でも。会えるって言っちゃいけない。
「あーそうだね、起きれたら!」
「あ、やっぱ今日寝坊したんだろー!」
「いーじゃん今日のことはさぁ。」
「あと、良かったら見送ってくんね?出るの。」
「えー。恥ずいじゃん」
嘘を嘘で固めて誤魔化して。ホントのこといっちゃえよとか思っても、ダメだから。
「え?何が?」
「だってお母さんとかいるしょ?高校生なってから友達の親に会うとかないし。」
ごめんね。蒼夜。そんな類の話じゃないし、私だって見送ってあげれるなら見送ってあげたいんだよ。でも。でも、無理だから。
「じゃあせめてギリギリまで喋ろうな。」
その言葉にすら返事が出来ない。
ご飯を食べ終わって外に出る。
いつもの解散する場所へ向かう途中、あぁほんとに最期って思ってしまうとまた頬を何かが走る。気づかないでと声を堪えたものの、ものの数秒で気づかれる。
「ッ。」
蒼夜の息を飲む音が聞こえて数秒の沈黙。この時間がほんとに長くて、でもこれが続けばなんて末期なこと考えてしまう。
そうこうしてるうちに、蒼夜が口を開く。
「めっちゃ寂しいし、会わなかったら島を出たくないとか思わなかったと思うけど、俺は逢えて良かったって思うよ。」
昨日あんなこと言ったから泣き顔を見ないようにしてくれてるんだろうか。ずっと前だけを見ている。
「母さんが元々住んでたとは言え、来たことも無いとこだし、東京とかと比べたら何もないし、きたくもなかったけど。瑠璃唐来てなかったら、それこそ俺の人生はつまらなかったと思う。」
「そんなわけない。」
つい反論してしまう。蒼夜は私がいなくてもまっすぐ進むだろうから、だけど、どうか私のことを忘れないで…?
「絶対そんなことないよ。蒼夜は良い奴だし、つまらないなんてこと絶対ない。蒼夜、このタイミングで来てくれてありがとう。」
ほんとに私がいる夏に来てくれてありがとう、蒼夜。
涙のお別れはいやだったから、何度も泣きやもうとしたけれど、無理だった。
「じゃあ、また明日。寝坊すんなよ、絶対。」
返事ができない。絶対なんて言えない。
何かを感じたのか蒼夜が背を向けて行きそうになって、少しでも最期を送らせたくて、小さく
「じゃあね」
と呟く。聞こえないと思うくらいこの言葉を聞き取って蒼夜は振り返ってとびきりの笑顔を向けてくれた。その顔を見たら笑顔を作らない訳にはいかなかった。
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