第6話 また会えたなら、〜礼里彩波の物語〜

残り15日、折り返しの日を過ぎ、別れという言葉が常に頭を過ぎり始めた。考えないって決めたけど、それはむりだったみたいで、いなくなった私に蒼夜は何を思うだろうか、とか、もしかしたら最終日1日中探し回るかもしれない、とか、心配かけないように消えること言った方がいいんじゃないか、とか、絶対に知られたくない、とか、堂々巡り。


そういえば蒼夜はさすが東京出身でスマホを持ってて、羨ましい。島は普及が遅いんだよって言ったら、そんなに差がある?って驚かれたのを思い出す。

その時は全然使えなかったけど、今はかなり操作できるようになって、パズルゲームってやつをやらせてもらってる。


全然蒼夜のスコアを越せずに頭を悩ましてたら、蒼夜の方からカシャ!っと音がした。

え、撮られた?


「蒼夜?今…。」

どうしようどうしようどうしよう。写真に映らない私をなんて言えばいいの。てか、え?頭が回らない。


「え、いや。どうしても1枚だけ、忘れたくなくて。」


ごめんと小さく呟く蒼夜は多分私の焦りっぷりに驚いてしまったのだろう。

撮られたことの焦りと、その言葉で頭がいっぱいになってしまったが、蒼夜が持つカメラの画面があるだろうところは黒く見えることに気づく。

まだ写真見てないんじゃないか。


「忘れたくない…か。でも、やっぱダメ。消して!」

お願い、蒼夜。わかって。

「あぁ。これインスタントカメラだから消すとかなくて。でも現像しない限り撮った写真も見れないから。約束する。絶対現像しない。」


確かに画面と思ってたところには何も無くただ黒いだけだった。そういえばお姉ちゃんもなんかそういうの欲しいってお母さんにねだってたっけ。


「あぁそういうのもあるんだ。約束してね…?」


これはもう、蒼夜を信じるしかない。せめて現像するなら東京に帰ってから…。いやそれで気づかれてもダメじゃん。

その後はいまいち話も盛り上がらずに解散した。


蒼夜の

「それじゃ、また明日。」

って挨拶にも気が乗らず曖昧に返事をしたと思う。

写真のことだけじゃない。蒼夜は忘れたくないと言ったんだ。その言葉にただただ嬉しいとは思えない。

私には残り14日しかないけど、蒼夜にはまだ何十年と時間があって、高校時代のたった1ヶ月の記憶なんて塵のようなもの。ふとしたきっかけで消えとんじゃうのかも。そんな明日が未来が来て欲しくなかった。




少し気まずい終わり方をしたとはいえ、一日を無駄にしたくない。海岸に行くと蒼夜の姿があって安心した。

蒼夜のお母さんは厳しいらしくて、成績とかうるさいんだって愚痴を聞いて、うちの親もそうだったなって思い同感をする。お姉ちゃんが優秀すぎて、親の基準も高くなって。越えられない壁だった。


「彩波は将来こっちに来るとかないの?」


こっちっていうのは東京のことだろうか。そんなことを考えてる間に蒼夜は言葉を続ける。


「最近、ほら。島とかの人、働くために東京とか本州とか来たりするじゃん。現実的にも仕事そうした方が多いわけだし。てか、ここ大学ないじゃん。」


蒼夜の意見は尤もすぎる。それが理由で姉ちゃんは海の奥へ行ってしまったわけだし。小さい頃1度だけ行った東京は何もかもが違くて華やかだった。もう一度行ってみたいけど、当たり前にそんな時間なんてない。


「うーん。あんま考えてないかなぁ。」


死ぬ前は何考えてたっけ。たしか、中学の時は看護師になりたかったけど、学校行かなくなって勉強出来ないからやめた。


「え?…あ、じゃあ進路とかはどうするの」


すぐに終わると思った話題だが案外蒼夜は気になるみたいだった。東京の子たちはこういう会話を良くするのだろうか。


「んー。特に考えてないよぉ。高校生と言っても1年だし。」

きっと死ぬ前私もそのうちと思ったまま何も考えなかったんだろう。

「じゃあ、東京にきてよ。色々俺案内とかするし。」


あ、そういうことかと腑に落ちる。私が東京に進学すれば、また会えるから。蒼夜はそんな未来を提案してくれてるんだろう。でも、守れない約束をしたくない。だから無理やり話題を変えようとする。


「まあ、そこは追追考えればいいじゃん!それより今のこと考えていたい。ほら、あと13日しかないんだしさ!」


この無理やりがミスだった。


「14でしょ?今日入れないで14日だよ。」

そう、蒼夜が修正を入れる。別れを惜しんで毎日数えてるんだから、間違うはずないと何も考えずにムッとして言う。


「え?13でしょ。ちゃんと数えたし。」


部屋の手帳をいつも小さなショルダーバックに入れていたのでそれを取り出す。




カレンダーの8月、土曜日の欄。15って数字に大きく丸をつけていた。これは私じゃなくて他の子がやってくれたんだろう。

今日の日付からそこまで指を指していく。


「ほら!13だよ。毎日数えるもん。間違えてないでしょ?」


蒼夜ちゃんと毎日数えてよなんて思いながら、じっと見つめる。


「俺8月16日の夕方に出るって言ったでしょ?ちゃんと16日も会えるから1日足して14。ね?」


そう言って私の顔を見返す蒼夜の言葉にハッとする。

何してんだろう私。そうじゃん。私からしたら13日でも蒼夜からしたら14じゃん。わかってたことなのになんで間違えてんだろう。

幸いなことに蒼夜は私が最終日は会えないと遠慮したんだと勘違いしてるからそれに乗っかることにした。


「あぁ…。そうだった。ごめんごめん。…、14、だね?まぁ?短いことには変わりないし?そんな将来の事じゃなくて、今のこと話そ!」

「んー?間違い認めたくないんだろぉー?」

「うっさいなーもう。いいじゃんそんなことー!」


多分ごまかせた?ほんと何してんの、私。バレたらダメじゃん。気づかれたらどうすんの。内心バクバクしていた。


「またあした。」

「ね。」


日が経つにつれこの明日の重みが強くなる。蒼夜よりも少ない私の明日がまた1つ消える。

蒼夜にとって後14日。私にとって残り13日。




今日は島に慣れてきたのか、思ったより早い時間に待ち合わせと解散の海岸に戻ってきたから、久しぶりにベンチに腰をかけて喋る。


「彩波ってさ、彩る波って書くじゃん。どういう由来?」


名前の由来とか久々すぎて驚いてしまう。


「えーなにー?彩はいろどりでカラフルってことでしょ?で波は生命の源の海!だからあわせて…」


この説明はスラスラ言える。お姉ちゃんがはじめて私にくれた贈り物だから。空と太陽を意味する彼女の自分の名前と対比して、海からつけたこの名前に込めた思いは彩り豊で力強くて長い人生を歩んで欲しいだ。齢16で命を絶とうとしその後遺症で半年間病室で過ごした挙句命を落とした私には相応しくない、とても、とってもステキな名前。


「…あわせて?」

蒼夜が声を出すまでどれだけ間があったんだろうか。この名前をくれた姉への罪悪感からか続きが出ずに止まっていたのだろう。


「うん。合わせて、色彩豊かで強く長い人生を…って意味。」


あの間を誤魔化そうと頭を掻きながら

「こういうの小学ぶりだからなんか恥ずかしいな。」

と言葉を続ける。


「なんで、いいじゃん。「いろは」って響きもすごく暖かい感じだし、彩波にピッタリだったけど、意味がかっこいい。未来の彩波がバーンッてたってるの想像ついた。」


未来の…わたしか。多分蒼夜が知ってる私の強がりの1面じゃなくて、弱くてクヨクヨした1面が全面に出てるから、きっとそんな未来はありえないと思う。でも、嬉しくないわけない。姉からの名前を褒めてくれて、その名前が私らしいなんて言ってくれて。


「えー?…そうかな。でも私も。…私もこの名前気に入ってるんだ。」


私だけってのもなんなので、蒼夜のも聞いてみることにした。

「蒼夜は?」


蒼い夜なんて見た目からしてかっこよくて都会らしい。それに、蒼って漢字。お姉ちゃんの名前にも入ってたから。青じゃなくて蒼なのがすき。


「え?あ、俺の名前?結構つまんないよ。聡明で頭良くなって欲しいで蒼、静かで長い人生をで夜。」


?あんま蒼夜は自分の名前が好きじゃないのだろうか、あまり反応が良くない。


「へー?なんか意外〜。私の予想では蒼い夜だから夜明け直前の夜なのかなって。陽が指し始めて周りが明るくなる所。変化の時間。始まりの時間。蒼夜に結構ピッタリじゃん。蒼夜は静かってより変化たっぷりでしょ。」


それに夜明けは海から太陽が出てくるから。海に消えていったお姉ちゃんが、戻ってくるんじゃないかって思える。私の人生を明けてくれた蒼夜にピッタリな名前。


蒼夜の

「じゃあ、また明日ね。」

に、またあしたと返すのがなんだか怖くなってきた自分がいる。

「うん。」

後私にとって残り12日。




こうやって1日1日また過ぎていく。いつまでも続いて欲しいって蒼夜が神様に祈ってる横で、ただただ死を迎えた後悔と、蒼夜に忘れて欲しくないと祈り続けたあの日。自転車を借りれる場所ができてて、その自転車で島をぐるっと回ったあの日。日記帳が段々と埋まり、あと数日分の欄を指でなぞる。なにかの奇跡で8月16日を迎えられるかもしれない。とか無謀な思いを抱きながら…。

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