また会えたなら、〜礼里彩波の物語〜

第5話 また会えたなら、〜礼里彩波の物語〜

私にまだ時間があったなら。この大嫌いな海を飛び越えて、あなたを追っていくのに。この海を超えたらあなたに会える。そして、もう1人私の会いたい人がいるのに。

私に時間さえあったなら。

あぁ、私の夏よ、終わるな。




目が覚めると白い天井に壁床がある小さな部屋にいる。開いた小窓からは柔らかい陽と潮風が吹き抜ける。


ここはどこだろうか。私礼里彩波はさっきまで病室にいたはずだ。あぁ私死んだのか。ここは天国なんだろうか、地獄に行くと思っていたけど、天国に来れたのか。


そんなことを考えながら白い布団のベットから出る。ベットのそばにある白い木のデスクにはノートとペンとデジタルカメラがあった。

病室の棚に置いていた、日記帳と、お姉ちゃんが使ってたお下がりのキャラペン。病室で暇だろうからといつも写真を取ってきてくれるおばあちゃんのデジカメ。親切な世界だと、笑いながら日記帳を開く。




2009年7月13日私の記憶の最後の日に書いた日記の続きの日に文章が続いてる。7月15日から8月15日までの1ヶ月間10行くらいの文章があって1行事に番号が振られている。読んでみると3番目くらいまでは家族に会いに行った話を毎日書いてる。


でも、重要なのは次だ。


4番目の7月15日、家に行ったけど家族がいなかった。今までの日記的にこの人たちは違う私なんだろうから、世界線が毎回違うのかも。


そう書いてあり他の日にも家に行ったようだが家族に会えなかったようだ。4番目の8月15日おばあちゃんに会いたいと一言だけ書いて終了してる。


予想するに、7月15日からスタートして8月15日に終わる時間を何度も色んな世界線でこの他の私は過ごしてきたのだろう。

つまり私も1ヶ月だけ時間がある。何人かがこのループを抜け出してより時間過ごせるように、または、完全にタヒねるようにと情報を残すって書いてる人がいたから、私も日記をつけることにした。

自殺をしようとしたのだから私だって楽になれるならなりたい。でも、時間を欲した人はかなり楽しい1ヶ月を過ごせたようだ。日記には学校に行ってる私はいない。学校に行ってないんだからあいつらが出てくることもない。

自由な1ヶ月を過ごそう。とりあえず、会えるならおばあちゃんには会っときたい。それと、もしかしたら、世界線が色々あるなら、お姉ちゃんにも会えるかもしれない。


私が6歳の時、12個離れたお姉ちゃんは高校卒業と同時に瑠璃唐島を出て東京に行った。それ以来島に帰ってくることもなかったし、手紙も高いし、子供だから携帯だって持っていない。1年くらい前にニュースになったスマホってやつも当時はなかったし、今も当然持ち合わせてない。


大きな少しつり上がった目に長いまつ毛、整った顔で、成績も優秀で明るくて友達も多かった、お姫様のような姉は私の誇りだ。


そんな姉に対して、中学の事件をきっかけに学校に行かず進学した高校も単位が足りなくて課題をこなす必要があるくらい行かなかった私を、中学時代から両親は失望していて、1年前くらいに私をおばあちゃんに託して、東京に行った。

だから、私が会いたいのはおばあちゃんとお姉ちゃんだけ。




部屋の外に出ると私の知ってる瑠璃唐の景色が広がってる。とは言え、半年くらい病室にいたから建物とかは結構変わっていた。おばあちゃん家が幸運のことに近く5分くらいで見えてきた。


人気があるから、おばあちゃんがいる世界線なんだろう。たった1ヶ月でも説明したらわかってくれるる。そう思って足を踏み出したその時、ドアが開くものだから、つい塀に隠れてしまった。

おばあちゃんが出てきたのかと覗いたが、そこに居たのは同い年くらいの青年だった。日に焼けない白い肌、キリッとした大きな目が都会っぽくて島に似合わない。


でも、あんなやつ知らない。高校が同じでもほとんど行ってないから違う中学のやつだったら知らない奴も多いだろうけど、あんな目立つ容貌なのに?と言う疑問も残る。大方、世界線の違いってやつだろう。家の中からはまだ話し声が聞こえる。多分あの子の両親だ。つまり、私はおばあちゃんに会えない私だった。




関係ないとはわかってるけど、腹立たしくてあの青年になんか言ってやらないと気がすまなかったから後ろからおってみる。

ただ真っ直ぐぼーっとしながら足を進めるあの青年は右手に出てきた海岸を見ると方向をかえ、靴を脱いで海に足をつける。


なんて言おう、お前のせいでおばあちゃんに会えないなんて言ってもただの変なやつだし。あいつが私を知らなければ学校をサボってる高校生として注意ができるんじゃないかと思い、背後から声をかける。


「君学生だよね?学校は?」


あいつは肩をビクッと動かしこちらを振り向く。

うん、動揺してる。きっとサボってるんだ。

少し戸惑った顔のままあいつは

「……君こそ。」

と反撃してきた。

実際私もサボってるし反論はできない、どうしよう。頭が固まってしまう。


「俺は休校になったから親戚の家に来ただけだよ。それで?君は?」


休校?こんな真夏にインフル?なんで?ていうか私にも聞くって事は瑠璃高の生徒じゃないのか。瑠璃高も休校なのだろうか。分からないし、適当なことは言えない。


「えー?うーん。秘密、かな!」


いや、さすがに苦しいぞ私。あいつも変な顔をしてこっちを見ている。




あっちも暇してたらしく、日がくれるまでなんだかんだ話してしまった。あいつの名前は岸本蒼夜、東京の高校の1年で、インフルじゃない感染症が流行ってるから休校らしい。清潔感あるし、目もすごく惹き付ける感じで正直かっこいい。


蒼夜が横で何がぼそっと呟いたけど聞き取れなかったら、

「え?なんか言った?」

って聞き返したけど、

「いや、なにも。」

と誤魔化されてしまった。




意外と楽しい時間を過ごせた。腹いせに何か嫌がらせをとか思ってたけど、結構話も盛り上がった。ノリもいいし、よく笑ってくれるし。少しお姉ちゃんを思い出す。


まぁ、明日もあってあげないこともないかな。

そう思いながら、今までの私に倣ってペンを取る。


7/15⑪おばあちゃんには会えなかった。家には知らない家族が住んでてその息子の岸本蒼夜(きしもとそうや)と、


少し悩んでから、仲良くなったって付け足す。1日中話してたし別に間違ってはいない。




あれから二三日経った。その間約束した訳でもないけど、毎日、あの海岸に向かう蒼夜を見るものだから私も向かう。

少しずつ話せる話題も増えてきたから、いつも海岸であってそこで話して解散していたけど、1つ提案をしてみることにした。


「明日はさぁ、あの山の方に行かない?」

「山?別にいいけど。」

「私、海ってホントは嫌いなんだよねー。」


お姉ちゃんを連れて行ってしまったから。最後に見たのは船からこっちに手を振る姿で、それがどんどん小さくなっていった。姉の名前の漢字が青空の太陽という意味なのだと知った時、海に太陽が沈む姿と姉が重なってから、海が、とりわけ夕方の海が嫌い。蒼夜と別れてから部屋に戻るまでの時間に沈み始める太陽をいつも見ていたから、せめてこの時間だけでも、他のものを見ていたい。


「何が嫌いなの?磯の匂いとか?」


蒼夜の質問は少し予想だにしないものだった。磯の匂いって、嫌いになるものなの?島中が潮風でこの匂いしてるから気にならなかった。


「いや、どっちかと言うと好きかなぁ。嫌いなの?磯の匂い。」

「まさか。俺も…好きだよ。えっと嫌いな人って多いじゃん?」


俺も好きなんて言葉に浮かれてる自分に呆れる。私のことじゃないっつーの。あぁ、もう。完全に惚れちゃってるんだろうけど、蒼夜は島の人じゃない。そのうち帰ってしまうし、1ヶ月したら私も消える。告白して変な関係になるよりも今のままの方がいい。それに急に消える変なやつなんかじゃ相手にもならないでしょ。




またいつも通り約束もなく会っては喋る1日。終わりがあるのはわかってるけど、いつまでも続いて欲しい。蒼夜の声で心が安らいでしまうくらい聞き馴染んでしまった。


「ねぇ。」

「ん?あ、ちょっと!」


ぼーっと空を見てたら蒼夜に呼びかけられ顔を向けると、スマホのレンズがこっちに向いてる。多分カメラアプリってやつだ。撮られる前にいやって伝えようと手をのばす。


何時かの7番目の私の日記で、おばあちゃんのデジタルカメラは景色だけで私はいないからと自分を撮ったら映らなかったって書いてあった。みんなが見えてるとはいえ1度命を失った身だから、幽霊みたいなものってことだろう。


そんな事実蒼夜に知られる訳には行かない。


「あ。わりぃ。写真嫌いだった?」


申し訳なさそうな顔する蒼夜に胸が締め付けられる。


「え?あーなんて言うか、写真映り悪いんだよね。だからしっかり記憶に残るのが写真の私なの嫌。」


何度目かの嘘。最後のセリフに少し照れながら適当なことを言う。私のホントをバレないように。蒼夜が帰るまで隠しきるために。


「そっか。…あ、俺島出るの16日の夕方になった。8月の。」


え?8月の16日。つまり私が消える方が早い。休校ってそんなに長いの。見送りに行かない私を蒼夜になんて言えばいいの。

何も返事をしない訳には行かないから、


「8月16日って、そっか。1ヶ月あるんだ。なら、楽しまなきゃだね。」


そう言って他の話題にそらす。これは本音。もっと短いと思ってたから1ヶ月に延びたのは嬉しいけど、どうしようか。

その後何話したかなんて覚えていない。貴重な時間なのに。




「じゃあまたあした。」

「…あ、うん!また明日!」


別れ際急にそう、蒼夜がいうものだから少し戸惑いながら返事する。今までそんな挨拶してこなかった。そっか、写真撮りたかったのも、別れの日が明確になったから思い出を求めたんだね。それがうれしかった。私に私たちにずっとはないけど、まだ、明日はある。

私が消えるまで後28日。明日はまだまだある。




きっとおばあちゃんに会うとかお姉ちゃんに会うとかは、他の私がやってくれるから。この私にだけあった蒼夜との出逢いを大切にしたい。

別れの日をどうするかより、毎日を楽しみたい。

蒼夜の話しっかり聞いて、私は消えちゃうけど、その後を生きる蒼夜に私の存在を残したい。

あぁ、時間が足りないや。私の時間が止まればいいのに。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る