4話

実戦出動の三十分前。

 七二一と一二七は、同時に呼び出された。


 協会本棟、上層区画。

 普段の番号持ちたちが足を踏み入れない階層。


 無音の廊下。

 床は石ではなく、磨かれた金属だ。

 足元に、自分たちの姿が歪んで映る。


 一二七が小さく口笛を吹いた。

「珍しいね。二人同時」

「……そうですね」


 重い扉の前で停止する。

 認証灯が青に変わり、音もなく扉が滑り開いた。


 室内は広く、一切の装飾を排している。

 中央に机。その背後には巨大な窓。

 逆光の中に、一人の女性が立っていた。


 年齢は読めない。

 姿勢は微動だにせず、視線にも揺らぎはない。


「七二一。一二七。前へ」


 感情を削ぎ落とした、冷たい声。


 二人は並ぶ。

 机の上の端末には、青い光のラインが静かに走っていた。


「今回の任務、君たちは同班だ」


 一二七がわずかに目を細める。

「理由を伺っても?」

「適合率が高い」


 それだけだった。


 司令の視線が七二一へ向く。

 射抜くような、値踏みするような視線。


「任務は制圧。感情で動くな。班の均衡を崩すな」


 一二七の指先が、わずかに強張る。

 七二一は横目でそれを捉え、呼吸を整えた。


 一二七が薄く微笑む。

「乱れたら?」


 わずかな沈黙。

 司令は瞬きもしない。

「逸脱は、即時ペナルティだ」


 平坦な言葉の重みが、室内の空気を沈ませる。

 七二一は視線を逸らさない。

 司令の瞳の奥に、ほんの一瞬だけ、何かが走った気がした。

 興味か、警戒か。それとも――


「以上だ」


 扉が開く。

 二人は退出した。


 静かな廊下を、並んで歩く。

 足音だけが規則正しく響く。


 一二七が小さく息を吐く。

「私たち、試されてるね」


 七二一は否定しない。

 ただ前を見つめたまま、わずかに視線を動かす。

「怖い?」


 問いは軽い。だが瞳は真剣だった。

 七二一は、少し考える。

 胸の奥に沈殿した“熱”を探るように。

「……分からない」


 一二七が笑う。

「私は、少しだけ楽しみ」


 明るい声。

 けれど奥に、細い震えが混じっている。

 七二一だけが、それに気づいた。


 遠くで、出動鐘が鳴る。

 静寂が終わる音。


 一二七の肩が、わずかに揺れる。

 だが次の瞬間、その震えは消えていた。

「行こっか」


 いつもの調子。軽い声。

 七二一は歩き出しかけて、ほんの一瞬だけ立ち止まる。


「一二七」


 呼び止めるほどの強さはない。ただ、確かめるように。

 彼女が振り返る。


「……無理はするな」


 短く、不器用な言葉。

 一二七は目を丸くし、それから小さく笑った。


「それ、そっくりそのまま返すよ」


 一歩、距離が縮まる。

 肩がかすかに触れる。


「乱さないよ。ちゃんとついていく」


 七二一はうなずく。

 鐘が、二度目に鳴る。


 今度は、二人同時に歩き出した。

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