異世界で脱毛してくれる人、探してます!

ニッカ

異世界で脱毛してくれる人、探してます!

 魔王が倒されて3年。世界は平和になったが記事の価値は落ちた。戦況も、勇者の活躍も、美談は酒場で2杯目のエールが運ばれてくる頃には忘れられている。


 では人々が2杯目のエールを飲むときに何の話をしているのか。今売れるのは『ゲス』だ。勇者が受け取った年金は金貨いくらか?僧侶は今でも信仰を続けているのか?あの可愛い魔法使いは今でも独り身なのか?王女のスキャンダルの行方は?

 

 だから俺は旅をしている。勇者の道のりを辿り、彼らの真実を、英雄譚の裏側を表に引きずり出すために。


 街に着くたびに勇者一行と関わった人物を探すと大体答えは決まっている。武器屋だ、防具屋だ、宿屋だ。それもそうだろう。王宮のお偉いさんやギルドマスター、そんな重要人物と俺のような場末の記者が会えるわけがない。


 俺が会えるような庶民じゃ大した話は聞けないのだ。何しろ伝え聞く勇者達の話はどうも綺麗過ぎる。チンピラから守ってくれた、異世界の物凄い知識で大儲けさせてくれた、気前よく奢ってくれた、などなど。


 違う、俺が知りたいのはもっと汚い話だ。もっとゲスで、嫌な笑みを浮かべられるやつ。


 だが結局、そんな話は聞けないままに俺は場末の酒場で飲んだくれていた。本当に、本当に奴らは非の打ち所がない奴らなのか?


「アンタかい?勇者達の話を聞いて回ってるってのは」


 そんな俺に話しかけてきたのは、腰の曲がった老婆だ。剣も持たず、魔法も唱えず、勲章も持たない、どこにでもいるような婆さん。


「なんだ婆さん、宿屋の主かなんかか?もしくは薬草売り?」


「はっ、そんなんじゃないさ。だがね?」


 老婆はニヤリと笑って顔を近づけてくる。




「あの子らが世界を救う前夜、一番忙しかったのは、アタシさね」




「はぁ、アンタが。そりゃ凄そうだが、一体何者だって言うんだ?」


 ぶっきらぼうな口調で答えるが、俺は本能的にペンとメモを手にしていた。この老婆、何か他とは違う。理屈はない、記者としての勘がそう言っている。


「ま、勇者達が綺麗でいれた理由ってやつかね」


「綺麗?あー浄化とか?祈祷師?」


「はっ、そういう聖なる何かとかはわからんよ」


「勿体ぶらずに教えてくれよ婆さん」


「かー、喉が乾いたねぇ。何か潤す物があれば口も回るってもんだけどー」


「……わかったよ、おっちゃん、この人にエールを」


 運ばれてきたエールにすぐさま口をつける婆さん。上機嫌だ。


「それで?喉が潤ったところで話す準備はできたかい?」


「察しが悪いねぇ。勇者パーティーの面子思い出してご覧よ」


「面子だぁ?そりゃよ……」


 転生者とかいう噂の、若い男の勇者。


 ちょっと可愛い感じの魔法使い。


 クールビューティな感じの美女僧侶。


 大胆なアーマーと腹筋が特徴の女戦士。


 あとは時々お忍びで助けにやって来る王女。


「その面子でわからんもんかね」


「わかんねぇよ。美女が多いがよ。洗濯屋か?」


「まー、身だしなみって意味じゃ遠くないがね」


 老婆はグビグビとエールを煽り、大きく息を吐いた後に、遂に身分を明かす。




「脱毛だよ。毛だよ毛っ!!」




「………け?」


「何を隠そう、勇者パーティの脱毛をしたのは、アタシさ」


「だつ、もう?」


「……何だアンタ、脱毛知らないのかい?」


「いや、知ってるけどよ」


 「勇者」と「脱毛」が頭の中で繋がらないのだ。


「ブン屋さん、勇者御一行の装備の話は聞いたんだろ?魔法の布の話さ」


「ああ、鎧よりも軽く鎧よりも丈夫。魔法のベールで攻撃から身を守るって話だが」


「その通り、一見薄着に見えても全身しっかり守られてる。それでいて動きやすい。スグレモノだわな」


「……?」


「増えるわな、露出」


「……まあ、確かに」


 勇者パーティーの人気はその見目麗しさもあった。勇者の顔は整っていて街の女達から人気だったが、やはり民衆から支持を受けていた理由は女性たちだろう。その綺羅びやかな装備、そして露出の多さが度々男達を熱狂させている。


「ほら、必要だろ、脱毛」


「ま、待ってくれ待ってくれ」


 確かにゲスで嫌な笑みを浮かべられる汚い話を求めていた。だが、こういう方向で?


「あ、あの、やっぱり結構生えてるもんなんですかね……。こう、毛とか」


「アンタまさか可愛い女の子は元々毛が薄いなんて思っちゃいないだろうね?」


「いや、それはそうなんだけどよ……。こう、彼女ら特別感あるだろ?」


「なーに言ってるんだい。エルフのエミリーちゃんも鬼娘のシュオンちゃんも魔法使いのロキちゃんも皆みんな何にもしなきゃボーボーなんだよボーボー」


「なんてことを口走るんだババア!」


 脱毛ババアは気にせず2杯目のエールに口をつけている。



「いや、だがよ。婆さんアンタさっき言ったよな?世界を救う前夜、一番忙しかったって。前夜ってことは魔王との決戦前だろ?なんでそんなときに脱毛なんかするんだよ」


「アンタ本当に想像力ってもんがないね。本当にブン屋かい?」


 呆れたようにため息を付く脱毛ババア。


「いいかい、ちゃんと想像しな。明日は魔王との決戦。明日死ぬかもしれない。そんな思いを抱えてんだ。そんなときアンタどうする?」


「……こう、決起集会みたいな」


「ヤるに決まってんだろタコ助」


「うおおおおおおおい!」


「場末の酒場でいい歳のブン屋が何カマトトぶってんだい。そんなの抱く抱かれるしかないにきまってんだろがい。なあ皆!」


「「「おうよっ!」」」


 酒場の客全員からの同意だ。世も末である。


「いいかい、冒険中ってのは手入れをする暇もない。そんな中でこの街にたどり着いて、その後さっさと最終決戦ってわけだ。タイミングはあの夜しかない。まさかボーボーで勇者に抱かれろって?」


「そのボーボー言うのをやめろぉ!!」


「勇者一行がこの街についたとき、あたしゃピンときたね。パーティ全員にコッソリと声をかけたのさ。アタシなら即日でツルツルにしてやれるって」


「とんでもねぇやり手だ。……待て、全員?」


「ああ、全員さ。勇者含めてね」


「……勇者も脱毛を?」


「……アンタ男は脱毛なんかしなくていいと思ってる口かい」


「そうは言わないけどよ」


「勇者ね、ケツまでやったよ」


「ケツまで!?」


「ああ失礼、VIO全部ね」


「VIO全部!?」


「ああ、始めての脱毛で全部行きやがった。まさしく勇者とはアイツの事だね」


 脱毛勇者、それは果たして名誉な称号なのだろうか?


「勇者ね、泣いてたよ。あまりにも痛すぎて」


「泣いたのか勇者!?魔王軍幹部の一撃食らっても屁でもなかったあの勇者が!?」


「ああ、王宮の宝物庫の場所吐いてたよ」


「あの魔王軍の拷問でも口を割らなかった勇者が!?」


 あの勇者、確か転生者の能力とかで攻撃を食らっても痛みをほとんど受けなかったはずなのに。


「脱毛は攻撃じゃないよ」


「そりゃそうだけどよ!」


「泣きながらケツを向ける勇者を見た女は、この世界にアタシしかいないだろうね」


「可哀想に勇者……」




「というか、他のメンバーも全員脱毛したのか?」


「だからそう言ってるだろ。全員なんて忙しかったんだから」


「……やっぱ痛そうだった?」


「いや、流石は天下の勇者パーティーだよ。おっぴろげて毛根焼かれても全員身じろぎもしない。覚悟ってのはああいうのを言うんだ、大した女傑だよ」


「……魔法使いも?」


「魔法使いも」


「そっかぁ」


 やだなぁ。なんかやだなぁ。



 言葉にしづらい妙な気分になりながら脱毛ババアの話を聞いていたがそこでふと思う。


「俺、脱毛のことよく知らないけどよ。脱毛してすぐに、こう、なんというか、夜を迎えられるもんなのか?ヒリヒリするものなんだろ?」


「ヤれるのかってことかい?」


「わざわざ言い直すなよ」


 脱毛ババアは少しだけ考える素振りを見せると俺の手に指を向ける。


「せっかくだしちょっとやってみるかい、脱毛」

「ここで!?」


 すると脱毛ババアの指先から小さな魔法陣が現れる。


「なになになになに!?魔法!?」


「ああ、脱毛魔法さ」


「脱毛魔法ってなんだよ!」


 その瞬間、魔法陣から無数の紫色の光線が放たれる、俺の指に向かって。


「イタタタタタ!あっつ!ああっつ!」


 老婆とは思えない馬鹿力で俺の腕はカウンターに押さえつけられている。数秒のはずの時間が何倍にも引き伸ばされたような感覚がした。


「これでも最低出力だよ。ほれ、ブン屋さんの指毛、全部消えたよ」


「痛ぇよ!勝手に脱毛すんな!」


 確かに綺麗さっぱり指毛が消えている。毛根から焼かれたらしい。


「でもすっげぇヒリヒリするぞ。痛くて触れたくねぇ」


「だからこうすんのさ」


 脱毛ババアが懐から瓶を取り出し、空いたグラスに注ぐ。これは、ポーションだろうか。


「数分つけときゃ治る。便利なもんだね」


「……そりゃ怪我を瞬時に治すポーションがあれば皮膚の火傷くらいすぐ治るか」


 脱毛ババアに勧められるままポーションに指を突っ込む。痛みはあったが大した火傷じゃない。ものの数分で綺麗に戻った。


「勇者達も……ケツにこれを?」


「いやVIOにこれを」


「具体的にしないでくれる!?」




 だが、ここで1つ疑問が浮かぶ。


「ポーションの仕組みなんか知らないけどよ、毛は回復しないんだな」


「……アンタ、急に察しがいいじゃないかい」


 急に、脱毛ババアの声が低くなる。そう言えばさっきの脱毛魔法、あの紫色の光。あれは確か……。



「魔王軍の……魔法?」



「……ああ。今じゃ魔王と呼ばれるアイツも、かつてはアタシと同じ師匠のもとで育った」


「魔王と同門!?アンタまさか偉大な魔法使いの弟子……」


「いや、同じ脱毛サロンの出身さ」


「そっち!?魔王そっち!?」


 魔王の前職脱毛屋。大スクープのような、そうでないような。


「じゃあまさか、魔王が扱うあの恐ろしい『消滅魔法』は……?」


「大きめの脱毛魔法だよ」


「脱毛で世界滅ぼされかけてたの!?」


「魔法なんて皆同じなのさ。向ける相手が人か毛根の違い。アイツはどこで間違えちまったんだろうねぇ」


 脱毛ババアは遠くを見つめながらエールをまた一口含んだ。


 くだらない話ばかりだったが、まとめて誇張すれば良い記事が出来そうな情報が集まった。俺は脱毛ババアに礼を言って席を立つ。


 だが、背中にゾクリとした感覚が走った。これは、殺気?


「待ちなよブン屋さん。アンタ、アタシがなんでこんなにペラペラと顧客の情報を話したと思う?」


「はっ、知らねぇよ。こちとら三流ブン屋さ、聞いた話はすぐネタにしちまう。今更口封じでもするかい?」


「気をつけな。アタシの指先は、アンタの頭を向いている。いつだってアンタの髪を永久脱毛出来るんだよ」


「すいません、勘弁して下さい」


 すぐさま土下座をした。本当に勘弁して欲しい。


「なぁに、簡単なことさ。報酬は払ってやる。その代わり、コイツを記事にしてくれればいい」


 そういうと老婆は1枚の紙を差し出す。それを読んだ俺は頭を抱えた。


「アンタ、最初からこれを……?」


 脱毛ババアはニヤリと笑う。


「アンタが街に来たって聞いたとき、ピンと来たのさ」








 後日、俺の書いた記事にはこんな広告がついていた。


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