第10話 王都への旅立ち 〜新たなステージへ〜

 王都ダンジョンへの挑戦を決めてから、三日が経った。


「準備は整いましたか、タナカさん?」


 ミラが目を輝かせながら聞いてくる。

 彼女は当然のように同行を申し出ていた。


「ああ。装備も補給も万全だ」


「私も、ご一緒させてください」


 リーナも名乗りを上げる。

 元パーティの回復役。今では俺の配信の常連視聴者だ。


「リーナさんも来てくれるのか?」


「はい。セイイチさんの力になりたいんです。……あの時、何もできなかった償いも込めて」


 俺は少し考えてから頷いた。


「わかった。二人とも、よろしく頼む」


「「はい!」」


 ミラとリーナの声が重なる。

 二人は顔を見合わせ、少し気まずそうにしていた。

 ……ライバル意識でもあるのだろうか。


 ◇◇◇


 出発の日の朝。

 俺たちはヴァンシュタイン公爵邸に立ち寄った。


 フィーネに、出発の挨拶をするためだ。


「タナカ様……」


 フィーネは寂しそうな顔をしていた。

 体が弱い彼女は、俺たちに同行することができない。


「必ず戻ってくる。配信も続けるから、見ていてくれ」


「はい……。でも、私も行きたかった……」


 その言葉には、深い悔しさが滲んでいた。


「フィーネ様」


 リーナがフィーネに歩み寄る。


「私も以前は、体が弱くて冒険に出られませんでした。でも、神官の修行を続けるうちに、少しずつ強くなれました」


「……本当ですか?」


「はい。だから、フィーネ様も諦めないでください。いつか、一緒に冒険できる日が来ます」


 フィーネの目に、小さな光が灯った。


「……ありがとうございます、リーナさん」


 そして、フィーネは俺に向き直った。


「タナカ様、これを」


 差し出されたのは、あの『星の涙』だった。

 母親の形見のペンダント。


「これは……?」


「お守りです。必ず、返しに来てくださいね」


 俺はペンダントを受け取った。

 ずしりとした重み。彼女の想いが込められている。


「ああ、必ず返しに来る。約束だ」


「はい……。お気をつけて」


 フィーネは窓辺に立ち、俺たちを見送った。

 その姿が小さくなるまで、俺は何度も振り返った。


 ◇◇◇


 王都までの道のりは、馬車で五日ほどかかる。


 俺たちは商人の護衛を兼ねて、キャラバンに同行することにした。

 護衛料を払う代わりに、馬車に乗せてもらえる。一石二鳥だ。


「タナカさん、道中も配信しますか?」


「いや、温存しておく。王都ダンジョンで全力を出したい」


「なるほど、さすがです!」


 ミラは相変わらず元気だ。

 リーナは静かに本を読んでいる。回復魔法の勉強らしい。


 対照的な二人だが、どちらも頼りになる仲間だ。


 馬車に揺られながら、俺は窓の外を眺めた。


 王都ダンジョン。

 この国で最も難しく、最も報酬が豪華な場所。

 そして、配信者たちの聖地。


 俺はそこで、何を見つけるのだろうか。


 ◇◇◇


 三日目の夜。

 キャラバンが森の中で野営していた時だった。


「タナカさん、起きてください!」


 ミラの声で目が覚めた。

 外が騒がしい。剣戟の音と、悲鳴が聞こえる。


「何事だ?」


「襲撃です! 黒いローブの集団が……!」


 俺は剣を手に、馬車を飛び出した。


 そこには、十人ほどの黒ローブの集団がいた。

 彼らは商人たちを襲い、護衛の冒険者と戦っている。


「お前が配信者タナカか」


 黒ローブの一人が、俺に向かって言った。

 フードの奥から、冷たい目が覗いている。


「そうだが、お前らは?」


「知る必要はない。お前は、ここで消える」


 男が剣を抜く。

 俺は即座に【鑑定】を発動した。


【黒衣の暗殺者】

所属:配信ギルド暗部

強さ:B級冒険者相当

弱点:右膝に古傷

装備:毒塗りの短剣

任務:配信者タナカの排除


 配信ギルドの暗部。

 あの時、専属契約を断ったことが原因か。


「……なるほど。配信ギルドの刺客か」


「知っていたか。だが、どうせお前はここで終わりだ」


 暗殺者たちが一斉に襲いかかってくる。


 だが、俺には【鑑定】がある。

 全員の弱点、攻撃パターン、すべてが見えている。


「ミラ、援護を頼む。リーナは後方で回復待機」


「「了解!」」


 俺は剣を構え、最初の暗殺者に向かって踏み込んだ。


 王都への道は、まだ始まったばかりだ。

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