第9話 新章への布石 〜王都ダンジョンへの招待〜

 『星降りの遺跡』攻略配信。

 視聴者数は過去最高の8万人を記録した。


 フィーネの依頼を配信しながら遂行し、無事に『星の涙』を取り戻すことに成功。

 引きこもりの公爵令嬢が、配信越しに涙を流しながら感謝してくれた。


 その様子も配信に映り込み、視聴者は大いに盛り上がった。


『フィーネ様美しすぎる』

『タナカ×フィーネ推し』

『公爵令嬢がガチ泣きしてる……』


 正直、そこまで映すつもりはなかったのだが。

 まあ、結果オーライだろう。


 配信が終わり、俺は公爵邸で報酬を受け取っていた。


「本当に、ありがとうございました」


 フィーネは『星の涙』を大切そうに握りしめている。

 その目には、まだ涙の跡が残っていた。


「依頼を遂行しただけですよ」


「いいえ、貴方様は私の恩人です。この恩は、一生忘れません」


 フィーネが深々と頭を下げる。

 公爵令嬢にここまでされると、さすがに恐縮する。


「それと、もう一つお話が……」


「はい?」


「父から、貴方様に伝言があります」


 公爵からの伝言?

 嫌な予感がする。


「『王都ダンジョンの攻略権を与える。興味があれば来い』とのことです」


「王都ダンジョン……」


 王都ダンジョン。

 この国で最も難易度が高く、最も報酬が豪華なダンジョン。

 通常、攻略権は貴族か、国が認めた最高位の冒険者にしか与えられない。


「父は、貴方様の配信を見て感心していたようです。『あの鑑定は本物だ。試してみる価値がある』と」


「……ありがたいですが、王都ダンジョンは流石に……」


「ご検討いただければ幸いです。期限はありませんので」


 フィーネは微笑んだ。

 だが、その目は真剣だった。


「私も、貴方様の王都ダンジョン攻略を見てみたいです」


「……考えておきます」


 ◇◇◇


 公爵邸を出て、宿に戻る途中。

 道端で、見覚えのある顔を見つけた。


「……ガルド?」


「よう、セイイチ」


 俺を追放したパーティのリーダーだ。

 どこか気まずそうな顔をしている。


「久しぶりだな」


「ああ」


 微妙な沈黙が流れる。

 何を話せばいいのか、わからない。


「……配信、見てるぞ」


「そうか」


「正直、驚いた。お前の鑑定、あんな力があったとはな」


「俺も知らなかった。追放されてから気づいた」


「……すまなかった」


 ガルドが頭を下げた。

 これには、さすがに驚いた。


「俺の判断が間違ってた。お前を追放するべきじゃなかった」


「……」


「謝って許されることじゃないのはわかってる。だが、言わせてくれ」


 俺は少し考えてから、口を開いた。


「ガルド、お前の判断は間違ってなかったよ」


「え?」


「あの時の俺は、実際役に立ってなかった。追放は妥当だ」


「だが……」


「むしろ、感謝してる。追放されたおかげで、俺は自分の力と向き合えた」


 これはリーナにも言ったことだ。

 本心から、そう思っている。


「お前が追放してくれなかったら、俺は今もパーティの荷物係だったかもしれない」


「セイイチ……」


「だから、気にするな。俺は俺の道を行く」


 ガルドは複雑な表情を浮かべていたが、やがて小さく笑った。


「お前、変わったな」


「そうか?」


「前は、もっとオドオドしてた。今は自信に満ちてる」


「環境が人を変えるってやつだろ」


「違いない」


 俺たちは握手を交わした。

 わだかまりが消えたわけではないが、少なくとも一区切りはついた。


「じゃあな、セイイチ。……いや、タナカ」


「ああ。達者でな」


 ガルドは去っていった。


 ◇◇◇


 宿に戻ると、ミラとリーナが待っていた。


「タナカさん! 配信見ました! 8万人すごいですね!」


「セイイチさん、おめでとうございます」


「ああ、ありがとう」


「それで、王都ダンジョンの話、本当ですか?」


 ミラが目を輝かせている。

 どうやら、配信で公爵の伝言が流れていたらしい。


「本当だ。攻略権をもらった」


「行くんですか!?」


「まだ決めてない。王都ダンジョンは、さすがにソロじゃ厳しい」


「じゃあ、私も行きます!」


「私も、お手伝いできることがあれば……」


 二人とも、目を輝かせている。

 どうやら、俺一人の問題ではなくなってきたらしい。


「……考えておく」


 俺は曖昧に返事をした。


 王都ダンジョン。

 この国で最も危険な場所。

 だが、最も報酬が豪華な場所でもある。


 挑戦する価値は、あるかもしれない。


 元社畜のダンジョン配信者。

 その冒険は、まだ始まったばかりだった。


 ――第一章 完 次章に続く――

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