第5話 リーナの後悔 〜あの人の配信を見て〜

 ――リーナ視点――


「リーナ、見ろよこれ」


 ガルドが興奮した様子で、配信の魔道具を見せてきた。


「なんですか?」


「今、話題の配信者だよ。『タナカ』ってやつ。鑑定スキルがヤバいんだ」


 私は何気なく画面を覗き込んで――息を呑んだ。


 そこに映っていたのは、見覚えのある顔だった。


「セイイチ……さん?」


「え? 知ってるのか?」


「……私たちが追放した、あの鑑定士です」


 ガルドの顔が固まった。


 画面の中で、セイイチさんは淡々とダンジョンを攻略していた。


『このゴーレムの弱点は、左肩の魔力結晶です。そこを破壊すれば動きが止まります』


 正確に弱点を突き、一撃で倒す。

 私たちと一緒にいた時とは、まるで別人のようだった。


『視聴者数:8,000超え!』


「8,000……!?」


 ガルドが絶句する。

 この世界でトップクラスの配信者でも、1万人がやっとだ。


「あいつ、こんな力があったのか……」


「……」


 私は黙って画面を見つめていた。


 あの時、私は追放に反対した。

 でも、強くは言えなかった。ガルドの判断を覆すほどの根拠がなかったから。


 セイイチさんの鑑定は、確かに情報量が少なかった。

 名前と価値しかわからない、初歩的な鑑定に見えた。


 でも、今の彼は違う。

 弱点の正確な位置、攻撃パターン、隠し部屋の場所まで見えている。


 あれは、本当に同じスキルなのだろうか。


『今日のダンジョンはここまで。明日は上級ダンジョン「蒼炎の塔」に挑戦します』


 上級ダンジョン。

 私たちパーティでも、まだ攻略できていない難易度だ。


「……ガルド」


「なんだ」


「私、セイイチさんに会いに行きます」


「は?」


「謝りたいんです。あの時、ちゃんと彼の味方ができなかったことを」


 ガルドは複雑な表情を浮かべた。


「……俺も行くべきか?」


「いえ、私一人で行きます。ガルドが行くと、セイイチさんも構えてしまうでしょうから」


「そうか……。わかった、任せる」


 私は宿を出た。

 セイイチさんが泊まっているという宿を目指して。


 ◇◇◇


 宿の前で待っていると、セイイチさんが戻ってきた。

 以前より、少し精悍な顔つきになっている気がする。


「セイイチさん」


「……リーナさん?」


 驚いた顔をしている。当然だろう。


「少し、お話しできますか?」


「ああ、いいですよ」


 私たちは近くのカフェに入った。


「配信、見ました」


「そうですか」


「すごかったです。あの鑑定、私たちと一緒にいた時とは全然違いました」


「ああ、あの時は使い方がわかってなかったんですよ」


 セイイチさんは淡々と答える。

 怒っている様子はない。それが、かえって申し訳なかった。


「……ごめんなさい」


「え?」


「追放の時、私、ちゃんとあなたの味方ができませんでした。もっと強く反対すればよかったのに……」


 セイイチさんは少し考えてから、口を開いた。


「リーナさん、あなたが謝ることじゃないですよ」


「でも……」


「あの時の俺は、実際役に立ってなかった。追放されたのは当然の結果です」


「そんな……」


「むしろ、追放されたおかげで、俺は自分の力を見つめ直せた。今の俺があるのは、あの経験があったからです」


 セイイチさんは、穏やかに笑った。


「だから、感謝してますよ」


 私は、言葉が出なかった。

 追放した側が感謝される。そんなことがあるのだろうか。


「それより、リーナさん」


「はい?」


「よかったら、俺の配信を見に来てください。応援してくれると嬉しいです」


「……はい、必ず見ます」


 私は、その日から毎日、セイイチさんの配信を見るようになった。

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