第3話 配信開始 〜はじめまして、俺は田中です〜

 配信の魔道具を手に入れてから一週間。

 俺は準備を整えていた。


 まず、装備を揃えた。

 【鑑定】で店の商品を片っ端から調べ、性能の割に安い掘り出し物を見つける。


【錆びた長剣】

価値:見た目的に10ブロン

真の価値:古代の銘剣「月影」の劣化品。研ぎ直せば金貨100枚相当

備考:オリハルコン合金製。現代の技術では再現不可能


 こんな具合だ。

 店主は「そんなボロ剣、5ブロンでいいよ」と言ってくれた。


 そして今日、いよいよ配信デビューの日。

 俺は低級ダンジョン「緑苔の洞窟」の入り口に立っていた。


「……よし」


 配信の魔道具を起動する。

 水晶球が淡く光り始めた。


『配信を開始しました。現在の視聴者数:0』


 まあ、最初はそんなもんだろう。


「えー、はじめまして。俺は田中……セイイチです。今日からダンジョン配信を始めます」


 カメラに向かって話すのは、正直照れくさい。

 だが、前世でプレゼン資料を作りまくった経験が活きる。淡々と、でも聞きやすく話すことは得意だ。


「今日攻略するのは、低級ダンジョン『緑苔の洞窟』。まあ、初心者向けのダンジョンですね」


 ダンジョンに足を踏み入れる。

 薄暗い洞窟の中、緑色の苔が壁を覆っている。


「さて、さっそくスライムがいますね。【鑑定】」


 俺は鑑定結果を読み上げる。


「弱点は核。体の中心から右に3センチ、深さ5センチの位置にあります。攻撃パターンは体当たりと酸液。体当たりの予備動作は0.5秒」


『視聴者数:3』


 お、増えた。


「じゃあ、やってみますか」


 スライムが向かってくる。

 体が一瞬縮む――体当たりの予備動作だ。


 俺は冷静に横にステップし、剣を突き刺す。

 正確に核を貫く。


 スライムが崩れ落ちた。


「はい、一撃ですね。弱点さえわかれば、スライムなんてこんなもんです」


『視聴者数:12』


 どんどん増えている。

 やはり、具体的な攻略情報は需要があるらしい。


「次行きましょう。あ、この宝箱」


 通路の脇に、小さな宝箱が置いてある。


「【鑑定】……罠がありますね。開けると毒針が飛び出します。解除方法は、箱の底にある小さなスイッチを先に押すこと」


 実演してみせる。

 箱の底に手を入れ、スイッチを押してから開ける。


 中には回復ポーションが入っていた。


「こんな感じで、罠も全部見えます」


『視聴者数:47』


 視聴者がコメントを送り始めた。


『すげえ、マジで弱点の位置まで見えるのか』

『この人の鑑定、レベルいくつだよ』

『攻略本いらねえじゃん』


 俺は淡々と配信を続けた。

 モンスターの弱点を解説し、罠を見破り、隠し部屋を発見する。


 そして、ボス部屋の前。


「さて、ボスです。【鑑定】」


【大スライム(ボス)】

弱点:核(通常のスライムの3倍の大きさ、体の最深部)

   ただし、核は常に移動している

攻撃パターン:分裂(体力50%以下で発動)、酸液砲、体当たり

特殊能力:ダメージを受けると硬化する(5秒間)

攻略法:酸液砲の後、3秒間だけ核が表面近くに来る。その瞬間を狙う


「なるほど。酸液砲の後が狙い目ですね」


 ボス部屋に入る。

 巨大なスライムが俺を感知し、ゆっくりと近づいてくる。


「来ますよ、酸液砲」


 大スライムの体が膨張する。

 俺は柱の陰に隠れ、酸液をやり過ごす。


「今だ」


 核が表面近くに来ている。

 俺は飛び出し、剣を突き刺した。


 ズブッ。


 核を貫く感触。

 大スライムが断末魔の叫びを上げ、崩壊した。


『視聴者数:234』


「お疲れさまでした。低級ダンジョン『緑苔の洞窟』、クリアです」


 配信を終了する。


『配信お疲れさまでした。総視聴者数:1,203 応援:47』


 1,200人以上が見ていたのか。

 初回配信にしては上出来だろう。


 そして、「応援」として送られた魔力が、俺の体に流れ込んでくる。

 これが配信の報酬か。


「……悪くない」


 俺は笑った。

 追放された元社畜の、新しいキャリアが始まった。

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