第1話 追放 〜お前のスキルは役に立たない〜

 目が覚めると、俺は森の中にいた。


 頭上には見たこともない二つの月。周囲には聞いたこともない鳥の鳴き声。空気は澄んでいて、どこか現代日本とは違う匂いがする。


「……マジで転生したのか」


 体を見下ろすと、スーツ姿のままだった。三十二歳の疲れ切った体も、そのまま。

 若返りとかないのか。神様、せめてそれくらいはサービスしてくれよ。


 とりあえず、状況を確認しよう。

 頭の中で「スキル」と念じてみる。


【スキル:鑑定 Lv.1】

対象の情報を見ることができる


 シンプルすぎる説明文。

 試しに、足元の石に使ってみる。


【ただの石】

価値:1ブロン以下

備考:特になし


 ……うん、ただの石だった。


 次に、近くの木に使ってみる。


【普通の樫の木】

価値:木材として5ブロン程度

備考:特になし


 何の変哲もない情報。

 これが最強スキルとはとても思えない。


 ため息をつきながら歩いていると、遠くから声が聞こえてきた。


「誰かいないかー! 冒険者ギルドで仲間を募集中だー!」


 声のする方へ向かうと、広場のような場所に出た。

 そこには、いかにもファンタジーな格好をした集団がいた。剣士らしき男、魔法使いらしきローブの女、重装備の戦士……。


「おっ、あんた冒険者か?」


 剣士らしき男が俺に声をかけてきた。


「いや、俺は……」


「その格好、どっかの貴族の護衛か? まあいい、今うちのパーティ、鑑定士を探してるんだ。スキル持ってないか?」


 鑑定士。

 なんというタイミングだ。


「……【鑑定】なら持ってる」


「マジか! ちょうどよかった! 俺たちと一緒にダンジョン攻略しないか?」


 こうして俺は、「銀狼の牙」という冒険者パーティに入ることになった。


 リーダーのガルドは、豪快な性格の剣士。

 回復役のリーナは、穏やかな雰囲気の神官。

 前衛のバッシュは、寡黙な大盾使い。

 後衛のメルは、高飛車な態度の魔法使い。


 最初の数日は、順調だった。

 俺の鑑定で罠を見抜き、宝箱の中身を確認し、モンスターの情報を伝える。


 だが、問題が起きた。


「なあセイイチ、お前の鑑定って、もうちょっと詳しい情報出せないのか?」


 ガルドが不満げに言った。


「モンスターの弱点とか、攻撃パターンとか。他の鑑定士はそれくらい見えるぞ」


「……すまん、俺の鑑定はレベルが低くて……」


「レベルって、上がらないのか?」


「今のところは……」


 実際、何度使っても【鑑定】のレベルは上がらなかった。

 経験値の概念があるのかすらわからない。


 そして、一週間後。


「セイイチ、話がある」


 ガルドが深刻な顔で俺を呼び出した。


「単刀直入に言う。お前、パーティを抜けてくれ」


「……は?」


「お前の鑑定、正直役に立ってない。他の鑑定士なら、モンスターの弱点や、ダンジョンの隠し部屋まで見つけられる。お前のは……名前と価値がわかるだけだ」


 反論できなかった。

 事実、その通りだったから。


「悪いな。これ、当面の生活費だ」


 ガルドが金貨の入った袋を投げてよこす。


「待って、ガルド」


 リーナが慌てて止めに入る。


「セイイチさんだって、まだレベルが上がれば……」


「リーナ、現実を見ろ。一週間使っても上がらないスキルが、これから上がると思うか?」


 リーナは何か言いたげだったが、結局黙り込んだ。


 メルは鼻で笑い、バッシュは無言で視線を逸らした。


「じゃあな、セイイチ。達者でやれよ」


 こうして俺は、異世界に来てわずか一週間で――追放された。


 ギルドの酒場で一人、安い酒を飲む。


 前世ではブラック企業で使い潰され、異世界では役立たずとして追放される。


 なんだこの人生。


「……まあ、予想通りといえば予想通りか」


 自嘲気味に笑う。

 神様も在庫切れとか言ってたし、きっとハズレスキルだったんだろう。


 だが、諦めるのはまだ早い。

 前世では社畜として生きてきた。理不尽な要求にも耐え、無理難題もこなしてきた。


 この程度の挫折で折れるような、ヤワな精神じゃない。


「……やれることを、やるしかないな」


 俺は立ち上がった。

 まずは、この【鑑定】スキルをもっと深く理解することから始めよう。


 その時、俺はまだ知らなかった。


 このスキルに隠された、真の力を。

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