第七章
形影相弔 上
曇天に、灰色の雪がひとひら降り始めた。
『シン』は空を見上げた。村の外れ、半壊の空き家の前に少年は腰を下ろしていた。尻の下には使い古した筵が引いてあるが、凍えた地面から伝わる冷気を遮るのは難しい。この北方の村では毎年冬に死人が出る。息を吸うと、冷たい湿った空気が肺を通ってかすかに痛んだ。
目の前に置いた皿の中を見るも、銅銭の一つも入っていない。少年は自身の薄い腹を撫でた。気まぐれに村人が投げてよこした食べさしの饅頭。最後の食事は二日前だ。
抗議するように胃が泣き出した。シンは生地が薄くなった着物の合わせをきつく手繰り寄せた。手がかじかみ、指先が赤くなっている。はあ、と垢じみた指に息を吹きかけたとき、人影が少年を覆い隠した。
「少年、占いができるというのは本当か?」
――天女だ。シンはそう思った。
声を掛けてきたのは細面で目が大きく、可憐な顔立ちの女だった。華奢な体つきの女は黒髪を単純な束髪に結い、小冠を飾っていた。身に纏った白い着物が清浄な印象だ。一見すると若いようにも思えるが、どこか老成している雰囲気もあり実年齢がわからない。今までシンは、こんな不可思議な女を見たことがなかった。
「う、うん……。姐さんは何を占ってほしいんだい? 姐さんが大事にしてるものがあれば、俺に触らせて。悩みを解決できるよ」
「もの? 愛用品ということか。では、これを」
こんなにシンに丁寧に話してくれた大人は、今まで居なかった。追い払われるのはまだいい方で、残飯を漁っているところを蹴ったり、殴ってくる大人も居た。シンはしゃがんで目線を合わせてきた女に緊張しながら、差し出された深い栗皮色の木櫛にこわごわ触れた。
「朱雀王も無茶を言う。刀剣の研磨を明日中にとは」「天界はやはりつまらぬな。いいのは酒のうまさだけだ」「王光明はまだ部屋から出てこないのか」「本当にここか?」「でも、間違いないはず」「さみしいところだな」「将来の弟子はきっとここに」「見つけた、あの子。七歳くらいか?」「痩せこけている」「この年まで一人で生きてきたか。強いが、放ってはおけない」「ああ、間違いない」
「何がわかった?」
櫛から流れ込んできた思念を読んだシンは、話しかけられていることに気付き、はっと顔を上げた。女の目は静かな月夜を思わせた。動揺しているシンの胸の内を見通してくるようだ。
「姐さんは、天界の人……。神仙?」
「ああ、そうだ」
「……ええ、すごい! 俺、神仙を初めて見た。えっと、ここには弟子を探しに来た?」
驚きのあまりはしゃぎそうになるが、己の興奮を押さえつけた。落ち着こう。真面目に仕事をこなさなければ金を稼げず、飢えて死ぬ。
「続けて」
「その子は七歳くらいで、もう姐さんはその子を見つけて……いる」
「そうだ、すごいぞ。物に関する才があると
「え。俺の名前……?」
温かな手で、シンの手を握ってきた女はふっと笑った。花がほころぶ様な美しい笑みだった。「この人を汚してしまう」と思い、包まれている手を引こうとするが強く握られていて叶わなかった。
「私の名は白婉。神仙は弟子の居所を占いで探すんだ。お前ほどの腕はないが、私も占いが得意でな。……なあシン、私の弟子にならないか? もし仙人になったら、たらふくうまいものが食えるぞ」
どう考えても怪しかった。いきなり勧誘を始めた女に、シンは警戒を強めた。孤児仲間は冬を超えられず大半が死んだ。流行り病や、怪我が原因の者、理由もなく衰弱していき、翌朝冷たくなっていた者もいた。当然のように餓死もあった。
シンには特技があった。ほんの幼い頃から、気づけば物に宿る思念を読み取ることができた。客の望みを読み取り、欲している言葉を返す。これが占いという生業とうまく噛み合った。シンは自身が運に恵まれている方だと常々思っていた。しかし、いくらなんでも今日は話がうますぎる。
この女、人買いではないだろうか。うろん気なシンの態度に気づいていないのか、女は包み込んだ手を温めようと息を吹きかけている。かじかんだ手がゆっくりとほどけていく。女の素性も、真意も疑わしい。理性では分かっていたが、しかし……。
「……仙人になったらお腹減らない? 殴られたり、しない?」
シンは疲れていた。空腹に、暴力に、生に、仲間の死に。
自分の腹を見下ろした。着物で見えないが、そこには大きな痣ができていた。数日前、占いの客に蹴られた跡だった。女は痛みが走ったような顔をしたのち、無理矢理に笑顔を作った。
「私のもとに来れば飢えることはない。もちろん、お前を傷つける者も居ない」
「じゃあ、じゃあ。いいよ」
「……本当に、いいのか?」
「いいんだ。あの、姐さんは……。少し、俺の母さんに似てるから」
幼いころに姿を消した母親。記憶も朧げだが、寒い日は女がしたように手を包み、温めてくれた。女は柔らかい表情で、「そうか」と呟いた。
「お前の母になれるよう、精一杯努力しよう。……そうだ。今日からお前は『慧心』と。そう名乗りなさい」
名の意味はわからなかったが、シンは同意を示すため、ゆっくりと頷いた。
今まで今日のことしか考えられなかったシンは、初めて明日のことを考えた。女の手は温かく、雪が降っているはずなのに寒さは微塵も感じなかった。
◆◆◆
「師匠が身代わりに? そんなことが可能なのか?」
王光明に問う趙朱燿の声が遠い。白慧心は息苦しさを感じた。呼気が荒くなり、ぐらりと身体が傾く。しかし、現実に引き戻すかのようにその腕を掴んだ者がいた。――武神、趙朱燿の力強い手だ。
「しっかりしろ。倒れている場合か」
「……すまない」
支えられるままに体勢を戻す。弟弟子の腕は強靭な筋肉を備え、燃える命を鮮烈に実感させた。白慧心はかぶりを振り、遠ざかりかけた意識を引き戻した。
「……待て、お前らが開けた穴を塞ぐ」
王光明は言うなり、白慧心らが侵入した穴の近くに立った。手に呪符を持った王光明が口の中で何事かを呟くと、蜘蛛の巣のような結界が薄明るく形成された。壁は元の状態を取り戻していく。白慧心は目を瞬かせた。
――王光明は、只者ではない。
「天道に聞かれていたらまずい。この箇所の術が薄いのはわかっていたが、まさか南方将軍が俺を追跡していたとはな。そして、壁をぶち破ってくるとは……」
文句を言う王光明に、寿老人の命灯を乾坤袋にしまった南方将軍が反論した。
「お前が命灯を盗んだからだろう。寿老人は鷹揚な方だが、天帝は違う。せいぜい罰を受けるんだな」
「くそっ、命籍局の片隅に、すすけて転がっていた命灯がそんな重要なものだとは思わないだろう、普通!」
この男はたしか法陣局――術の開発や保存をしていた部署の所属だと、白婉から聞いた記憶があった。命灯を管理する局は他部署のはずだ。白慧心は疑問を口にした。
「命灯は、一部を除いて管理されているのにどうやって……いや。まず、そもそも命灯を盗んだのは、なぜだ?」
「俺は命灯の管理も任されてたから、拝借するのは容易かった。……なぜ盗んだか? 命灯の真実を調べていたからだ。後で、明かそう。――順序立てて、説明する」
二人を見上げた男の顔には疲れが滲んでいた。
「さて、お前らどこまで掴んだ? 天道が歪んでいること、神仙を食うこと、白婉はその犠牲になったこと、ここらへんか?」
「……七百年前に消えた神仙が、天道に食われたことまでわかった。そして、天道が神仙を抽出する条件も」
「ほお、そこまで突き止めたか。ではまず、なぜ天道が狂いだしたか。そこから始めよう」
王光明は、部屋の奥へ移動し、戸棚を漁った。取り出した巻物が卓の上に広げられる。かすかに埃臭さが立つ。どうやら図面の写しのようで、精密に引かれた線は、古めかしい紙面とは対照的に黒々としていた。
「これは、天道機構の設計図――
「なっ! 天道とは、物理的に存在しているものなのか?!」
驚きの声を上げる白慧心を王光明がちらりと見た。この反応は想定内だったようだ。隣に立つ趙朱燿は微動だにしないが、同じく動揺しているようだ。
「機構――からくりのようなものが世の秩序を守っている。三界――天界・人界・地界に、網の目のように張り巡らせた術を通じてな。俺の先祖は天道機構の設計に関わっていた。宣夜遺巻は我が家で代々、秘密裡に伝わっていた古文書だ」
図面の中心には小さな丸が配置されており、それを中心に何重にも渦を巻くように線が重ねられていた。注釈で、複雑な術式が書き込まれていたが、白慧心が見ても全く理解できなかった。
「俺たち術師には、見てもわからん。これは天道の構造体の設計図だ。百年前、都にいる別部署の同僚にこの図面の解析を依頼した。からくり、神器を作る部署の有能なやつだ。最近、そいつから解析が終わったと連絡があった。そこから南方を出て、都へ移動した」
ここを見ろ、と王光明が図の一部を指し示した。細かい術式の一文だ。
「そいつによると、この部分が弱いらしい。天道機構は故障しない前提の造りになっている。理論上では」
「……では、実際は」
白慧心の問いに、王光明は小さくうなずいた。
「弱い部分から、経年劣化が起きた。設計した神仙は長寿ゆえに、他のものも不変だと驕っていたのだろう。当初、天道機構には自己修復機能を与えられていた。だが、長年の行使による経年劣化で故障した。そう、『自己修復機能』が壊れた」
(天道の歪みとは即ち、自己修復機能の故障だったのか……)
王光明は新たな紙面を広げた。人界の地図のようだ。南に朱色の印が集中している。
「人間の情や怨念は、どうやら天道機構の挙動を鈍化させるらしい。情の残滓が溜まり、天道を脅かすものとなっていった。そこで天道は――神仙の精魂を燃やし、情の残滓を焼き尽くすことを思いついた。人間との縁が深い神仙の精魂が、最も効率よく情の残滓を燃やせる」
燃焼のために神仙を使うという、天道の凄惨な仕様をさらっと告げた王光明は「これは南方で採取した地脈図だ」とさらに紙を重ねた。故障をしめす波形図と、ぴたりと地脈図の波形が一致する。
「七百年前の神仙も、白慧心――お前も。そして白婉も南方出身だ。天道の故障は南方から始まった」
緊迫した空気を破ったのは、趙朱燿の一言だった。
「いや待て、たしか師兄は北方出身だ。そうだな?」
「……そ、そうだ」
唐突に、趙朱燿から昔のように「師兄」と呼ばれ、うろたえながらも白慧心は答えた。
「お前は、南方出身の白婉の養子となっただろう? 苗字も変わった」
王光明の言葉に、趙朱燿が顎を触りながら唸った。
「白慧心は『南方』で育った。元は人間だし、ほかの抽出条件にも適合している。――南方将軍。お前はこの二百年、危険な任務にも進んで赴いていたと聞いた」
「ああ? だが、危険はどこにでもある。戦場とはどこもそんなものだろう?」
「違うな、他の地域はもっと穏やかだ。南方は異常に妖魔が湧きやすく、魔仙が活発化しているんだ」
南方が特殊だったということだろうか。白慧心も、趙朱燿も、水から茹でられた蛙が水温の変化に気づけないように、過酷な環境に置かれていたがゆえに認知できなかったということなのか。
「まあよい。お前の口ぶりでは、天道はめったに標的を外さないんだな? なぜ天道は……師兄を諦めて師匠に標的を変えた?」
「俺が……。俺が可能にした。『天道機構』の術式を書き換えた。――結果として、白婉が標的になった」
(――師匠)
「貴様がすべての元凶か!」
怒鳴り声を上げた趙朱燿の姿が、白慧心の傍らから消えた。いや、消えたのではない。可視できない素早さで動いた武神は、気づけば王光明の首元を締めにかかっていた。
「ぐぅ……!!」
「貴様のせいで、師匠が!!」
壁に備え付けられた棚に押し付けられ、王光明が苦悶の声を上げる。白慧心は慌てて、怒りに燃える趙朱燿の背中にしがみついた。黒に変化させていたはずの髪は赤毛に戻り、鍛え上げられた体は甲冑越しでも燃えるように熱い。
「朱燿、落ち着け! 殺すな! 話を最後まで聞かなければ」
宥めながら脇の下に手を入れ、後ろから引きはがそうと試みる。趙朱燿は兄弟子の声で冷静になったのか、体を引き離されても、抗おうとしなかった。
「げほっ、げほっ……! はあ、はあ、死ぬかと思った」
「王光明、下手な発言をするなよ。俺の力では、本気になった南方将軍を止められるかわからん」
荒い息の趙朱燿の背中に手を当てながら、白慧心は忠告した。
「げほっ。お前ら、いい組み合わせだよ本当に。はあ、確かに。白婉の死の一端は俺に責がある」
絞められた首を擦りながら王光明が苦しげに告げた。
「当初、天道の標的に選ばれたのは白慧心、お前だ。白婉がいち早く気づいた。愛弟子が天道の標的にされた、とな」
白慧心は苦悶の表情を浮かべた。師の献身と愛情が、傷に染みるように痛かった。しばし白慧心の様子を見ていた趙朱燿が、王光明に問うた。
「……疑問がある。師匠はなぜ、天道が師兄を狙っていると気づいたんだ? 師匠は名工だが、術師ではない。天道の歪みにどうやって気づいた?」
首を絞められた恐怖からか、王光明は言葉を選びながら話し出した。
「七百年前、犠牲になった神仙が白婉の知人だ。あ~、こんな話は聞きたくないかもしれんが……。あいつは白婉に惚れていた。振られたようだがな」
海老壺の神仙か。確かに養い親の色恋沙汰は進んで聞きたい類のものではない。趙朱燿も同じく苦々しい表情をしていた。
「そいつが白婉に失恋し、天界から姿を消す前に――不気味な予兆があったらしい。具体的には、影が遅れて付いてくる、視界がぼやけて陰る、その神仙の傍にいると羽虫のような音が聞こえる」
二百年前、自身の身に起こったことを思い出し白慧心は背筋がうすら寒くなった。あれはやはり、標的の証だったのか。
「白慧心は、身に覚えがあるだろう。その神仙は姿を消したが、隠遁するやつは天界では珍しくもない。しかし命灯が消え、ちょっとした騒ぎになった」
「それで、師匠がお前に相談したわけか」
皮肉めいた口調で趙朱燿が吐き捨てた。まだ怒りが残っているらしい。
「白婉が気にしていたからな。当初は失恋からの自殺かと思ったが……結果は、天道が神仙を食ったという信じられない結果だった。当時は打つ手がなかった。正義感の強い彼女はなんとかしようとしていたが……日々、忙殺されていくうちにお互い忘れていった」
王光明は机の前に移動し、話し疲れたようにどかりと椅子に座り込んだ。
「こんなに人と長々と話すのは久々だ。……やがて白婉は養子を迎えた。白慧心と名付け、朱雀王の息子も自身の宗門に加えた。そんなある日、青ざめた表情の白婉が再び相談してきた『慧心が天道に殺される』とな」
白慧心は拳を握りしめた。二百年前の事件の、核心に迫っている。
「俺が提案したのは『標的抽出をやり直す』という方法だ。だが……白婉は、俺の術式を書き換えた。新たに犠牲になる神仙が忍びなかったのだろう。『自身に標的を移した』結果、最悪な結果になった」
「最悪? これ以上に最悪な話があるか?」
皮肉る趙朱燿に構わず、王光明は話を進めた。
「身代わりを立て犠牲を回避した場合、元の標的と縁深い神仙が次の標的になる。――これは二百年前、白婉が死んだ直後に天道の挙動を探ってわかった。白婉に書き換えられた補修術式を、天道は自分に組み込んだ」
王光明はそこで言葉を切り、白慧心の目を見据えた。
「白慧心。次の標的は誰だ? お前の隣にいる弟弟子、――南方将軍ではないか?」
「……やはりあんたは、私を救おうとしていたのだな」
趙朱燿は半ば確信を持っていたのだろうか。どこか安堵したような響きの言葉に、しかし答えてやる余裕がなかった。自責の念に駆られ、息が詰まった。
「俺のせいで師匠は……」
「違う。それは、違うぞ」
零した言葉を拾った趙朱燿が、ぐっと強く白慧心の肩を掴んだ。その手は微かに震えていた。南方将軍は、まっすぐに王光明を見据えた。
「師匠の死因は何だ? 二百年前の事件は私も調べた。師匠は突然、師兄の前で霧散した。――命灯も消えた」
思い返すもあの時、たしかに白婉の傍に神器は無かった。白慧心はその場にいたが、彼女は神器に害されて死んだようには見えなかった。
「では、命灯の真実を明かそう。……お前らの中で、命灯とはどのような存在だ?」
「宗門に入る際、魂の欠片を灯籠に灯す。神仙が生きている限り燃え続け、魂魄が消えると火も消える。命の在りかを示す、それが命灯だろう?」
白慧心が答えると、王光明は首を振った。
「違う。命灯を消すと、神仙も死ぬ。命灯と神仙の命は双方向なんだ。お前ら気づいていないのか? ――命灯もまた、神器だということに」
外の風に煽られたのか、扉から物音がした。しん、と場に静寂が落ちた。
「馬鹿な……。その理屈でいけば、天道は命灯の火を消し、神仙全員の命を奪えることになる」
額に汗を浮かべた趙朱燿が王光明に問うた。白慧心は焦燥感に駆られていた。趙朱燿の命灯は、どこだ。
「その通り。だが、命灯を消すのは最終手段だ。天道は当初、より少ない労力で神仙の殺害を試みる。最終手段に出ると天道にも危険が及ぶのか、精魂の抽出量に関わるのか。百年前に命灯の真実に気付いた俺は南方で地脈の調査をしつつ、命灯の造りも探ったが……天道の行動原理はわからなかった」
王光明がぽろりと天界から消えた理由を漏らした。南方で実地調査をしていたわけか。
「師匠の時は、どうだったんだ?」
無理矢理唾液を飲み下しながら、白慧心は尋ねた。
「……当時は俺も白婉も、『天道は神器に殺害信号を発する』ということ以上はわからなかった。だから、白婉には神器を使わないよう促したんだが」
「神器を使わない師匠に焦れた天道が、最終手段で命灯を消したわけか。……天帝は私に任務を授ける時、天道の故障も、命灯の危険性も伝えてこなかった。天帝はどこまでこの事態を知っている?」
「天帝は天道機構の存在は知っているが……故障は把握してないだろう。命灯の真実も知らん。俺も報告してない。たとえ報告したとて、信じてもらえるかどうか」
二人の会話を遮った白慧心は、焦りのまま問うた。
「命灯……。では、命灯をどうやって守ればいい? 次は朱燿が狙われている」
「俺が術を施した籠に入れればいい。ひとまず、な」
言うなり、王光明は卓の下を漁りだした。部屋は整理整頓がおざなりな印象だが、位置関係は把握しているらしい。取り出されたのは、外国風の鳥籠に似た黒光りする鉄檻だった。
「天道からの攻撃を防げる。ここに、南方将軍の命灯を入れろ。白慧心、念のためお前の命灯も入れるといい」
王光明自身も、自分の命灯を別の籠に入れているらしい。籠は一部が開くようになっており、中に物を入れるようだ。
「気をつけろ。天道の波形から、攻撃までまだ時間がある。しかし、天道が『命灯への殺害信号』の試運転をしてくる可能性は否めない」
趙朱燿は硬い声音で王光明に尋ねた。
「私の命灯は、天界の屋敷だ。……王光明、お前の情報は信頼できるのか?」
「信じなくとも構わん。白慧心は天道の故障を実感しているだろうがな。お前は己の師兄のことも、信じられないか?」
南方将軍はひとまず疑念を収めた様子だった。他に手だてがないと分かっているのだろう。渋い顔をしている。
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