雑兵



 ◇………………………………………………………………………



「Gorrrraaaa――――!!」

 王の号令に、配下達が一斉に怨敵に襲い掛かる。

 その身から感じる圧は、先程までのものと比べてさらに一段と重苦しいものとなっていた。

 怒りに比例するようにルーンの出力が跳ね上がっているのだろう。おどろおどろしい雰囲気を纏う一団は、まるで魔王軍と言われても納得してしまい兼ねない恐ろしさがあった。


 一方、それと相対する勇者モカ一行はというと。


「ふぅぅぅぅ…………。」

 迫りくる強敵を前にして、静かに、深く息を吐く。

 姿勢は前傾で、何時でも溜め込んだ力を放つ準備は出来ている。


「モカ。」

 完全に戦闘態勢に入っている相棒に、いつもの調子で声をかけるラテ。そこにはなんの気負いも存在しない。


「雑兵は全てこちらで引き受けます。だから――――。」

 それは、自身の力と相棒への絶対の信頼がある為だ。

 故に、為すべきことは決まっている。



「ただ真っ直ぐ突っ走りなさい。」



「了解。」



 ドン、という激しい足音を鳴らして、モカの姿が消えた。

 見ればすでに魔物達のすぐ傍まで走り抜いていた。


「「「Grrrraaaaaaaa――――!!」」」

 突っ込んできたモカに、魔物達が殺到する。

 誰もが鋭い牙や爪を剝き出しにした、殺意全開の風貌だ。


 だが、モカはそれに目もくれることなく、ただ只管にボスを見据えていた。


 攻撃が迫る。

 モカは対応どこか、反応すらしない。


 する必要がない。



「『跪け』。」



 ラテがモカを信頼するように、モカもラテを心から信頼しているのだ。


「「「Grugaaaa!?」」」

 寸前まで迫っていた魔物達の動きがピタリと止まり、その隙をついてモカが走り抜ける。

 魔物達は皆一様に困惑するが、互いの姿を見てその顔を驚愕の色へと変化させた。


「モカの邪魔をする悪い子は――――。」


 魔物達を静止させたもの、それは鎖だ。

 ラテの鎖が、一本繋ぎで複数の魔物達の身体を縛り上げていた。

 なんとも不思議なことに、ラテが持つ鎖は複数の魔物を縛り上げる程の長さはなかった筈なのに、今では数倍以上に伸びていた。


「「「Groaaaa……!?」」」

 魔物達も必死に身を捩り鎖から逃れようとするも、ギチギチと音を鳴らすだけで微塵も揺らがない。それどころか少しずつ体に食い込み始めていた。

 漏れ出る咆哮も、徐々に悲鳴に変わってゆき――――。



天に帰りなさいハウス。」



 鎖が締まり、魔物の体を散り散りに引き千切った。



「うっわぁ。」

「え、えぐいですね。」

 魔物の死に様なんて、冒険者をしていれば幾度も見るものだが、ここまで凄惨なものはそうない。

 ボタボタと肉塊となって零れ落ちる元魔物を見てというより、普段と変わらない笑みでその惨事を生み出したラテに引いた様子なサノン達だった。


「……猟奇的美少年もなかなかいいかも。」

「サ、サノンさん?」

「ほらほら、まだ敵は残ってるんですから、さっさと行きますよ。」

 仲間の凄惨な死に方を見て怖気づいたように後退る、早くも激減した魔物に向かって走り出すラテに、慌てて追随するサノン達であった。



 ◇………………………………………………………………………



「せぇい!」

 サノンの拳が魔物に突き刺さり、その体を吹き飛ばす。


「Graaa!」

 吹き飛ばされた魔物は、すぐに体勢を立て直しサノンを睨み付けた。

 普段のサノンであればたとえルーン持ちに匹敵する相手であろうとも、ここまでダメージ与えられないことはない筈だった。

 

「――――はぁっ、はぁっ、はぁっ!」

 滝のような汗が顔中を伝うのを拭いもせずに拳を構える。

 たった一度の攻撃しかしていないというのに手が震えている。

 ここまでの戦闘で、サノンも限界が近かった。


「くぅっ!」

 身体が重い。

 ルーンも発動出来て後数回あるかどうか。

 それでもモカの為に目の前の脅威を引き付けなくてはならなかった。


「この――――!?」

 力を振り絞り、拳を振るおうとした瞬間。



「Grrrr――――!!」



「んにゃ?」

 思わずポカンとした声が漏れた。


 突然、魔物達の一部が明後日の方向へと走り出したのだ。

 その場に残ったのは僅か数頭。

 モカ達の人数よりも少ない数だけだった。


「な、なにが……?」

 マリエルの近くで彼女を守っていたポムニットも困惑している。


「……ああ、なるほど。」

 そんな中、マリエルだけが納得がいったように頷いていた。


「マ、マリーさん、これは……。」

「心配しなくてもいいわ。ただの援護よ。」

 ふっと笑う彼女の視線は、魔物が駆けていく方向を見ていた。



「流石は到達者アデプト。やるじゃない。」



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