玉座



 ◇………………………………………………………………………



 駆ける駆ける、必死に駆ける。

 ルーンを発動させ疾風の如き速さを発揮したモカ達は村を飛び出し、森の中を走っていた。

 先の戦闘でほとんどの戦力を殲滅したのだろうか、すでにダンジョンに突入しているというのに魔物との遭遇はない。


 先頭を行くのはモカ、その少し後ろをラテとマリエル達が追う形だ。

 進むのは森の中にできた獣道。当然の如く街道のように整備などされている筈もなく、石や木の根が絡み合った地面はデコボコしていて非常に走りにくい。だからこそ速度が劣るポムニットが、経験値の差でモカに少し遅れる程度でついていけているとも言える。


「リルちゃんが、生きてるって、根拠はあるの!?」

 息を切らせて走るマリエルは、言葉を途切れさせながらも並走するラテに問いかける。

 普段ならばこの程度の森道などなんてことないが、疲労の抜けていない身体では流石に厳しいものがあった。ポムニットなどついていくのが精いっぱいで、会話もできなさそうだ。


「ええ。先程の戦闘中、魔物が村人を殺さずに連れ去ろうとしていたのは覚えてますか?」

「確かに、いたわね!」

「皆さんをフォローしながら魔物達の動きを観察していた時、どうにも一部の魔物がおかしな動きをしてるのに気が付いたんですよ。」

「あれだけの乱戦の中、そこまで見てたの!?」

「ラテ君、すっご!」

 魔物と冒険者が入り交じる戦場で、冷静に俯瞰して周囲を見れる者はそうはいないだろう。

 比較的離れた場所から戦場を見ることの出来る弓兵のマリエルであっても、あの乱戦中にそこまで目を届かせることは出来なかった。


「以前、魔物達がモント村を餌場にしようとしていると言いましたが、そうなると少しおかしな点があるんですよ。」

「おかしな点?」


「モント村を餌場にするのであれば、餌はその場で食べればいい。後で食べるにしても殺して持ち帰ればいい。わざわざ生かして連れ去る必要なんてないんです。」


「……それは、確かに、そうね。」

 獣の行いに道理など存在しないが、それ故に本能に従わなかった行動には作為というものが見て取れる。


「つまりそれは、獲物を生かして連れてくる必要があったということです。」

「魔物が、そんなこと、する理由って、なんなの?」

「おそらく子供に狩りの仕方を教えるためでしょう。」

「……どういうこと?」

「言葉の通りですよ。生かして捕まえてきた獲物を、自分の子供に殺させて、狩りの仕方を教えるんです。

 リルちゃんのような弱い獲物から始めて、徐々に慣れさせていくんですよ。」


 子供に教育を施す動物というのは人間以外にも存在する。

 例えばミーアキャットはサソリを餌とするが、サソリには針がある。それを子供に教えるためにまず死んだサソリの針を抜いて与え、それから針のある死体、生きたサソリと徐々に段階を上げていくのだ。


「つまり、リルちゃんは、教材ってことねっ……!」

 吐き出されたマリエルの言葉には、はっきりとした嫌悪が混じっていた。

 他のみんなも、声にこそ出していないが同じような思いで顔を顰めている。


 上の者が下の者に教育を施すのは人間もよく行うことだ。というより、全動物の中で人間が一番盛んに行っている。

 その中で魔物の子供を教材として使うこともあるのだから、これはそれをやり返された形とも言える。

 自分達がやるのは気にしないのに、相手にやられるのは気に食わないという人間らしい傲慢さが、マリエル達のような真っ当な人の中にも存在していることにおもしろさを覚えるラテだったがそれを表に出すことはなく、ただいつものように微笑んだ。


「……おっと。モカ、その茂みの先が目的地のようです。多数の気配と、一つ大きな気配があります。」

「――――っ!」

 指差した先の草木を躊躇なく飛び越えたモカに続いてマリエル達も駆ける。


「おわっ!?」

「っと!?」

 茂みを飛び越えた瞬間、ふわりとした浮遊感が足先から伝わる。

 向こう側は崖となっていたようで、突然の地面の消失にサノン達が驚きの声を上げた。

 とはいえ大した高さではなく、精々が2メートル程の段差で、優れた冒険者である全員が難なく着地する。


「これは……!」

 たどり着いたそこは開けた場所だった。

 円形の窪地の底にはほとんど木が生えておらず、周りの高台に囲まれた様相は天然の闘技場にも見えた。



「間違いない、ここが――――玉座トロノス!」




 玉座トロノスはダンジョンにおける最奥。ボスが座する場所を意味する。

 周囲を見渡すと、あれだけ斃したというのにまだまだ両手の指の数を超える魔物が屯していた。その全てが、ルーン持ちとまではいかないが、先程斃した雑兵とは比べるべくもない力を有しているのが見て取れる。


「まだこんなに魔物が……!」

「いえ、それよりもっ……!」

「皆さん姿勢を正しましょう。」

 自身の残り体力を鑑みるとボス単体だけならばともかく、これだけの魔物を相手取るとなると厳しい。

 だが、そんなことが気にもならないような、絶望的な現実が目の前にあった。



「――――ボスのお目見えですよ。」



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る