VS超硬い牛
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モカやラテは冒険者達と共闘していたが、サノン達の戦場では明確に役割分担されていた。
ルーン持ちの大物相手はサノン達のパーティが担当し、それ以外の魔物の相手を冒険者達が相手するといった形だ。
「くっそ!ほんとに攻撃が通らないじゃないの!」
「マジでとんでもない硬さだよね!」
「ビ、ビスケルブルですね!大きな角での攻撃が得意で、角の硬さは鉄にも匹敵します!
で、ですがおそらく【硬化】のルーン、それもかなり高レベルのもので、角だけでなく、全身が物凄く硬くなっているようです!」
サノン達が相対するのは巨大な牛。
大きな二対の角を有し、全身は艶のある漆黒に染まっている。
特徴は何といっても鋼鉄を超える程に硬いその表皮であろう。
剣で、斧で、矢で、多種多様な方法で攻撃を加えるも、その全てを無傷で弾き返してしまう鉄壁の皮膚であった。
「ただの攻撃じゃどうしようもないわね……サノン!」
「ほいほい!」
マリエルの指示に、サノンが勢いよく駆け出す。
「君みたいな硬い子には、あたしのルーンはめっちゃきくんだよね~!」
目前に迫ったビスケルブルに対して、拳を握りこみながらも不敵に笑うサノン。その表情には、確かな自信が宿っていた。
「Bmooooo――――!!」
「よいしょぉ!」
近づいてくるサノンに、ビスケルブルが行った迎撃は、その巨大な角による突き上げだった。
それを見事な体捌きでヒラリと躱すと、側面に回り込んで腰を落とす。
「『震えろぉ』!」
「Bmo――――!?」
気迫の
「B、moo……。」
ビスケルブルの体がぐらりと傾く。
手応えはあった。
サノンは勝利を確信していた。
だからこそ――――。
「Bmoooooooo――――!!」
「なっ!?――――ぐぅっ!?」
即座に体勢を立て直したビスケルブルの反撃に対して、反応が遅れてしまった。
「サノン!?」
「サノンさん!?」
弾き飛ばされたサノンに、マリエル達から悲鳴が上がる。
「っ――――大丈夫!掠っただけだよ!」
ゴロゴロと地面を転がりながら距離をとったサノンは、すぐさま体を起こし戦闘態勢をとる。
派手に飛んだかのように見えたが、それは咄嗟に地面を蹴ったサノン自身によるものだった。事実、攻撃の当たった腹部は、赤くなっているものの、大きな怪我などはなさそうだ。
「まさかサノンのルーンを食らってすぐに反撃できるなんて……。」
想定外の事態に、さしものマリエルも一瞬唖然とした表情を見せる。
彼女はそれほどまでに、サノンの【振動】のルーンに信を置いていた。
「まじかぁ……。ちょっとへこむなぁ……。」
だがそれ以上に衝撃を受けたのは、サノン本人だった。
このルーンで斃せない生物など、今までほとんどいなかった。たとえ斃せなかったとしても、大ダメージは必須だったのだ。
今回のように即座に反撃されたのは初めての経験で、それが密かにサノンのプライドに小さな傷を付けていた。
「サ、サノンさんのルーンが通じない、それほどまでの練度がある?それとも内臓まで効果を及ぼすタイプのルーンだったということ?それとも【硬化】というのは間違いで、【障壁】や【拒絶】のルーンだったとか?いえ、それだったら反応がある筈だけどそれっぽいのは見えなかった。だったらやっぱり強化系統なのは間違いない筈。なら攻撃が通じなかったのはルーンの練度と、元々の魔物の肉体強度が合わさった為――――。」
珍しいルーンの効果に、戦闘中だというのに考察を呟きだしてしまったポムニットを尻目に、マリエルは高速で考えを巡らせる。
「さて、どうするか……。」
サノンのルーンはまったく効果がないわけではない。だが致命傷には程遠い。となるとこちらの持つ手札の大半は通じないということになる。
ならば、何をもってこの難行に対処するべきか。
マリエルの頭の中で、幾多の案が浮かび上がっては却下され、少しづつ組みあがっていく。
「…………よしっ!」
時間にして数秒。
考えがまとまったマリエルが、気合注入とばかりに頬を叩いた。
「ポムニット!私が何とか時間を稼ぐから、その隙に魔法の準備!雷の一点集中なら体の中まで通るでしょ!
サノン!あんたは魔法で仕留めきれなかったときのトドメ役よ!アレを使いなさい!」
「わ、わかりました!」
「ええ~!?やだよ~!?」
マリエルの指示に、返ってきた返答は対照的だった。
「文句言わない!」
「だってアレめっちゃ痛いんだよ!?」
「そういうもんなんだから仕方ないでしょ!あんたが頼りなのよ!」
「えぇ~!?……もう、わかったよ~。」
ブー垂れるサノンに溜息を吐きたくなるが、グッと堪える。
アレとは、サノンの必殺技的なもののことなのだが、それを行うには相当な痛みを伴うことは彼女も理解している。それを厭うサノンの気持ちもわからなくもないが、相手の頑強さを考えるとそれを使わないという選択肢は選べなかった。
嫌がるサノンから強引に了承を引き出すと、マリエルは駆け出した。
「『駆け抜けろ』!」
加速したマリエルが向かうのは当然ビスケルブルの下。
ただし真っ直ぐ正面に突き進むのではなく、その周囲を円を描くように回りだした。
「Bmo?」
己の周囲を回り続けるマリエルの姿を追おうと首を右に左にと振るが、あまりの速さに捉えられたのは残像のみ。
マリエルの姿は影しか映らず、傍目から見ればビスケルブルを円形の壁が囲ってようにも見えただろう。
「しっ!」
土埃が軽く竜巻を起こしだしたその時、壁から一本の矢がビスケルブルへと発射された。
「Bmo……?」
矢は真っ直ぐビスケルブルの頭へと直撃するも、皮膚を貫くことができずに、カキンという金属と接触したような音を立てて弾かれた。
ビスケルブルからすれば虫が止まっただけに等しい感触のそれは、いったい何をしたいのか理解できない。
しかし次の瞬間、さしものビスケルブルもその光景には目を剥いて驚愕した。
「はあぁぁ――――っ!」
それはまさしく矢の嵐だった。
高速で移動するマリエルから連続して放たれる矢は、四方八方からビスケルブルに襲い掛かった。
残弾を打ち尽くす勢いで放たれた矢はその全てが急所狙いで、目や関節、果ては肛門に至るまで、徹底的に弱い部分を責め立てていた。
これはマリエルの切り札の一つだ。
まるで数十もの弓兵で攻撃するような飽和攻撃。
並大抵の相手であれば、瞬く間にハリネズミになり果てていることだろう。
マリエル自身はこれに名前などは必要ないと思っているが、サノンはあった方が格好いいと、技名を考えては却下されている。
「ほんっと、イヤんなるわ!」
されどこれは矢の密度こそ圧倒的なものの、威力は据え置きだ。
弾かれた矢がビスケルブルの足元に落ち、小山を築いている。
眼球を直撃した矢までもが弾かれたのを見たマリエルは、思わず愚痴を溢した。
(この依頼が終わったら、絶対に鍛えなおそう!)
まずは矢の威力を上げるルーンを探そうと決心した。
とはいえこれだけの集中砲火を受ければ、ダメージはないといえど、ビスケルブルであっても動くことは出来なかった。人が多数の虫に集られたら普段通りに行動できないのと一緒だ。
「じゅ、準備出来ました!」
「やりなさい!」
ポムニットの声が聞こえたと同時に矢の嵐が治まり、マリエルが即座に離脱する。
そして次の瞬間――――。
「轟きしもの、天に在りし力よ、穿ち貫け!『神鳴れ』――
「Bmo――――!?」
一条の雷がビスケルブルへと奔る。
直撃した瞬間、白い光が周辺を覆いつくし、直後に轟音が響き渡った。
サノンもマリエルも、周囲で戦っていた冒険者達も、魔物までもが動きを止めた。
誰もが息を飲み、バチバチと音を立てながら雷の残滓が残る着弾点を凝視していた。
「すげぇ……!」
「あぁ、とんでもねぇな。」
これは確実に仕留めただろうと冒険者達は歓声を上げるが、マリエル達は先の経験から警戒を続けていた。
粉塵立ちこめるビスケルブルのいた場所を見つめていると、ふわりと土煙が動いた。
「Bmoooo…………!!」
「うそだろ!?」
「あれでも死なないのかよ!?」
ビスケルブル健在。
高威力の雷魔法の直撃を受けても、いまだに倒れることなく四つ足で大地を踏みしめる姿に、冒険者達から驚愕の声が上がる。
「B、moo、oo……。」
とはいえさしものビスケルブルといえど、
前足の付け根には魔法が直撃した痛々しい傷跡が見えており、高熱によって焼かれたそこからは、焦げ臭い臭いが漂ってくる。傷口が焼かれているため、出血こそあまりないが、それでも戦闘行動に支障をきたすレベルのダメージであることに間違いはなかった。
「これならいけるぜ!」
「ああ!トドメを刺せ!」
「おい!?待て!」
好機と見た村付き冒険者達が武器を掲げて飛び掛かってゆく。漁夫の利と言える行為だが、本人たちからすれば機を見るに敏のつもりなのだろう。
クンストメル商会の冒険者の静止も意味をなさない。
だがそれは愚かな判断と言えよう。
「Bmooo――――!!」
「な!?」
「ぐぁ!?」
先程の焼き直しのように飛び掛かった冒険者達が吹き飛ばされてゆく。
たとえ大ダメージを受けようとも、彼我の実力に超えようのない差があることに変わりはないのだ。
「この糞バカども!」
そんな冒険者の愚行にマリエルの口から悪態が漏れた。
下手に刺激した所為で、ビスケルブルが怒りのままにダメージも忘れてこちらに真っ直ぐ突っ込んできたのだ。
「サノン!!」
残り僅かな矢を牽制として放ちながら、サノンに合図を送る。
「はぁ……。ヤだけど仕方ないか……。」
合図を受けてサノンは溜息を吐きながら、ずっと発動して力を込めていたルーンに意識を集中させる。
そしておもむろに腕に巻きつけられたベルトを掴むと――――。
「――――いっ、痛たたたた~~~~!!」
思いっきり自分の腕を締め上げた。
強く引っ張られたベルトが腕の肉にきつく食い込み、皮膚を絞り上げる様は、痛みを克明に伝えてくる。
サノンが悲鳴を上げるのも無理はない。
「っ痛ぅ~~~~!!」
痛みに涙目になっているサノンは、続けて太腿のベルトまでも締め上げ、再び悲鳴を上げる。
「しっかし、いつ見ても難儀なルーンよね。」
「は、はい、そうですね。」
傍から見れば、サノンの行動は意味が分からないだろう。周囲の冒険者達も、突然の奇行にポカンとしている。
「ああもう!だからヤなんだよこれぇ!!」
痛みに顔を顰めながら腰を落とし、突進してくるビスケルブルを迎え撃つ姿勢をとる。
その間にも腕のルーンは輝きを強めており、どこからかキィンという鋭い音が響いてきた。音の発生源を辿ってゆくと、サノンの籠手が激しく振動し、輪郭がぶれているのが見える。
「Bmooooo――――!!」
「ぶち抜けぇ――――っ!!」
突進してくるビスケルブルに対して、サノンは真っ向勝負で拳を突き出した。
「っ――――!?」
生身と生身がぶつかり合ったとはとても思えない音が響き、周囲の者の耳朶を打つ。
耳を押さえながら視線を向けると、サノンとビスケルブルはぶつかり合ったまま静止していた。
どちらに軍配が上がったのか。誰かの喉がごくりと鳴った。
「く、苦痛を味わうほどに威力の上がるルーンなんて、本当に珍しいです。」
「Bmo――――…………。」
ビスケルブルの鼻や口、目などあらゆる部分からドロリと血が噴き出した。
そして、そのまま倒れ伏すと、二度と立ち上がってくることはなかった。
「はぁ、なんとかなったか……。」
張り詰めた糸が切れたように、マリエル達は座り込んだ。
マリエルパーティvsビスケルブル。
勝者、マリエルパーティ。
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