VS超重い猪
◇………………………………………………………………………
モカが向かった先ではプレッシャーボアが猛威を振るっていた。
「はぁっ!」
「Bugya!?
モカの振るった剣がプレッシャーボア肉体を斬り裂き鮮血を飛び散らせる。
いつかの焼き直しのような光景だったが、以前との違いはプレッシャーボアの大きさと、それでもなお、以前よりも深い傷を与えたモカの剣撃の威力であろう。
「おお!よくやった!今だ攻め立てろ!!」
足を大きく斬り裂かれ機動力をそがれたプレッシャーボアに、チャンスと見た冒険者達が一斉に飛び掛かる。
「Burrrrrr!」
それでもプレッシャーボアは揺るがない。
剣を、槍を、拳をその身に受けてもなんら痛痒を感じているようには見えない。
「ぐぅ!?」
「きゃあ!?」
「がはっ!?」
身震い一つで飛び掛かった冒険者達が容易く吹き飛ばされる。
あれだけの攻撃を加えたというのに、その身体に目立った傷はモカが与えたものくらいしかなく、他は出血もしない掠り傷程度だ。むろん、全員ルーンを発動してこれだ。
通常のプレッシャーボアであればここまでの強靭さを有してはいない。流石はルーン持ちの魔物といったところか。
しかし、この場においてそれは絶望にも等しい脅威である。
「……うぁ。」
先程攻撃を加えた集団の一人である女性冒険者が、あまりの強大さに怖気づいたのか、足を縺れさせ尻もちをついた。
その表情は青褪めており、ハッキリと恐怖が浮かんでいた。
「……あー、嫌なこと思い出しちゃった。」
それを見て、モカの脳裏にとある光景が浮かび上がってきた。
つい先日、今と同じようにプレッシャーボアと対峙した時の光景だ。
気分が落ち込むのを自覚しながらも、尻もち付いた女性を守るために再びプレッシャーボアへと突撃していくモカ。
「Burrrrrr――――!!」
脅威となる存在がモカだけであると判断したプレッシャーボアは、迎撃せんと、代名詞である圧し掛かり攻撃を繰り出すべく後ろ足で立ち上がる。
「避けろっ!!」
その威力を知る冒険者達が、一斉に退避行動を取る。
次の瞬間、回避したはずの冒険者達が盛大に吹き飛ばされた。
「ぐああああぁぁぁぁ――――!?」
「きゃああああぁぁぁぁ――――!?」
ゴロゴロと地面を転げながら、身体を突き抜けるような衝撃に悲鳴が上がる。
一体何が起きたのか。
ようやく止まった身体を、痛みを堪えながらも素早く起こした冒険者達は、一様に絶句した。
プレッシャーボアが倒れ込んだその場所。ついさっきまでは平らだったそこは、ほんの少し目を逸らした隙に、
――――クレーターと化していた。
「…………ぁ。」
声も出なかった。
彼等とてプレッシャーボアの圧し掛かりの威力は知っている。
だがこれは、彼等の知るそれとは一線を画していた。
まるで爆撃を受けたかのような惨状。地面が抉れるほどの威力であれば、直撃ではないにも関わらずあれほどの衝撃を受けたことに納得してしまう。
彼のプレッシャーボアが有するルーンは【重量増加】。ただでさえ重いその自重を、爆発的に増大させることが出来る。
圧し掛かりを攻撃手段とするプレッシャーボアにとって、これ以上に適したルーンは存在し得ないだろう。
「こんなの……どうすれば……。」
あまりの不条理に、冒険者達の心は折れかかっていた。
こちらの攻撃はほとんど通用しないというのに、あちらの攻撃は直撃どころか掠めただけでも容易く自分達を殺傷し得るのだ。
「くそっ……!」
プレッシャーボアはいまだクレーターから動いていない。だというのに踏み出す一歩がとてつもなく重かった。
誰だって命は惜しい。
如何に歴戦の冒険者といえど、いやだからこそ、勝ち目のない強敵に立ち向かう勇気、もしくは無謀さを持ちえなかった。
誰も彼もが膝を折る中、唯一人、折れずに駆けだしてゆく影があった。
「せぇい!!」
「Bugyuaaa――――!?」
重苦しい空気を斬り裂くように煌めく一条の剣閃。
そう、モカである。
彼は爆撃のような圧し掛かりを躱すとすかさず走り出し、一人で攻撃を再開したのだ。
「はぁ!てぇい!やぁ!」
一振り毎に鮮血が舞い散る。
一閃、二閃、三閃と、立て続けに振るわれる刃は、プレッシャーボアの肉体に決して浅くない傷を刻み込んでいった。
「Bugyrrr……!!」
されるがままのプレッシャーボアだが、それには理由があった。重量増加を伴った圧し掛かりはその絶大な威力と引き換えに、攻撃後に反動でしばらく動けなくなってしまうデメリットがあったのだ。
「てりゃあ!」
「Bugyurrr――――!!」
並の相手であればそれも問題にはならなかった。
ただでさえ頑強なプレッシャーボアの肉体にダメージを与えることができる者などそうそういるはずもない。
だが、目の前の
そいつは鉄壁の筈の肉体を容易く斬り裂いた、しかもその傷は、剣を振るう毎に徐々に深くなっている。
「Brrrryyyy――――!!」
「っと!?」
まるで調子が上がってきたとばかりに攻撃を加えてくるモカに、強者として生きてきたプライドが逆撫でされたプレッシャーボアは、麻痺が残る身体を奮い立たせ反撃に出る。
突進をヒラリと躱したモカは、血塗れになりながらも、気迫の籠った目で睨み付けてくるプレッシャーボアと対峙する。
それはさながら、騎士と魔物の一騎打ちのようにも見えた。
冒険者達は、自分達では上がることのできないステージにいる闘いを、周囲の魔物を斃しながら見守るしかできなかった。
彼等の心に灯る想いは一つ。
モカの勝利を願うだけだった。
◇………………………………………………………………………
そんな周囲からの期待を知らずの内に一身に背負ったモカはというと、相手の動きを見切っていながら、その目は相手を映していない。
モカの目は、プレッシャーボアを通して数日前の出来事を追想していた。
「……の所為で。」
倒れ伏すプレッシャーボア。
戦闘後の程好い高揚感。
顔を赤らめたサノンとマリエル。
興味と羞恥の入り交じった表情。
己の肉体の一部に注がれる、舐めるような欲の視線。
十余年の人生の中でも最上位に位置する失態。
「Bgyarrraaa――――!!」
業を煮やしたプレッシャーボアが、再び圧し掛かりを仕掛ける。
「君の所為で……いや君ではないんだけど。」
つまりこれは。
「危ない!?」
「避けろ!!」
その攻撃に対して、受けて立つと言わんばかりに動じないモカに、冒険者達から悲鳴交じりの声が上がる。
「君の所為で……本当に君ではないんだけど。」
モカの。
「『ご照覧あれ』、『聖なるかな』。」
「君の所為で……!」
プレッシャーボアに対する。
落ちてくるプレッシャーボアに、腰を落として足に力を入れる。
「君の所為で――――っ!!」
ただの。
「――――全部見られちゃったじゃないか!!」
八つ当たりだ。
「Bgyraaaaa――――!?」
モカが行った攻撃は手に持った剣によるものではなく、地面に足がめり込む程の蹴りだった。
尋常ならざる力で繰り出されたそれは、圧し掛かりという特殊な攻撃方法を得意とする故に、殊更分厚い皮と脂肪に覆われていて最も防御力の高い腹に突き刺さり、表皮を貫き、筋肉を断ち切り、内臓を押し潰し、背骨までも砕いた。
それどころか、元よりトン単位で量られる体重を、ルーンの力で更に増加させたプレッシャーボアの肉体を宙へと浮かび上がらせたのだ。
「「「ええええぇぇぇぇ~~~~!?」」」
ズシンと地響きを起こしながら倒れたプレッシャーボアに、冒険者達はもとより、周囲の魔物達までもが愕然と動きを止めた。
冒険者達の驚愕の声を浴びながら、モカはフンスと息を吐いた。
モカvsプレッシャーボア。
勝者、モカ。
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