親衛隊



「ぐああぁぁっ!?」



「なんすか!?」


 突如悲鳴が聞こえてきた方へ視線を向ける。

 すると、同僚たるクンストメル商会の冒険者の一人が吹き飛ばされ、宙を舞っている姿が見えた。


「Burrrrr――――!」


 吹き飛ばしたのは巨大な猪、プレッシャーボアであった。

 その巨体は、以前モカ達が遭遇した個体よりも更に一回り大きく、普通のプレッシャーボアでは持ちえない威圧感を身に纏っていた。



「ル、ルーン持ちだ!!」


「親衛隊が出てきたぞ!!」



 真打の登場だ。



「お出ましっすね……!」

 ペロリと唇を舌で湿らせると、素早く弓を構え矢を番える。

 吹っ飛ばされた男も、クンストメル商会に雇われただけあって決して腕が悪い訳ではなかったが、ルーン持ちを一人で相手にするのは荷が重かった。

 ここは予定通り、自分が対処するべきと判断するが――――。



「ぎぃあ!?」


「ぐぅ!?」


「あがっ!?」



 事態は悪い方へと転がってゆく。



「な、なんだコイツ!?刃が通らねえ!?」


「Bmooooo!」


 叩きつけられた戦斧を表皮で受け止めて平然とする巨躯の牛。



「は、速過ぎる!?」


「Shaon!」


 剣を振るった時には既に別の場所にいる高速移動する虎。



炎の弾丸フィエ・ボレーテ!」


「Bmeeeee!」


「な!?魔法が撃ち落された!?」


 炎塊を風の斬撃で消し飛ばした他と比べれば小振りだが、それでも通常よりも巨大な山羊。



 もはや怪獣と言ってもいいような強大な魔物が四体、揃い踏みしていた。



(くそっ!!ミスった!!)

 罵声が口から漏れなかったのは、隊商の冒険者のリーダーとしての責任感からか。表情にこそ出さなかったが、アルソンの額には焦りから冷や汗が伝っていた。


 元々アルソンの計画には、この場に親衛隊を引き寄せることも含まれていた。

 しかし、それは一体ずつ順々にの予定だった。


 アルソンは、戦いながらルーンの効果範囲を少しずつ広げていくという、神業と言っていいような、繊細かつ器用な作業を行っており、その範囲を広げるスピードを調整することで、一体ずつの釣り上げを狙っていたのだ。

 ただ運の悪いことに、親衛隊全てが広げた範囲にピッタリ重なる場所にいた。これをミスと言うのは酷だろう。


(まず一体を俺が瞬殺する。ウチのもんで一体。お嬢さん達んとこで一体。

 んで、最期の一体を一瞬だけ村付きに押さえて貰って、俺が速攻でフォローに入る。これしかないっすね。)

 焦りを押し殺し、素早く対処法を組み立てる。


 アルソンの実力であればたとえルーン持ちであろうと容易く斃せる。隊商の冒険者も複数人で当たればなんとかなる。マリエル達がルーン持ちに対処できるのは知っている。

 となると、やはり問題は村付き冒険者達だった。

 見た所、村付き達の実力は平凡か、それよりも少し下といった具合か。

 ルーン持ちを斃すどころか持ちこたえるだけでも精一杯だろう。下手をすれば一撃で殺されかねない。


(ここまでなんとか死人を出さずにやってきたってのに……!)

 この事態の原因がクンストメル商会にある以上、責任を取る立場なのはリーダーたるグリムハットだ。

 ただでさえギリギリなところにいる彼にとって、死人が出るのは文字通り致命傷になる。だからこそ魔物の侵入が確認された瞬間から村中を駆け回り、村人の避難と、冒険者の割り振りを必死になって行ってきたのだ。


「――――っ!」

 嚙み締めた歯がギリっと音を立てる。

 どうしようもない現実を前に、それでもアルソンは覚悟を決めて矢を番えた。



「では私は虎を、モカは猪、マリーさん達は牛をお願いします。」



 アルソンの覚悟を、知ったことかと言わんばかりに飛び出したのはラテだった。


「な!?ちょっ!?」

 彼は目を見開いて制止するアルソンを一顧だにせず、素早く指示を出すと親衛隊に襲われている冒険者達の元へと駆けてゆく。


「ったく、しゃーないわね。行くわよサノン、ポムニット!」

「僕も行ってきます。皆さんもお気を付けて!」

「そっちもね!」

「が、頑張ってください!」

 モカも、マリエル達も、ラテの指示に異を唱えることなく、それぞれの相手に向かっていく。


「――――……っあぁもう!わかったっすよ!そっちは頼んだっす!!」

 駆けて行く少年少女の後姿を呆然と見送ったアルソンは、思わず頭を掻きむしると声を荒らげ、再び矢を番える。


 冒険者達に指示を出しているのはアルソンだったが、この場にいるのはクンストメル商会の冒険者達を除けば、彼のパーティメンバーではない。

 別段、上下関係がある訳でもないので、モカ達がアルソンの指揮に従う義務はないのだ。

 しかも、モカ達で三体の親衛隊を相手するということは、残りの一体の担当はアルソンになる訳で。言外に、これはラテからのアルソンに対する指示に等しかった。

 年下の新米冒険者に指示出しされて、苛立ちが込み上げないでもなかったが、アルソンはこれを飲み込んだ。

 この状況で声を上げてもどうしようもないというのもあるが、モカ達が三体も親衛隊を相手してくれるというのは、アルソンにとっても都合が良かった為だ。


「んじゃ――――とっとと死ねっす!!」


 色々な思いが込められた矢が、空を裂いて飛翔する。


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