ラテはまだ力を秘めている


「完璧よポムニット。」

「あ、ありがとうございます。でも、わたししばらく魔法使えませんよ?」

「大丈夫よ。景気づけには十分だったから、下がって少し休みなさい。」

 ややふらついた様子のポムニットを庇うように前へ出たマリエルは、矢を番えながら眼前の魔物を見据える。

 その目には恐れなどは微塵も存在しなかった。


「矢も残り少ないんだから、節約していくわよ。」


「Gya!?」

 悲鳴を上げた魔物。

 気が付けばその額に、矢が突き刺さっていた。


「『駆け抜けろ』。」


 一言、唱詩チャントを唱えた彼女は風となった。


「Gyuga!?」


「Gibi!?」


「Gyubua!?」


 次々と魔物に突き刺さる矢。それはマリエルが放った矢で間違いない。しかし、それは何本もの矢を連続して放った訳ではなかった。


「しっ!」


 彼女が複数の魔物を斃すのに用いたのは、たった一本の矢だった。

 矢を放ち、魔物を斃し、突き刺さった矢を引き抜き、再び放つ。これを繰り返しているのだ。


 その妙技を可能とせしめているのは、歪みや欠けが無いようにルーンで強化された矢と、視界に入れていても見失いかねない程の、人智を超えた素早さで駆けるマリエル自身だった。


 なにせ矢が獲物に突き刺さった次の瞬間には、矢を引き抜いているのだ。もはや飛翔する矢と変わらぬ速度といっていい。


 この戦場において最速の冒険者とは、ルーンの力を解放したマリエルなのだ。


 彼女の本来の戦闘スタイルは高速移動砲台。

 目にも止まらぬ速さで移動しながら矢を放つ最速の弓兵だ。


 マリエルパーティに前衛がサノン一人しかいなくても問題なかったのは、この高速移動があったためだ。いかなる状況でもマリエルのサポートが届くために、奇襲を受けたりしない限りはどうとでもできるのだ。


「……やっぱり連続使用はまだキツイわね。」

 マリエルのルーンの練度では、長時間高速で動き続けることは出来ない。

 それでも今出来る最善を尽くすため、小さく息を吐くと、再び引き抜いた矢を番える。


 戦場の赤い風は、敵が全滅するまで吹き荒ぶことを止めることはない。




 ◇―――――――――――――――――――――――――――




「はぁ、はぁ、はぁ……!」

 どれだけ時間が経過しただろうか。

 倒した魔物の数は優に百を超え、なお増え続けている。

 誰も彼もが疲労を隠せない。


 ここまで冒険者側には、怪我人こそ多数いるものの死者はいない。

 普通、これだけの数の魔物に相対したら、少なくとも一人二人は死者が出ていてもおかしくはない。

 故にこれは快挙と言える。


 その要因は一体何であろうか。


 パフォーマンスを落とさず戦闘を続けるモカか。


 生物に対して特効を持つサノンか。


 高速で魔物の間を走り回り矢を放つマリエルか。


 広範囲に強力な魔法攻撃が出来るポムニットか。


 魔物のターゲットとなりながら上手く捌き続けるアルソンか。


 それとも安定した強さを持つクンストメル商会の冒険者達か。


 はたまた意外と村付き冒険者達の活躍か。


 そのどれでもない。

 彼等の戦線を支えている存在、それは――――。



「よっと、大丈夫ですか?」

「ああ!助かった!」

 鎖が繋がった短剣が、商会の冒険者の後ろから襲い掛かろうとしていた魔物を貫く。

 前方の敵に集中していた冒険者は、後ろから迫ってきていた敵に気が付いていなかったので、そのままいけば危機的状況に陥っていただろう。


 冒険者の危機を救ったのは、ラテだ。


 ラテが他の冒険者達を救った回数は最早数えきれない。

 時に冒険者を後ろから襲おうとしている魔物を屠り、時に魔物に囲まれた冒険者を鎖で吊り上げ救出し、時に集団で突撃しようとしている魔物達を蹴散らしたりと、八面六臂の大活躍だ。


 ラテがこの戦場を縦横無尽に駆けまわり、危険な状況にある冒険者をフォローすることで脱落を防いでおり、同時に一人一人が相対する戦力を調節するバランサーの役割までこなしていた。


「いやほんと、とんでもねぇっすね。」

 魔物と戦いながらラテの活躍を見ていたアルソンがポツリと呟いた。

 その額からは、戦い続けたことが理由ではない汗が流れていた。


 マリエル達の実力も先日の彼の見立てよりもずっと高かったが、ラテはそれ以上だった。


 アルソンも冒険者としての実力は、並以上にあると自負しているが、それでもラテと同じことが出来たかと問われると、断言は出来なかった。


 勘違いしてはいけないが、アルソンの実力は数多居る冒険者の中でもそこそこ上位に位置する。流石に最上位と比べれば劣るが、凡百の冒険者など足元にも及ばない。

 現に彼は魔物のヘイトを一手に引き受けながらも、目立った怪我を負うこともなく、それでいて多数の魔物を斃しているのだ。


 それだというのに、そんな彼から見てもラテの実力は驚異的だった。


「……引き抜きできないのがマジで残念っす。」

 同僚となれば、とても頼もしかっただろうに。

 つくづくあの馬鹿の所業がついて障った。

 溜息を吐きたくなる気持ちをぐっと飲みこんでいると――――。


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