到達者と津波
『月の
人の悲劇か、神の喜劇か、月が我が身を呪う。
肉に突き立つ牙の痛み、慟哭は鳴き声となりて、狩人は獲物へと成り果てた。
猟犬よ、我が愛犬たちよ、どうか涙しておくれ。
月が天に昇る、その度に。
――――【
波動はモカ達の身体を通り抜けたが何ら影響を及ぼさなかったが、魔物達には明らかな影響を及ぼした。
冒険者達が相手をしていた魔物達が、一斉にアルソン目掛けて走り出したのだ。
「これで魔物達は俺しか見えなくなってるんで隙だらけっす。
一気に殲滅するっすよ。」
アルソンが放った矢が、真っ直ぐ彼に突進する魔物を貫き、そのまま勢いを落とすことなく直線状にいた魔物を次々と貫通していった。
「……流石クンストメル商会よね。
まさかこんな田舎に、
マリエルの口から洩れたのは、乾いた笑い交じりの無意識の一言だった。
それはルーンの真髄に近付いた者の総称だ。
ルーンの力の発現たる
長文の
冒険者の中でも、この域まで至っている者は決して多くない。上級冒険者になるには
ドドドドドと地鳴りのような振動が足元から伝わる。
それを辿って視線を向けると、そこには津波があった。
「「「Grrrrrraaaaaa――――――――!!!」」」
海などない山間の土地だと言うのに、そうとしか表現できなかった。
地を埋め尽くす程の魔物の大軍だった。
「まじ、かよ……?」
あまりの光景に、残った冒険者達も息を呑む。
村を守るという覚悟を、目の前の現実は容易く揺るがしたのだ。
「いやぁ、絨毯の材料が山のようです。どれだけ大きな絨毯が作れますかねぇ。」
「いやいらないよ。この村全部絨毯敷きにする気?」
皆が怖気づくなか、暢気なやり取りを行う少年が二人。
まるでなんてことないと言わんばかりに、モカとラテは魔物の大群にもさして動揺しているようには見えなかった。
「こんな状況で呑気ねぇ、あんた達。下手すりゃこっちが絨毯になるってのに……。」
「絨毯よりもお肉だよお肉!あれ斃したらお肉パーティーしよう!全部食べ切れるかな~?」
「あ、あれ全部食べたら……死にますね。」
「まず戦闘で死ぬことを心配しなさい。こっちはこっちで緊張感のない……。」
戦闘前とは思えない緩い雰囲気に、無意識の内に緊張していたマリエル達も肩の力が抜ける。
そしてそれは、周囲の冒険者達にも伝播していった。
「よしっ!――そんじゃ、いくっすよっ!!」
アルソンの気合の号令とともに、冒険者達は一斉に魔物へと突っ込んでいった。
◇………………………………………………………………………
「『燃え盛れ』――
初撃は魔法によるものだった。
先日のフォイエルディアのものと比べると、やや小振りな炎塊が魔物の群れに着弾し、爆発と共に十数匹もの魔物達を吹き飛ばした。
「炎の魔法使いですか、人材豊富ですねぇ。」
クンストメル商会の冒険者の一人。ポムニットとは対照的に、露出度の高い格好をした女性が放った一撃だった。
魔法使い自体が冒険者の中でも多くないことを考えると、クンストメル商会の冒険者の層は確かに厚かった。
「うちのポムニットの方が優秀よ。
ポムニット、ここまで来たら遠慮はいらないわ。全力でぶっ放しなさい。」
「は、はい!」
マリエルの許可が出たことで、ポムニットはここぞというとき以外には使用禁止としていた力を解禁する。
ふぅ、と小さく息を吐きポムニットは己のルーンに意識を集める。
その集中力は凄まじく、眼前に魔物の軍勢が迫っているというのに欠片も焦った様子は見受けられない。
そして、その口から流れるように呪文が紡がれる。
「轟きしもの、天に在りし力よ、響き打ち砕け!」
唱える毎に、バチッバチッと雷閃が弾ける。
ポムニットが杖を掲げると、その先端に稲光が纏わりついてく。
そして、最後の一文が唱えられた。
「『神鳴れ』――
閃光が轟いた。
一瞬、視界が白一色に染まり、音が消えた。
そして一拍おいて轟音が響く。
視界が戻った冒険者達は言葉を失った。
モカも、珍しくラテも同じく。
アルソンもその糸目を見開き唖然としていた。
あれだけ勢いよく突進していた津波が、大きく後退していた。
否、後退した訳ではない。
先頭を進んでいた魔物が消滅していたのだ。
たった一撃の魔法。
それだけで、数十の魔物が消し飛んだのだ。
「…………お、おお、おおおぉぉぉぉぉ――――――――!!!」
歓声が上がった。
覚悟を決めていた冒険者達だったが、実際に魔物の大軍を目にすると、どうしても心の内では竦んでしまう部分があった。
ポムニットの一撃は、そんな彼等の小心を消し飛ばすのに十分な威力を持っていた。
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