不可思議な魔物とポーション




「ぐあああぁぁぁ――――!!」



 悲鳴がその場に響き渡った。



「!?」


 見れば大型の狼が男性の胴体に牙を突き立てていた。

 男性は痛みの余り気を失ったのか、悲鳴を上げた後はぐったりとして抵抗する様子を見せない。


「やめ――――!!」


 助けに動こうとするも、残酷なまでに彼我の距離は開いていた。ラテの鎖も、マリエルの矢も、ポムニットの魔法も間に合わない。

 モカ達が全力で走ったところで狼が牙を押し込み、男性の命に届かせる方が早い。

 ほんの一瞬先、瞬きの間に彼は鮮血を撒き散らして生を終える――――筈だった。


「――――え?」


 その声は誰のものだっただろうか。

 モカは、目の前の光景に唖然とした。


「Gubu!」


 彼は死ななかった。

 狼はそれ以上牙を突き立てることなく、男性を咥えたまま走り出したのだ。


「う……あ……。」

 狼が走る度に傷が痛むのか、男性の口から呻き声が零れ落ちる。それを見れば彼がまだ生きていることは一目瞭然だった。


「モカ!」

「っ!?わかった!!」

 混乱を押し込み、モカが地面を抉る勢いで走り出す。

 同時にマリエルの矢が狼の足元に突き刺さり、行動を妨げる。


「上手くキャッチして下さいね。」

「Gugya!?」

 ほんの僅かな減速、その隙を突いて飛翔する鎖が狼を締め上げた。


「よっ、と!」

 急な圧迫により開いた口から放り出された男性を、凄まじい速さで狼を追い越したモカが受け止める。


「Gya!?」

 と同時に、マリエルの矢が狼の頭蓋を貫き、力を失った身体がゴロゴロと地面を転がった。


「……傷はそこまで深くないけど、このままじゃまずいな。」

 男性を地面にそっと横たわらせ、服を切り裂き負傷状態を確認すると、大型の狼に噛まれたにしては軽いと言える傷が見えた。

 だからといって血を滴らせる傷口をこのままにしていれば、いずれ最悪の結果に行き着くのは目に見えていた。


「ラテは……手が離せそうにないな。」

 視線を向けた先では、味を占めたのか、再び魔物をチェーンハンマーにして振り回している相棒の姿があった。


「これくらいの傷ならポーションで大丈夫か。」

 腰のポーチから、一本の瓶を取り出す。

 小振りな香水瓶くらいのそれは透明度の高い樹脂製で、中には薄い青色をした液体がチャプチャプと揺れているのが見える。

 キュポンとコルクの蓋を外すと、中身を傷口に満遍なく振りかけた。


「うっ!」

 傷に滲みたのだろう、意識はなくとも小さな呻き声が上がる。

 それを努めて無視して液体を全て傷に振りかけ終えると、そこには止めどなく流れていた血が止まり、痕こそ残るものの、問題ない程度に治癒された肌があった。


「……よし!」


 満足気に頷いたモカは、男性を村付き冒険者に預けると再び戦場へを舞い戻るのだった。



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