商人はみんな胡散臭い




 ◇―――――――――――――――――――――――――――




「この村の近くに来ているダンジョンの場所を教えて頂戴。

 引き換えに、このルーン持ちの特殊個体フォイエルディアの素材を格安で売ってあげるわ。」

「…………着いてこい。」

 ド直球すぎる物言いに一瞬硬直した商人だったが、すぐに気を取り戻すと真っ直ぐ自分を見据えるマリエル達を促した。

 商人が向かったのはまだ表に出していない商品が保管されている場所、いわゆるバックヤードだ。


「ねえ、素材はお土産って言ってたのに売るの?」

「プレゼントするんだと思ってました。」

 商人とのやり取りを見て、サノン達が不思議がっていた。

 ラテとマリエルの言い分から、フォイエルディアはてっきり無料で贈呈するものだと思っていたのだ。


「相手は商人よ。無料で物を受け取るなんてことはしないわ。

 どんな小さな取引でも、必ず金銭のやり取りが介在する、それが商人ってものよ。」

「無料で物を貰うっていうのは、つまり借りを作るってことですから大抵の商人は嫌がるでしょうね。」

「タダより高い物はないってことね。」

 先導する商人にもこの会話は聞こえているだろうに、何の否定もしないということは正しいのであろう。

 サノンはほへーっと感心するばかりだ。


「でも意外とあっさりと話が通りましたね。」

「少しくらい惚けられると思ってたよ。」

「おそらくダンジョンについては元々公開するつもりだったのでしょう。」

「そうね。もう十分に利益の確保が出来たか、それともこれ以上放置した時のリスクを嫌ったのか――――。」



「――――その両方だぜ、お嬢さん。」



 突然、幌馬車から出てきた男が声をかけてきた。

 話に割って入ってきたのは40代半ばくらいの男だった。

 波打つ黒髪と整えられた髭、他の商人と比べて仕立てのいい服に、品の良いアクセサリー。泰然とした態度に、ピンと通った背筋は正にやり手の商人と言った出で立ちだ。

 袖から覗く腕は太く、隆々とした筋肉に包まれており、仮に商人ではなく冒険者だと言われても信じてしまいそうなほどに鍛え上げられていた。


「お前さんらがギルドから依頼を受けた冒険者だろ。」

「ええそうよ。あなたは?」

 凡その見当はついていたものの、一応の礼儀として尋ねる。

 それに対して男はニヤリと口の端を吊り上げる。その目はどこか品定めをしているかのような鋭さを孕んでいた。


「俺はこの隊商のリーダーを任されている、クンストメル商会のグリムハット・ワンダーワンドってもんだ。

 よろしくなぁ。」

 そこには自省の念など微塵もなく、とても堂々としたものだった。


「クンストメル商会……。」

 クンストメル商会は、ダンテでも中々に名の知れた商会だ。

 その隊商のリーダーとなると、幹部とまではいかずとも、そこそこの地位にいる人物であることは間違いないだろう。


「それで、ダンジョンについての情報を貰えると思っていいのかしら?」

「おうよ。大分稼ぎになったし、ダンジョンの動きを見るにこれ以上の放置は危険かもしれねぇしな。

 誰かが聞きに来たら素直に話すつもりだったんだよ。」

「それにしては随分と話が遅くなったものね。」

「そうだなぁ。それに関しちゃ、俺も予想外だったぜ。」

 マリエルの皮肉にグリムハットは肩を竦めて答える。

 その顔には苦笑すら浮かんでいた。


「ちょいと冒険者のおつむってのを高く見積もり過ぎてたぜ。

 まさかここまで気付かれねぇとは思わなかったんだよ。長ぇことダンジョンを追っかけてたってのに、気が付いたヤツはお嬢ちゃん達が初めてだぜ。」

 その皮肉にマリエルは苦虫を嚙み潰したような表情を浮かべる。

 実際に気が付いたのはラテであって、マリエル達はその他大勢の冒険者と同じく気が付かなかった側だ。


「……なんですぐにダンジョンのことをギルドに報告しなかったんですか?」

 マリエル達の会話を黙って聞いていたモカが口を挟んだ。

 静かな声ではあったが、そこには僅かに責めるような色が含まれている。


「おいおい、俺等は冒険者じゃねぇんだ。ダンジョン発見の報告は義務じゃぁねぇぜ?」

「そうですけど……。」

「それに、俺達だってただ儲けを貪ってた訳じゃねぇよ。ちゃんと対策は講じてるぜ。」

「どういうこと?」

 グリムハットの言葉の意味を理解できなかったサノンが尋ねる。

 マリエル達も、ニコニコと微笑むラテ以外は同じように首を傾げていた。


「お前さん等、ウチの品揃えは見たか?武器や防具が充実してただろ。ダンジョン攻略には役立つ筈だぜ。」

「確かに充実してたけど……。」

「それに外の冒険者も大勢いただろ。あれは俺達がここいら辺にいい獲物が集まってるって噂を流して集めた冒険者だ。

 腕はそこそこ程度だろうが、ダンジョンの魔物に村が襲われても十分対処できる数はいるぜ。」

 説明を受けてマリエル達の心中に浮かぶのは複雑な色だった。

 確かにダンジョン発見の秘匿は善い行いとは言えない。だが、それの対処のために冒険者を集めるというのは、商人がしなくてはいけないことでもない。

 極論、村が襲われて壊滅しようとも、商人達が罰せられることはないのだ。ダンジョンの隠匿による被害の場合は罰を受けることもあるが。


 無論そうなった場合、商人達の信用はガタ落ちしてそれ以降の商いに致命的な傷を与える可能性がある為、それを恐れたとも言える。

 また武器や防具が豊富なのも、冒険者を集めた理由も、戦える人数が多い程商人に持ち込まれる素材の数が増え、利益が増すということもあるだろう。


「う~ん……。」

 善い人ではないが、悪い人とも言い切れない。だが間違いなく優秀な商人ではある。そんなどうにも判断付かない人物像に、すっきりしないもやもやとした気持ちが拭いきれない。


「なんなら詫びって訳じゃねぇが、お前さん等が持ってるルーンを割り増しで買い取ってやってもいいぜ。」

 商人たるもの情報を制していなければならない。

 前回モカ達がルーン持ちのトスタウルフの素材を持ち込んだことはちゃんと把握していた。その時に捌かれた品の中にルーンは無かったことも。

 今回のフォイエルディアと合わせて、少なくとも二つのルーンを所持していることは確実なのだ。


「それは遠慮しておきます。」

 ラテが提案をバッサリ斬り捨てる。

 その判断の速さに内心舌打ちをする。お詫びと言いつつ、最も利益が出る素材であるルーンを買い取ろうとするのはいかにも商人らしかった。


「ならしゃーねぇな。」

「てゆーか、鑑定士もいない状況で、見精査のルーンを売る人なんているわけないでしょ。」

「ルーンは鑑定しないと売れないんですよね?」

「う、売れない訳ではないですけど、見精査のルーンだと売値は最低限になってしまうので、普通は売りませんね。」

 ルーンというものは、剥ぎ取っただけではどのような効果があるのかまだ分からない。戦闘中におそらくこういった力だろうと推測はできるが、確定した情報とは扱われない。

 その為、鑑定士の元に持ち込んで、そのルーンがどういう効果なのか鑑定書を出して貰うのだ。鑑定書があるかないかだけで、ものによっては売値が数十倍変動することもある。

 モカの新米らしい様子を見て、ワンチャン鑑定について知らないかもしれないと、ルーンを安く買い叩こうとするグリムハットにサノン達も白い目を向ける。

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