手掛かり



 ◇………………………………………………………………………



「今日はここまでにしましょう。」

 仕事を忘れた罰として、ラテを除く4人で巨大フォイエルディアを解体し終えたマリエルが提案した。


「え~?もうちょっと連携の確認しといた方がいいんじゃない?まだお互いの動き方が分かったってくらいだよ?」

「僕もまだ大丈夫ですよ。」

 まだまだいけるとアピールするサノンとモカだったが、マリエルは首を縦に振らなかった。


「予想以上に大物が続いた所為で、これ以上バリーに荷物が載せられないのよ。

 それに私も矢の残りが厳しいわ。」

 魔法と異なり、矢というのはどうしても消耗品となる。

 ある程度は再利用が出来るとはいえ、折れたり歪んだりした物は使えないし、なにより致命的だったのがフォイエルディアの炎の鎧だ。

 高熱の炎によって、命中した矢の大半が焼けてしまったのだ。


 補充しないと、とぼやくマリエルは出費を思って少しブルーになっていた。ちゃんとした矢はそれなりに高いのだ。

 故に、今回使った矢は問題ない物は再利用され、無理なものは鏃だけ回収してある。


 そういったこともあり、弓使いというのは継続戦闘能力に乏しい上、装備にかかる費用が他と比べても多い。それでも冒険者で弓を使う者がそれなりにいるのは、遠距離攻撃手段を持つ者がいるといないとでは、戦闘時の優位性が圧倒的に差があるためだ。


「じゃあ仕方ないね。」

 サノンはこれでもそこそこのベテラン冒険者である。

 納得できる理由があれば、あっさりと意見を翻すだけの柔軟さがあるのだ。


「で、でも期待していた訳ではないですが、何も手掛かりを見つけられなかったのは悔しいですね。」

「それが目的じゃなかったし、仕方ないわよ。」

 元々連携の確認がメインだったので予定通りである筈なのだが、マリエル達はどこか悔し気な表情だった。

 これは、心の隅に驚かされてばかりいる後輩に、格好いいところを見せたかったという気持ちがあったのかもしれない。

 そんな彼女達に、思いもよらない言葉がかけられる。



「手掛かりならありましたよ。」



「ほんと!?」

「手掛かりを見つけたの!?」

「なになになんなの!?」

「お、教えてください!?」

 突然のラテの爆弾発言に、全員が驚いた声を上げる。


「手掛かりを見つけたというより、引っかかっていたことが確信に変わって、それが手掛かりに繋がりそうなんですよ。」

「手掛かりに繋がる……?」

 詰め寄られながらも、ラテは笑顔のまま、傍らのフォイエルディアにポンと手を置く。

 彼の言葉を理解できた者は、まだ誰もいなかった。


「では質問です。この大物、売り捌くとするとどうすればいいと思いますか?」

 周囲の困惑をスルーして、唐突な質問を投げかける。


「そりゃ……商人に売る?」

「そうですね。ですがトスタウルフ、プレッシャーボア、フォイエルディア、こんな大物が立て続けに持ち込まれたら普通の商人では対応できないでしょうね。」

「――――そうかっ!」

 言葉の裏に最初に気が付いたのは、やはりマリエルだった。


「キッサ染めの季節でもないのにこんな田舎にずいぶんと大規模な隊商が来たものだと違和感があったけど、そういうことなら筋が通るわね。」

「つまりどいういうこと?」


「おそらく……商人達はダンジョンの場所を知っているわ。」

 

「そうなんですか!?」

「知っているどころか、ダンジョンの移動について動いている可能性が高いですね。」

 ラテは隊商について初めから疑惑を抱いていた。

 規模もそうだが、一番引っかかったのはタイミングだ。昨日マリエル達と話していた際、彼女達が村を出てダンジョンを探していた三日前の朝の時点では、まだ村に隊商は到着していなかったという。そこから計算すると、隊商が村に到着したのは三日前の昼から昨日の朝にかけてのタイミングだ。

 ちょうどその間に、モカ達はルーン持ちのトスタウルフと遭遇していたし、マリエル達は村に戻ってからプレッシャーボアに襲われた。

 そしてその素材のほとんどは、隊商に売り払われたのだ。


 偶然にしてはあまりにもタイミングが良すぎる。

 ダンジョンが近付いている村に、そのダンジョンから獲れる素材を捌けるだけの規模の隊商がやってきた。これを聞いてその二つが無関係だと思う者はいないだろう。


「でもダンジョンを発見したら、ギルドに報告する義務があるんじゃないんでしたっけ?」

「冒険者はそうだけど、それ以外の人は任意よ。義務ではないわ。」

 あまり褒められたことではないけど、とマリエルは眉を顰める。


「じゃあ商人に話を聞けばダンジョンが見つかるってことだね!」

「で、でも、そんなに簡単に教えてくれるでしょうか……。」

 サノンは能天気に笑うが、ポムニットは不安気な様子だった。


「まあ、商人がそう簡単に利益の元種を漏らすことはないでしょうけど、今回の件に関しては大丈夫だと思うわ。」

「なんでですか?」

「まずダンジョンの被害がかなり広がっていることね。これ以上ダンジョンを放置したら、遠からず人的被害が大量発生するわ。

 そうなればギルドの調査が入って厳罰に処される可能性がある。それは商人であれば絶対に避けたい筈。」

 もしギルドとの繋がりが絶たれてしまうと、公的に冒険者を雇うことが出来なくなる。それは商人として致命傷に近い。


 この世界には魔物という明確な人類の脅威が存在する。故に町々を移動するにも、その脅威から身を護る力が必要となる。

 それを担うのが冒険者だ。

 つまりギルドに頼れないとなると、その戦力を自前で用意する必要が出てくるのだ。それはあまりにも労力と金がかかり過ぎる。

 故にマリエルは、商人にとっての利益とリスクの天秤が、リスクに傾くと予想しているのだ。


「それに、お土産もありますしね。」

「ええ。これなら破壊力も抜群でしょ。」

 モカ達が首を傾げる中、マリエルとラテはその視線をフォイエルディアに向けていた。


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