大物
◇………………………………………………………………………
「うん、あれなんかいいんじゃないかしら。」
サノン達、モカ達ととんとん拍子で実力の確認ができた一行は、全員での連携を行ってみようとちょうどいい獲物を探していた。
しばらく森を探し回ってマリエルが見つけたのは、またしてもフォイエルディアだった。
だが、その姿を見て一同は少し困惑する。
「……大きくない?」
サノンの言う通り、見つけたフォイエルディアは先程の個体よりもかなり大きかった。
先程のは普通の鹿より少し大きい程度だったが、これは大きめの虎ぐらいのサイズがある。明らかに二回りは大きかった。
「特殊個体かしら。
流石にあれがダンジョンのボスってことはないと思うけれど……。」
「弱すぎても連携の練習になりませんから、ちょうどよかったのではないでしょうか。」
「それもそうね。」
ラテの言葉ももっともだと頷く。
練習でもあるのだから強すぎても困るが、弱すぎても困る。
大型フォイエルディアは見る限り、ちょうどいい相手だと思われた。
「それじゃ、フォーメーションは――――。」
戦闘時の隊形について説明しようとしたその時、草を食んでいたフォイエルディアの動きがピタリと止まった。
耳がピンと立ち、不意にその顔をこちらへと向けようと動き出した。
「まずっ、気付かれる!?ポムニット!」
「は、はいっ!」
準備もろくにできていない状態で戦闘に入るわけにはいかないと、マリエルが小声ながらも鋭い声色でポムニットに指示を出す。
ポムニットは瞬時に答え、杖を掲げ呪文を紡ぐ。
「初めにありしもの、遍く照らす輝きよ、覆いて隠せ!『光あれ』――
ポムニットの呪文が完了すると同時に、モカ達の周りを光の帯が包み込んだ。
瞬時に覆い包まれる彼等だが、それは半透明であり隠すという機能を期待できるものではなかった。
そのはずであった。
「あ、あの――わぷ!?」
「静かに。」
剣を構えながら声を上げようとしたモカの口を、マリエルが素早く塞いだ。
そのまま息を殺して、こちらを振り返ったフォイエルディアを見つめる。
「――――――――?」
完全にこちらを見ていたフォイエルディアだったが、不思議なことにまるでモカ達が見えていないかのように首を傾げると、視線を戻し足元の草を食べる作業に戻った。
「……ふぅ。」
誰ともなく息が漏れた。
「隠伏の魔法ですか。手札が多いですね。」
「まあね。この子はかなり万能よ。」
「い、いえ、そんなことは……。」
真剣に感心した声を上げるラテに、ポムニット本人ではなくマリエルが自慢を滲ませながら答えた。ポムニットも恐縮しながらどこか嬉しそうだ。
「謙遜のし過ぎは良くないわよ。
対応力の高さで言えば、あなたは魔法使いの中でもトップクラスなんだから、もっと自信を持ちなさい。」
『光の天幕』は姿を隠す魔法だ。
透明な光の膜は、中からは外の様子が窺えるが、外からは周囲の風景と同化してみることが出来ないという、生き物を相手するには非常に有効な魔法だった。
ポムニットの魔法は攻撃から補助までと多岐にわたる。
一般的な魔法使いは戦闘に重きを置く者が多い為、こういった小技が使える者は意外と少なかったりする。
しかし、実際パーティにいて本当に役に立つのは、ただ高火力なだけの者よりもポムニットのような魔法使いなのだ。
「で、どういう風に戦う?」
とりあえず相手に捕捉される危機は脱したと、サノンが声を潜めながら問う。
「そうね。
まずサノンとモカが前衛。二人で左右から挟みこんで。
ラテはその鎖で中衛いけるわよね。遊撃に回って。
ポムニットは私と一緒に後衛で皆のサポートと、いけそうなら魔法で打撃を与える。
大雑把だけどこんな形でどう?」
マリエルの案に、否を訴える者は一人もいなかった。
「よし。じゃあ行くわよ。」
矢を番えた弓が立てた、ぎしりという音が戦闘開始の合図となった。
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