剛剣
◇………………………………………………………………………
一瞬で勝負を終わらせたラテを背後に感じながら、モカはもう一頭のフォイエルディアへと突き進む。
そこに至って、ようやくフォイエルディアもこちらに気が付いたようだ。
だがそれは遅きに失した。
「はぁっ!」
すでにモカの攻撃範囲に入っていた。
上段から振るわれた剣が煌めき、銀閃を描く。
「Kyukuu!」
されど相手も然る者。
咄嗟に後ろに飛び退き、一閃を躱す。
しかし、完全に躱しきることは出来ず、片角が斬り飛ばされて宙を舞った。
「――――Kukyurrrrr!」
地面を転がる自身の一部をポカンと見ていたフォイエルディだったが、下手人であるモカを睨みつけると、獣としての矜持を傷付けられたことに憤怒の鳴き声を上げ、突進しながら残った角を振り回した。
「ぐっ!」
今度はモカが呻く番だった。
瞬時に反応し身を捩ったモカだったが、角はモカの脇腹を捉え身体を後ろへと跳ね飛ばす。
なかなかにいい一撃が入ったが、モカは特に痛痒を感じている様子はなく、すぐさま剣を構え直した。
互いに一発ずつ、痛み分けと言ったところだ。
「モカ、いい加減防御を疎かにする癖、直した方がいいですよ。」
「うるさいよ、ラテ。」
手持無沙汰になったラテが観客よろしくヤジを飛ばす。
言い返すモカだったが、その言葉に力はなかった。
自分でもよくない癖だとは思っているのだ。だが、癖というのはそう簡単に矯正できるものではない。
そんなやり取りをしていると、怒れるフォイエルディアが再度突っ込んできた。
「ふぅぅぅ……。」
モカはそれを避けると言った様子はなく、グッと腰を落とし剣を上段に構える。
完全に迎撃する体勢だ。
「Kyukuaaa!」
怒声を上げるフォイエルディアが目と鼻の先にまで迫る。
その刹那――――。
「『ご照覧あれ』!」
モカの額のルーンが輝き、剣閃が煌めいた。
斬っ!
たった一振り。
ただそれだけで、フォイエルディアを唐竹に斬り裂いた。
両断されたフォイエルディアの身体が突進の勢いのままモカの両脇を通り過ぎて行く。
「わぶっ!?」
そしてこぼれ出た鮮血がモカの顔面を汚した。
考えてみれば当然だが、生き物を斬れば血が出る。それも突進中に斬れば、溢れた血液が慣性のままに降りかかるのは考えなくても分かることだった。
「うえ~。」
「まったく、本当に後先考えないんですから。」
ぺっぺっと血を吐き出すモカに、ラテがタオルを手渡す。
呆れた様子だが、手際の良さを考えるとよくあることらしかった。
「すっごいすっご~い!二人ともめっちゃすっごかったよ!」
非常に興奮した様子でサノンが駆け寄ってきた。
目はキラキラと輝き、頬は興奮で朱に染まっている。
「いや、本当に凄かったわ。まさかここまでとは……。」
「び、びっくりです。」
マリエル達も、モカとラテの想像以上の実力に驚愕しきりだった。
「でも、これだけの実力者ならダンジョン攻略も楽になるわね。」
マリエルの言葉は本心だった。
自分達だけではダンジョン攻略に少し不安があったが、彼らの助力が得られるのならかなり安心できる。
「うんうん。
ラテ君も熟練者の動きだったけど、特にモカ君は派手だったね。まさか魔物を一刀両断だなんて、びっくりしたよ。」
「す、凄い剛剣でしたね。」
「剛剣……。」
口々に浴びせられる称賛の言葉とは裏腹に、モカは渋い顔を見せる。
いったいどうしたのかと訝し気なサノン達に対して、その理由を知るラテは快活な笑い声をあげる。
「あはははは。モカはそう言われるの嫌いですよね。
まあ、今のモカじゃただの力任せで、力の全てを剣に乗せることが出来る本当の剛剣使いとは言えませんからね。」
「むぅ……。」
剣士にはいくつもの種別がある。
長剣短剣などの種類や流派など、分類すれば数えきれないほどだが、その中でも大きく三つに分けられることが多い。
剛剣、速剣、柔剣だ。
その内、剛剣はその名の通り力を主体とした剣だ。
ただしこれは力任せに剣を振るうということではない。剛剣を振るう者達の中では、持てる力を十全に剣に乗せることが出来て初めて真の剛剣使いと名乗れるという風潮があるのだ。
モカは己の未熟さを理解している為、他者に剛剣使いと言われるとモヤっとした気持ちが芽生えてしまうのが抑えられなかった。
「え~、そんなことないよ。
今まで見てきた剣士の中でもかなり上位だと思うよ。」
「……でも、先生の剣はもっと凄いんです。僕はまだまだ足元にも及びません。」
「ど、どれだけ凄い先生なんですか?」
「本当に凄いですよ?完成された剛剣使いで、昔、ワイバーンを一撃で両断するのを見せてもらったことがありますね。」
「「えぇ……?」」
「凄かったよねぇ。」
苦い顔のモカを励まそうとサノン達がわちゃわちゃと騒ぐ様子を眺めながら、マリエルはふっと笑いを溢す。
「ほんと、頼りになるわ。」
色々と不安もあったが、より仲良くなれそうな気がした。
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