ガッカリ鹿ともう一人の強者(着衣)



 ◇………………………………………………………………………



「見つけたわ。」

 次の獲物を見つけたのは、またしてもマリエルだ。

 弓士という役柄上、視力の良さと視界の広さは一同の中でも随一だ。

 無論それだけではなく、地面に微かに残る足跡や、木々の枝折れなどを見逃さないだけの洞察力と知識があることが重要で、彼女が狩人としても一流であることを示している。


 およそ50メートルほど先。

 木々の密集する薄暗い影の中に、妙に明るい色が浮かんでいた。


「フォイエルディアね。」


 そこにいたのは鹿が二頭。

 大きさこそ普通の鹿よりも少し大きい程度だが、その姿はかなり特異だった。

 毛皮は森の中では非常に目立つ赤色。赤とオレンジがグラデーションとなっている模様は炎を思わせる。

 そして一番の特徴はまるで炎を模ったかのような二本の角だ。毛皮の色に合わせたそれは遠目から見れば本物の炎に見えた。

 総合して、全身燃え盛っているように見えるヘラジカのような鹿だ。


「派手ですね。」

「火鹿とも言われる魔物よ。ここら辺で見ることはまずないわ。

 おそらくダンジョンから出てきたんでしょうね。」

「ちなみにあれだけ炎っぽい外見ですが、熱くもなければ炎も吐きません。」

「そうなの!?」

 全身で炎アピールしておきながら、実際に火を使うことはない。界隈ではガッカリ魔物と言われることもある、ちょっと残念な魔物だ。


「大きさはそこそこだけど、凶暴性はそこいらの魔物よりもよっぽど高いわよ。」

 草食動物であるはずなのに人間も食い殺す、しっかり危険な魔物だ。油断した冒険者が殺される事件が年に複数件発生するという。

 油断は禁物である。


「では、今度は私達の番ですね。」

「ちょうど二頭だし、一頭ずつでいいよね。」

 モカが剣を引き抜き、ラテも双剣を構える。

 トスタウルフやプレッシャーボアと比べれば大した脅威ではない。

 油断慢心は以ての外だが、二人ともこの程度の相手に今更緊張することもなかった。

 自然体でゆっくりとフォイエルディアへと向かってゆく。


「頑張れ~。」

「油断しないようにね。」

「き、気を付けてください。」

 美人の声援を背に受けながら、二人の少年は戦場へと足を踏み入れる。



 ◇………………………………………………………………………



「行きますよ、モカ。」

「準備オッケーだよ、ラテ。」

 二人はルーンを発動させると同時に弾かれたように走り出した。


「速っ!?」

 背後から驚愕の声が聞こえる。

 それもそのはず。二人の速度は先程のサノンよりも更に上だったのだ。


 声が聞こえたのか、自分達に向かってくる存在にフォイエルディアの内の一頭が気付いた。

 凶暴というべきか好戦的というべきか、まだこちらに気付くことなく草を食んでいるもう一頭を気にすることなく、そいつはモカ達に向かって猛然と走り出した。


「これは私が貰いますので、モカは奥のをどうぞ。」

「了解。」

 瞬時に分担を決めてそれぞれ動き出す。


 ラテは突進してくるフォイエルディアにスピードを落とすことなく向かってゆく。

 徐々に縮んでゆく彼我の距離。

 もうあと10メートルといった距離になった時、フォイエルディアが頭を下げ、角を突き出す形で一気にスピードを上げた。

 ルーンの効果程激的ではないが、至近距離でのスピードアップは並の冒険者では反応できないだろう鋭さを持っていた。


「はは、残念でした。」

 が、それは並の冒険者の話。

 ラテはフォイエルディアの突進チャージをするりと躱すと、すり抜け様に双剣の柄に繋がっている鎖を両角に引っ掛けた。

 そして――――。


「ふっ!」


 ラテがグイっと手を引いたと同時にゴキッという、何かが折れた鈍い音が響いた。


 ズザザと音を立てながら減速したラテが振り返ると、少し離れた場所に先程すれ違ったフォイエルディアのが倒れ込んでいるのが見えた。

 倒れ込んだその様は、これ以上の戦闘は不可能であるとはっきりと告げている。

 ビクンビクンと身体が痙攣し、手足がじたばたと空を掻くがそれもすぐに動かなくなる。

 凶暴なフォイエルディア。

 その首がたった一度の交差でへし折られていた。


「ま、こんなものでしょう。」

 なんということもないと、ラテが息を吐く。


「……マジ?」

「……噓でしょ。」

「………………。」

 ラテがやったことは単純だ。

 相手の突進の勢いを利用して首の骨を折った。

 ただそれだけのことだが、その技量に傍から見ていたマリエル達は唖然としていた。ポムニットに至っては言葉を失っている。


 やったこと自体は単純そのものだったが、そこに秘められた技量は凄まじいものだった。

 目の前で加速した相手を躱す反射神経。

 すれ違いざまに正確に角に鎖を引っ掛ける技術。

 突進する魔物に引き負けないだけの筋力。

 いくらルーンの恩恵があろうとも、ラテの見せた力は全てが高水準。

 第2級冒険者どころか、第5級冒険者のサノン達すらも凌駕しているかもしれない。

 しかも、ラテの様子を見るに、まだまだ力の底を見せてはいなさそうだ。


 想定外の強者。

 マリエル達は引き入れた戦力に頼もしさを覚えた。


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