ポムニットは語る
「あ、あのっ!!」
混沌とする場に、控えめながらも芯のある声が響いた。
ギャーギャー騒いでいたその場の全員が、思わず動きを止めて視線を向ける。
声を上げたのはポムニットだった。
彼女は立ち上がり、曇りなき目でモカを見ていた。
「モカさん。貴方にお願いがあります。」
「は、はい。なんでしょう?」
「マリーさんとサノンさん、そしてわたしは三人でパーティーを組んでいます。」
朗々と語られる言葉に含まれる本気度を感じ取ったモカの背筋がピンと伸びる。
周りのラテ達も固唾を飲んで見守っていた。
「わたしはマリーさん達よりも階級は下ですが、わたし達は対等な仲間だと思っています。」
ポムニットは語る。
「仲間は平等でなければいけません。そのバランスが崩れてしまうと、真の仲間とは言えなくなってしまうかもしれないからです。」
まるで神託を下す聖者のように。
「わたし達は共に戦い、共に笑い、共に泣く。そういった共通体験を通して絆を深めてきました。」
まるで英雄譚を謳う吟遊詩人のように。
「今回のことで、そのバランスが崩れかけています。気を失ってしまったことで、わたしだけが大切な体験を逃してしまったのです。」
まるで懇願する子供のように。
「それはいけません。今後のわたし達のパーティーの仲に傷を残すことになりかねない。」
ずいっと顔を寄せられたモカが頬を染める。
「だから――――。」
前髪の隙間から覗く金色の瞳はどこまでも澄んでいた。
「わたしもあなたのアソコを見るべきだと思うんですよ。今すぐパンツを脱いでください。」
「何言ってるのこの人!?」
うん。
真剣ではあった。
内容はアレだったが。
ポムニットは心から
内容は本当にアレだったが。
「いやいやいやいやいや!?あんた何言ってんの!?さっきので頭でも打った!?」
「そうだよね~。やっぱりポムニットだけ見れなかったのは不公平だよね~。」
「あんたもなんで同調してんの!?」
とち狂った仲間の発言にツッコミを入れるが、また別の仲間が阿呆な発言をかますため、ツッコミが追い付かない。
モカの肩を掴んで詰め寄っているポムニットも、訳知り顔でうんうん頷いているサノンも、もはやマリエルの持つ常識とはかけ離れた珍生物と化していた。
食事はまだ運ばれてきていないのだから酒など入っている筈もなく、信じ難いが当然素面である。
あれ、なんで私こいつらとパーティー組んでるんだっけ。
これまでの仲間との思い出が幻かなんかだったのではないかと、自身の正気を疑ってしまう。
マリーの頼りになる仲間は、いつの間にか一人もいなくなっていた。
「ほんのちょっと、ほんのちょっとだけパンツを下ろしてくれるだけでいいんです!」
「いいわけないでしょ!?」
「……っ!……っ!モ、モカ、レディのお願いなんですから、ここはもう景気よくパーッと見せて差し上げなさぷふっ!!」
「見せられるかぁ!?いい加減にしないとマジで殴るよ!?」
「いや違いますよ?別にあなたの裸に興味がある訳ではないんですよ?ただ、わたしだけ見れていないというのがパーティーに悪影響を及ぼす可能性が高いから言っているだけで、本当に見たい訳ではないんですよ?そこのところ勘違いしないでくださいね。」
「言い訳が雑っ!?マリーさぁん!?」
「ごめん!普段は真面目ないい子なのよ!?」
モカはモカでいっぱいいっぱいだった。
はぁはぁと荒い鼻息のポムニットを前に、笑い過ぎて声もかすれ気味のラテも、呑気に笑うサノンも頼りにならない。モカの仲間と言えるのはもはやマリエルだけだった。
そのマリエルも、すでに放り投げ気味で役に立ちそうになかった。
マリエルからしても、ポムニットがこのような暴走をするとは想像できなかった。
いつも騒動を起こすのはイケメン大好きなサノンであったのだから。
実のところ、サノンの陰に隠れて目立たなかったが、ポムニットはポムニットで十分変人の類と言えた。彼女は美男の性的部位に人一倍興味津々であったのだ。
これまで裸の同年代に直面する機会がなかったことと、イケメン好きで騒がしいサノンと、イケメン嫌いでサノンを諫めるマリエルという二人の間に挟まれていたため、普段はそういった面が表に出てきていなかっただけだ。
真面目というマリエルの評価は間違いではない。いつもは引っ込み思案で常識的な女の子だ。
だが、モカというカワイイ系イケメンの裸を自分だけが見れなかったという状況が、ポムニットの理性の箍を外してしまったのだ。
(……先生、こういった場合、いったいどうすればいいんでしょうか?)
モカの脳裏に、旅立つ前にマステルから贈られた忠告が蘇る。
『いいですかモカ、ラテ。
人との付き合いは寛容であることが大切です。
なにせ冒険者という者達はへんた……変人が多いですからね。』
ああ、先生。
先生の教えはいつだって正しかったです。
ただ……僕はまだそこまでの境地には至れそうにないです。
「お待たせいたしました。」
「おまたせいたしました~!」
今にもズボンに手をかけてきそうなポムニットを必死に抑え込むモカを救ったのは、食事を持ってきたエリルーラとリルルーラだった。
ホカホカと湯気を立てる料理の香ばしさに、バカ騒ぎがピタリと止まる。
胃を直接殴りつけるような匂いの暴力に、誰かのお腹から自然とぐぅと音が鳴る。
献立は特大のステーキ。
先程倒したプレッシャーボアの肉を持ち込んだ特別メニューだった。
「お、お騒がせしてごめんなさい。」
マリエルが申し訳なさげに頭を下げた。
人前で、しかも完全な下ネタで散々大騒ぎしていたことが恥ずかしかったのか、その頬は赤く染まっていた。
「いえ、いいんですよ。」
エリルーラは気を悪くした素振りもなく微笑む。
彼女は宿屋を経営する女将だ。
この小さな村でも『湖の小鳥亭』に宿泊する冒険者は少なくない。
冒険者に限らず、人が飲食時に騒ぐのはままあること、酒などが入ればより一層だ。長年宿屋をやっていればそういった客と接することなど慣れっこだった。
そんな彼女からすれば、モカ達は問題のある客ではない。
騒ぐと言っても今の時間はほかに客はいないし、内容も他の冒険者が話しているもっと生々しいものと比べれば微笑ましいとすら言える。
特に彼らはおすそ分けと称して、プレッシャーボアの肉を分けてくれたのだ。
客に出せる程の量ではないが家族で楽しむには十分な量だった。
賄賂と言えば聞こえが悪いが、贈り物を貰った人を嫌いになることはそうない。
ついでに残りの肉もかなりの量を安価で引き取ることも出来たので、宿としても万々歳だった。
「はい、どーぞ。」
「ありがとうリルちゃん。」
「ありがとうございます。うん、美味しそうですね。」
美味しそうな食事と共に届けられた、リルルーラの笑顔に癒される。
その純粋さを見ていると、先程まで馬鹿々々しいことで大騒ぎしていたことが恥ずかしくなってくる。
「さて、今後の行動方針や報酬など話すことはまだまだありますが、まずは食事を楽しみましょう。」
「そうね。それじゃ、いただきましょう。」
「「「いただきます。」」」
食前の祈りと共に、テーブル一杯に並べられた料理にそれぞれ手を付けていく。
美味しい食事もあって、今度は健全な内容で話が盛り上がっていった。
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