信用の理由
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所変わって『湖の小鳥亭』の食堂。
聞けばマリエル達もここに宿泊しているとのこと。
その一画でモカ達は一つのテーブルを囲い、顔を突き合わせていた。
まだ夕刻というには早い為か、食堂内に他の人は居らず、貸し切り状態だった。
すでに注文し終え、今は食事が来るのを待っている所だ。
「それで、仕事の手伝いとはどういうことですか?」
一息ついたところでラテが質問した。
「いきなりでごめんなさい。
もう一度ちゃんと自己紹介させてもらうわね。私はマリエル・マリアッチ。第5級冒険者よ。マリーって呼んで。」
「じゃああたしも。サノン・スケイン・ファラーダ、同じく第5級冒険者だよ。」
「ポムニット・ポンポルドです。第4級冒険者です。」
畏まった自己紹介を受け、モカ達も自己紹介を返す。
「私はラティアス・アートマン。第2級冒険者です。ラテでいいですよ。」
「モカート・ブレンデです。同じく第2級冒険者。モカって呼んでください。」
それぞれ自己紹介しながら、自分の冒険者ライセンスを見せ合う。
ライセンスには持ち主の名前と、申告した等級が記載されていた。
冒険者ライセンスとは、ギルドで登録した際に渡されるカードで、冒険者である証明となる。
冒険者の階級は、第1級から第13級まであり。
登録した時は第1級から始まり、実績を積むことで階級を上げていく。
実力を測る目安となるが、昇級の条件はいろいろとあるため階級が高いからといって強いとは限らない。
「私達は今、ギルドからの依頼でここいら一帯で起こってる異変について調べてるの。」
「異変?」
マリエルが語り始めた内容は、モカ達にとって初耳だった。
と言っても、モカ達はまだ旅立ったばかり。そういった情報を得るだけの伝手などないのだから当然と言えた。
バスク村にも、そのような話はまだ伝わっていなかった。
「そうよ。最近ここらへんでは、魔物の生息域が変化している兆候が出ているようなの。」
「なんでも、街道とかに普段現れない魔物が出現しているみたいなんだって。」
その話を聞いて、モカは昨日のトスタウルフを思い出した。
今になって思えば、村から歩いて一日程度の街道にルーン持ちの魔物が出現するなど、あまりにも不自然だった。
自分の運の悪さからそういったこともあるか、などと思ってしまっていたが、もっとよく考えるべきだった。
「その調査と原因の究明、解決を手伝ってほしいのよ。」
「第5級というとそこそこベテランだと思いますが、何故手伝いが必要なのでしょうか?」
「これまでの調査と、さっきのプレッシャーボアのことを考えると、この異変の原因は当初想定していたものよりも、かなり規模が大きいかもしれないの。私達だけでは手に負えない可能性があるわ。」
「なるほど。ですが何故私達を選んだんですか?私達は駆け出しの第2級冒険者ですよ?」
「プレッシャーボアを投げ飛ばせるような人がただの駆け出しな訳ないじゃない。今はまだ階級が低いだけで、実力はもっと上だと思ってるわ。」
「ふむ。」
やり辛い。
マリエルは目の前で微笑む美少年を見てそう思う。
自分よりも年下であるのに、幼さを感じさせない程に冷静で慎重だ。
このくらいの年頃であればもっと勢いで行動するものだと思ったが、出鼻を挫かれた気分だ。
別に二人を騙くらかそうという訳ではない。
しかし、プレッシャーボアを容易く討伐したモカの力は自分達にとっても魅力的だった。命の危険が大きいこの依頼のことを考えると、彼という戦力を逃す手はない。
また、容易く惹き込めないラテもやり辛いとは感じるものの、冷徹であってこそ良い冒険者だとも思う。自論ではあるが、それで見るとラテはモカとはまた違う意味で魅力的な戦力だ。
「ですが、昨日は貴方は私達にあまりいい印象を抱いていなかったようですが、突然心変わりしましたね。」
「っそれは……そうね、昨日の態度に関しては本当にごめんなさい。貴方達に不快な思いをさせてしまったわ。」
「大方、箔を付けるために大法螺吹いていると思ったんでしょう?まぁそう見られても仕方ないですし、気にしていませんよ。」
心から申し訳なさそうに謝罪するマリエルを、ラテは軽い調子で許す。
彼にとって、マリエルの態度は別段気にもならないものだった。モカに至ってはそうだったのか、と驚いているくらいだ。
「ねぇラテ。手伝ってあげようよ。
別に急ぐ旅でもないんだし。先生も、困ってる人がいたら自分に問題ない範囲で助けてあげなさいって言ってたじゃん。」
「……はぁ。モカがそう言うのなら仕方がないですね。
わかりました。微力ながらお力添えさせていただきますよ。」
「ほんと!?やったー!!」
「ありがとう。本当に助かるわ。」
「……ありがとうございます。」
基本的にモカの希望を尊重するラテが折れると、サノンは諸手を挙げて喜び、マリエルもほっとしたように笑みを浮かべる。ポムニットは礼を言うが、なにか別のことに気を取られているようで、心ここにあらずといった様子だ。
「あ、でも昨日は僕達のことを疑ってたんですよね。どうして急に信じてくれたんですか?」
「いや、そりゃねぇ……。」
ふと思い浮かんだ疑問を口にするモカに、マリエルは気まずそうに頬をかく。
「――――あんな格好のまま助けに来てくれる人が、悪い人の訳ないじゃない。」
「っ!?」
マリエルの視線が自身の下半身に向かったのを見て、顔を真っ赤に染めたモカがバッと股間を隠す。
「っあははははははは――――!!」
ラテが再び爆笑の渦に囚われる。
キッとモカが睨みつけるが、ラテの笑いは止まらない。
可笑しくてたまらないとばかりに蹲っている。
「そうそう!モカ君めっちゃイケメンだったよ!」
テンションの上がったサノンが、ペカーと音がしそうな笑顔でモカを見る。
マリエルは嫌な予感が脳裏を過る。こいつがこんな顔をする時は、必ず余計なことを言うのだ。
「あっちの方はかわいかったけど!!――――あ痛っ!?」
案の定余計なことを言ったサノンの頭を、真っ赤な顔のマリエルが引っ叩いた。
なにが可愛かったのかは不明である。マリエルの脳裏にもそれがはっきりと思い浮かんでいるが、不明と言ったら不明なのだ。
「ひゅくっ!ははははははは――――!!」
「ラテェッ!!」
バンバンとテーブルを叩きながら笑うラテを、羞恥に目尻に涙を浮かべたモカが怒鳴りつける。ひきつけを起こす程に笑い転げているラテもまた、目に涙を浮かべていた。
師であるマステルに、女性には紳士的に接するよう教育されたモカは、サノン達に怒りを向けることが出来ず、無遠慮に笑い続けるラテを叱りつけるしかなかった。
あっちはあっち、こっちはこっちで大騒ぎだ。
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