ご機嫌な朝
◇―――――――――――――――――――――――――――
「んん~!久々のベッドでよく眠れたよ。」
一夜明けて翌日。
数日ぶりに固い地面ではなく、ふかふかなベッドの感触を堪能したモカはすっきりした表情で体を伸ばす。
旅や戦闘の疲れもすっかり吹き飛び、晴れやかな表情だ。
ここは『湖の小鳥亭』の一室。モカ達が宛がわれた部屋だ。
さして広くない室内に、ベッドが二つだけ置かれたシンプルな内装だが、昨日までの野宿と比べたら天国に思える。
「おはようございます、モカ。」
「おはよう、ラテ。っと、ありがと。」
先に起きて身支度を整えていたらしいラテが放り投げてきた服をキャッチし、手早く着替え部屋を出る。
ギシギシと音を立てる木製の階段を下りて行くと、食堂にはすでにマリエル達の姿があった。
「おはよ~!モカ君、ラテ君。」
「おはよう。」
「お、おはようございます。」
食堂に入ってきたモカ達に気が付いたマリエル達が、口々に挨拶する。
サノンは元気よく、マリエルは朗らかに、ポムニットは昨日の醜態を思い出したのか俯き加減に。
「おはようございます。」
「昨日は楽しかったですね。」
挨拶を返しながら席に着くと、昨日のことを掘り返そうとするラテにモカとマリエルから呆れた視線が向けられる。
時間が経ち冷静になったことで自分のアレな言動を思い出し、憐れポムニットは顔を真っ赤に染め更に俯いてしまう。
「余計なこと言わないの。」
「わかりました、お母さん。」
「誰がお母さんよ。」
席に着くと同時に、朝食を持ったリルルーラが笑顔で近付いて来る。
「おはよう、お兄ちゃんたち。はい、朝ごはんだよ。」
「ありがとうリルちゃん。」
朝食を受け取るとリルルーラは二パッと笑い、トテトテと厨房に戻っていく。
その後ろ姿をにこやかに見送る。朝から微笑ましいものを見て心がほっこりしたモカ達だった。
「それで、昨日話した通り、今日はお互い準備を整えて明日から動くわよ。」
焼きたてのパンに噛り付きながら、マリエルが今後の予定を確認する。
昨日の夕食の際に決まったことで、お互い旅疲れもあって、今日は二組共に休息することとなっていた。
「それで、皆さんはどうする予定ですか?」
カリカリに焼かれたベーコンを頬張りながら尋ねるモカ。
塩気がちょうどよく、旅の最中には食べることの出来ない複雑なうま味を感じる。
本日の朝食は香ばしく焼き上げたパン。カリカリのベーコン。採れたて新鮮野菜のサラダに茸のスープとご機嫌な朝食で、全員の気分を朝から盛り上げてくれる。
「まずは水浴びに行くよ。
昨日はなんだかんだで出来なかったしね。」
「そうよね。結局身体拭いただけだたし。
あ。あんた達覗きに来るんじゃないわよ?」
「しませんよ!?」
昨日はプレッシャーボアのこともあって、話が付いた頃にはすっかり日が暮れており水浴びするには厳しい時間となっていたため、泣く泣くお湯を貰って体を拭くだけで済ませたのだ。
だからこそ、今日はいの一番に水浴びするとサノン達は決めていた。
「あはははは。君達はどうするの?」
「とりあえず、トスタウルフの素材を処分したいですね。」
「素材の売却ね。
そうね、この村にギルドの出張所はないから、普通に商店で売るしかないわね。」
「ギ、ギルドで売却した方が功績にもなって昇級しやすくなるんですけどね。」
ギルドとは、冒険者を管理する国営組織である。
冒険者は基本的に全員がここに所属しており、素材の売却から依頼の仲介、副業の斡旋まで、様々な面で冒険者をサポートしてくれる。
魔物素材の売買方法は人によって様々だが、冒険者はギルドに下ろすのが常道だ。
交渉次第では商店に卸した方が高額になることも多いが、ギルドに素材を卸すとそれが功績となり階級が上がり易くなる為、ポムニットの言うように大抵の冒険者はギルドを利用する。
階級が上がるとギルドからの優遇を受けられるので、低級冒険者は昇級に苦心する者も多い。
「結構荷物になっちゃってますし、ここで売っちゃいます。ちゃんとした処理も出来ていないから、このままだと質も落ちちゃいそうだし。」
「ん~、そうだよねぇ。そこら辺が素材売却の一番のネックだよね。」
素材の売却は冒険者の重要な収入源であるが、持ち運べる素材には限界がある。また、魔物素材はなまものである為、ちゃんとした処理をしないまま放置してしまえば腐ってしまう物もある。
「あ、後、ルーンの売却は出来ないと思いますよ?」
「まぁ、小さい村ですしね。仕方ありません。」
ルーンの中には売却すればかなりの高額になる物も少なくない、だからこそギルドや大商店でしか取引できないといった欠点も存在する。
このモント村のような小規模な村には、それだけの取引を行える商店は存在しないだろう。
話しながらも食事の手は止まらない。
冒険者は基本的に早食いだ。
いつ魔物に襲われるか分からない場所でダラダラと食べるわけにはいかないため、自然とそうなるのだ。
例に漏れずモカ達も手早く食べ進め、あれやこれやと話し合っている内に、全員が朝食を食べ終わっていた。
「にゃ~。おいしかった。」
「はしたないからやめなさい。」
満足そうに腹を擦るサノンを、マリエルが窘める。
パンを二回もおかわりした健啖さを見せた彼女だが、露出した腹部は括れたままだった。食べようと思えば、まだまだ入りそうだ。
「じゃあ、私達は出てくるわね。」
「まったね~。」
「し、失礼します。」
いそいそと宿を後にするマリエル達を見送ったモカ達は、食後のお茶を一服する。
数日ぶりのまったりした時間を楽しんでいた。
「一休みしたら商店を探しに行きましょうか。」
「うん。あ、女将さんに聞けば教えてくれるんじゃない?」
「別にいいですよ。女将さんも忙しいでしょうし。散歩がてら探してみましょう。」
小規模な村だ、適当にぶらついていればその内目的地にはたどり着けるだろう。
場所を聞いたとしても、門番の案内のように逆に混乱する可能性もある。
特にやらなくてはいけないことも多くはないので、散歩ついでに探すくらいで十分だと言えた。
「お店?お兄ちゃんたち、お店さがしてるの?」
「そうだよ。」
モカ達の話に、食器を下げていたリルルーラが反応した。
クリンとした瞳が、モカ達を真っ直ぐ見つめている。
「じゃあ、わたしが案内してあげる!」
リルルーラの提案に、モカ達はどうしようかと顔を見合わせる。
必要はないのだが、可愛らしいリルルーラと遊ぶのは楽しそうだとも思う。
「う~ん、そうだねぇ。
お母さんに聞いていいよって言われたらお願いしようかな。」
「わかった!お母さ~ん!」
「……よかったかな?」
「いいんじゃないですか?急ぎの用事がある訳でもないですし。
リルちゃんに相手してもらいながら散歩でもしましょう。」
厨房へと走っていくリルルーラの背を眺めながら話し合う二人。
ラテの言う通り、特に予定がある訳ではないのだ。今日一日ぐらい、リルルーラと遊んでも罰は当たらないだろう。
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