爆笑と提案
◇………………………………………………………………………
「皆さん、大丈夫でしたか?」
二頭目のプレッシャーボアが完全に息絶えたのを確認したモカは、張っていた気を緩め、サノン達に笑顔で声をかける。
先程まで鬼神もかくやといった戦いを繰り広げていた人物とは思えない、穏やかな表情だ。そのギャップは凄まじかった。
笑顔を向けられたサノン達は、命の危機を脱したばかりの為かどこか落ち着かない様子だった。
二人とも顔を赤くして、マリエルはちらちらとモカを見ては目を逸らすを繰り返して、サノンは両手で目を塞いでいるが、指の間は大きく開かれて、隙間から見える瞳は一点をじっと見つめていた。
居た堪れない、見てはいけないものを見てしまったかのような態度だ。
「どうしました?……どこか怪我でも!?」
「んにゃ~……怪我とかはないけど……。」
「その……ねぇ……。」
もごもごと口籠り、要領を得ない言葉を溢す二人に、モカは不思議そうに首を傾げる。
なにか自分が気付いていない問題が残っているのだろうか。
「えっと……?」
不安げな様子のモカを見て、サノンは一度大きく息を吐くと、意を決したように口を開いた。
「一応、女性の前だからさ……そろそろ、その……隠した方がいいんじゃない?…………下半身。」
下半身。
そう言われて何のことだと疑問が湧いたが、そこでハタと気付く。
彼女達を助ける前に自分はいったい何をしていただろうか。
思いだした瞬間、顔が真っ青に染まる。
そしてゆっくりと視線を下げてゆき――――。
「あなた……丸出しよ?」
マリエルの言葉で、自分が素っ裸であることにようやく気が付いた。
「…………いぃやああああぁぁぁぁ―――――――!!??」
モカは悲鳴と共に駆け出し、湖に勢いよく飛び込んだ。
「おや、何かあったようですね?」
「う、ん。ここは……私どうして……?」
盛大に水飛沫が上がると同時に、戻ってきたラテが首を傾げ、気絶していたポムニットが目を覚ました。
◇………………………………………………………………………
「あーっはははははははは――――――――!!」
ことの顛末を聞き、ラテが普段の冷静さをかなぐり捨てて大笑いを始めた。
地面を転げまわり、目尻からは涙すら流れている。
この態度に怒りを露わにしたのは、当事者にして彼の相棒たるモカだ。
「ラテッ!!笑い過ぎじゃない!?」
「だって、だって……。あなた前にも同じこと仕出かしたっていうのに、またやったんですか?全然学習してないじゃないですか。」
ラテの言葉に、モカの顔は怒りと羞恥で更に真っ赤に染まる。
モカは以前にも故郷の村で同じことを仕出かしたことがあった。
その時は、モカは一日落ち込んでいた。トラウマとまでは言わないが、あまり掘り返したくない過去だ。
勿論、ラテは今日と同じように大笑いしていた。
モカがプンプンと怒り、ラテが笑いながらいなす。
その様子だけ見ていると、先程までの戦いが夢幻だったのではないかと思ってしまう程に和やかな雰囲気だ。
サノン達はモロに見てしまった当事者ということもあって、口を挿んでいいかもわからず戸惑っていた。
「……ぷっ!あははははっ!」
二人の仲睦まじいやり取りを見守っていると、突然堪えきれないとばかりに笑い声が聞こえてきた。
込み上げてくる笑いに、マリエルが思わず吹き出してしまったのだ。
「マ、マリー?」
年相応なその姿と、戦闘時の凛々しさのギャップに笑いが抑えられなかった。
突然笑い出したマリエルに、サノンは戸惑い、ポムニットも珍しい光景に目を白黒させている。彼女がこんなに声を上げて笑う姿なんて、そこそこ付き合いの長い彼女達も初めて見た。
モカ達も、言い争いを止めてポカンとしている。
「――――はぁっ!
遅くなったけど、助けてくれてありがとう。」
「あ、そうだったね。ありがとう。」
「ありがとうございました。」
一頻り大笑いした後、姿勢を正し、モカを真っ直ぐ見つめ頭を下げて礼を言うマリエル。
続く形でサノンとポムニットも頭を下げる。
いきなり畏まったお礼をされて、モカの方がたじろいでしまう。
「ところで、一ついいかしら。」
「何でしょう?」
真っ直ぐこちらを見つめる真剣な目に、自然と背筋が伸びる。
「貴方達、私達の仕事を手伝ってもらえないかしら。」
「…………はい?」
あまりにも唐突な展開に理解力が及ばなかったモカは首を傾げ、ラテはいつもの通り微笑んでいた。
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