第4話
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「モカとラテの門出を祝って、乾杯!」
「「乾杯!」」
三つのコップがぶつかり合い、軽やかな音を立てる。
夕食を兼ねた、二人の旅路の無事を願う小さな宴が始まった。
丸テーブルには所狭しと料理が並び、香ばしい匂いが食欲を掻き立てる。
鳥の香草焼き、山菜のパスタ、コーンのスープなど、それぞれの好物が大量にあるのも空きっ腹に拍車をかけた。
乾杯後は会話もそこそこに、待ちきれないと料理に手を伸ばす。
健啖家三人が無心で食べるものだから、テーブルいっぱいの料理はみるみる減っていき、そうかからずに料理の大半が三人の胃袋の中へと消えた。
「しかし、あんなに小さかったモカとラテがいつの間にかこんなに大きくなって……。
時が経つのは早いものだね。」
お腹がいっぱいになった満足感に浸っていたマステルから、どこか昔を懐かしむような言葉が零れ落ちる。
酒が入っている為か、その目は少しトロンとしている。
明日になれば二人は旅立ち、しばらく会うことも出来なくなる。旅立ちは喜ばしいことであることは間違いないが、心の奥底に潜む寂しさだけはどうしても隠せなかった。
「僕達ももう十三歳ですからね。大人の仲間入りですよ。」
マステルの寂寥感を感じ取ったのか、モカがことさら明るく、おどけるように笑った。
この国では成人の年齢というのは決まっていない。親が大人と認めれば大人と扱われる。
大体、十五歳から十八歳くらいが平均だが、モカ達くらいの年齢で大人扱いされる者も少なくはない。
モカとラテも、旅立ちの許可と同時にマステルから成人としての認定を受けていた。
「ははは、本当に大人なら自分を大人だなんて言わないものだよ。」
「むぅ……。」
図星を突かれてむくれるモカ。
それを見てクスクスと肩を揺らすラテ。
成人こそ認めたものの、マステルからすれば二人はまだまだ子供。
二人を見る瞳には、隠しきれない慈愛が宿っていた。
マステルは二人の実の父親ではない。
モカは、マステルの友の忘れ形見で、モカの両親がとある事故で亡くなってしまった為、マステルが引き取ったのだ。
両親を亡くして塞ぎ込んでいた幼いモカを、マステルは必死に支え、励まし続けてきた。その甲斐あって、今では心優しい立派な少年へと成長した。
一方のラテは、拾い子だった。
モカを引き取ってしばらく経った頃、モカが近所の川辺で倒れているラテを見つけてきたのだ。
見つかった当時のラテは記憶がなく、身寄りも不明だった為、マステルが引き取った。
モカが積極的に甲斐甲斐しく世話をしたことで、明るく自由な少年へと成長した。
マステルは二人を実の子のように、いや、実の子以上に愛情を注いで育てた。
そんな二人が明日、自分の元を旅立つのだ、寂しくない訳がない。
だが、それ以上に誇らしかった。
マステルはふと、泣きそうになっている自分に気が付いた。
しかし、愛する息子達に弱い姿は見せられないと、溢れそうな想いをぐっと堪える。
「モカ、ラテ。」
じゃれ合っていた二人が振り向く。
マステルは二人の瞳をじっと見つめると、ゆっくりと語りだした。
「モカ、君の気持は今も変わらないかい?」
「はい。僕は必ず高位冒険者になって、目的を果たします。」
ハキハキとした力強い、迷いのない返事。
その言葉には身を焦がしかねない程の熱が籠っていた。
こちらをまっすぐ見つめるオレンジの瞳が、猛る炎のように轟々と燃え盛っている。
マステルは小さく息を吐いた。
今よりもずっと幼い頃にその決意を語った時と、まったく同じ目をしていた。
モカの頑固さは誰よりもよく知っている。
一度決めたことは、決して諦めずに最後までやり通す。
昔からそういう子供だった。
「ラテも同じかい?」
「ええ。モカの目的達成のサポートをする、それがすっと変わらない私の目的です。」
家族ですからね、と微笑むラテの瞳にはモカのような熱はなかった。だが、それに負けないくらいの、深い家族愛が感じられた。
ラテもまた、モカに負けない程に頑固だ。
変わらない二人の様子に、マステルは困った様な、もしくは安堵したような曖昧な表情で微笑んだ。
「なら私に言えることはもう何もない、君達の門出を言祝ごう。
二人は明日、冒険者として未知の世界へ旅に出る。
辛いことも、苦しいことも多いだろうが、二人なら折れることなく、どんな苦難をも乗り越えられると信じている。」
コップを傾け、喉を潤すと、真剣な表情を緩ませ柔らかな笑みを浮かべた。
「まぁ、何が言いたいかというと……。
二人とも、せっかくの旅を存分に楽しみなさい、ということだね。」
「「はい!」」
威勢よく返事する二人に、かつて自分が故郷を旅立った時もこんな顔をしていたのかな、と過去に想いを馳せる。
「あと、これは冒険者の先輩というより、人生の先輩としてのアドバイスだけど。人との縁は大切にしなさい。
思わぬところで助けになったりすることもありますからね。」
「はい、わかりました!」
「……いやモカ、あなた人見知りじゃないですか。本当に大丈夫ですか?昔は初対面の人に会うときは毎回、先生の背中に隠れてましたし。」
「いや、いったいいつの話をしてるのさ!?後、僕人見知りじゃないからね!?」
「ははは、まあまあ二人とも。」
ラテが揶揄い、モカが怒り、それをマステルが宥める。
そして三人一緒に笑い出す。
尽きることのない思い出話と共に、故郷で過ごす最後の夜はゆっくりと更けていった。
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