第3話
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モカとラテが暮らす家は、住宅が密集する地帯から少し外れた場所に、ひっそりと建っている。
建物自体はそれほど大きくはなく、一家族が暮らすには十分といった程度だが、柵に囲われた庭は広く、その一部は林のようになっている所もあった。これは家の主が週に数度、村の子供達を集めて勉強や武芸を教える青空教室を開いている為、それ相応のスペースが確保されているのだ。
「先生~!ただいま戻りました!」
玄関の前でモカが元気よく声を張り上げた。
二人共両手が塞がっている為、誰かに扉を開けて貰わないと家に入れないのだ。
呼びかけに応じるように、ほどなくして扉がガチャリと開いた。
姿を現したのは、眼鏡をかけた初老の男性だった。
「おかえりなさい、モカ、ラテ。ずいぶん盛大にお祝いされたようだね。」
二人の荷物を見て苦笑するこの男性の名はマステル・アルバン。
モカとラテの師匠であり、育ての親でもある。
短く整えた灰色の髪には所々白髪が混じっているが、決して老け込んでいるわけではない。
穏やかな顔立ちに、髪と同じ灰色の瞳を大きな丸眼鏡で覆っている様だけを見れば、弱弱しい学者という印象を受ける。
しかし、その肉体は弱弱しさとは程遠く、服の上からでも筋肉の厚みがはっきりと見て取れる程に鍛え上げられていた。
巌のような身体でありながら威圧感を与えず、むしろ包み込むような優しさすら感じられる雰囲気を纏っているのは、彼の誠実な人柄の成せるところであろう。
子供達に勉強や武芸を教えている為、村人達からは先生と呼ばれている。
「ただいま、先生。」
「ただいま戻りました。」
「さあ、お入りなさい。豪華な夕食になりそうだね。」
二人の両手から零れ落ちそうな程の大量の食材を見て、モカと全く同じ台詞を口にしたマステル。モカがいかに彼の影響を受けて育ったのか、よく分かる一幕だった。
「作るのは私達ですけどね。」
「ははははは……。
――――いつもすいません。」
揶揄い口調のラテに、一瞬笑って誤魔化そうとしたマステルだが、すぐに観念したように肩を落とし、素直に頭を下げた。
彼は料理ができない男だった。
日々の暮らしの中で、彼のあまりおいしくない料理に耐えかねた二人が料理を習い出してからここ数年間、台所はずっと二人の場所だった。
こと料理に関する話題において、マステルは二人にまったく頭が上がらないのだ。
「……ぷっ!あはははははっ!」
二人のコントのようなやり取りを見ていたモカが、堪えきれずに笑い出した。
それに釣られるようにラテも、そしてマステルも一緒に笑い出す。
三人は笑い声を響かせながら、仲良く家の中へと消えていった。
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