第47話:脅迫
王都グラナディア。
夕刻間際の黄昏時。
門前に立つのは、黒衣の魔術師。
胸元に刻まれた、黒十字。
門兵が槍を構える。
「名を名乗れ」
「アルカディウス魔道国家より、書簡を携えて参った」
静かな声。
威圧はない。
だが空気が張り詰める。
⸻
城内、謁見の間。
エリアスが書簡を受け取る。
黒い蝋封。
中央に刻まれた紋章。
「……レオニウス」
低く呟く。
指揮官の眼で封を観察する。
罠は感じない。
だが、嫌な気配はある。
「開封します」
蝋に指をかけた、その瞬間。
――破裂音。
赤い光が走る。
エリアスの身体が跳ねる。
「ぐっ……!」
瞳が反転。
槍を掴み、床を叩き割る。
暴風のような魔力が広間を震わせる。
「敵……排除……!」
完全に意識を奪われている。
アリアが叫ぶ。
「精神干渉!」
ガロンが盾を構える。
「エリアス!正気に戻れ!」
だが槍が振り抜かれる。
柱が裂ける。
その時――
イーリスが前に出た。
「静まりなさい」
杖が床を打つ。
白い紋様が広がる。
蝋封の破片が空中で凍りつき、逆回転する。
「呪いの核は封蝋。書簡ではない」
冷静な声。
指先で印を切る。
光が、砕ける。
エリアスの身体から力が抜ける。
膝をつく。
荒い呼吸。
「……くっ……」
イーリスが蝋の残骸を見つめる。
「開封を感知する術式」
アリアが息を呑む。
「……つまり」
「向こうは知った」
沈黙。
エリアスが書簡を拾い、読み上げる。
⸻
“グラナディア王国諸侯へ”
“友誼の確認のため、アルカディウスへ参集せよ”
“即時”
“返書は不要”
署名――
レオニウス
⸻
理由は書かれていない。
だが、全員理解した。
断れない。
エリアスの拳が震える。
「……狙いは、あの眼か」
医療室。
昏睡するザコ。
右眼は閉じたまま。
守る者は限られている。
アルベルトはまだ戻らない。
サイラスも到着していない。
最悪のタイミング。
そのとき。
黒衣の使者が一歩前に出る。
「では、参集を」
床に魔法陣が展開される。
次元が裂ける。
紫と黒の光が渦を巻く。
奥に、玉座が見える。
アルカディウス。
高い天井。
そして――
玉座に座るレオニウス。
微笑んでいる。
声が、直接響く。
「さあ。こちらへ」
冷たい。
感情はない。
だが確実に、誘導している。
「待つのは嫌いなの」
ポータルが安定する。
これは通路だ。
罠ではない。
だからこそ恐ろしい。
エリアスがイーリスを見る。
「どうする」
イーリスは静かに言う。
「行かなければならない」
「だが、ザコが」
全員の視線が医療室へ向く。
ポータルは玉座に直結している。
つまり――
即時参集。
拒否は敵対宣言に等しい。
そして王が不在。
守りは薄い。
レオニウスは知っている。
全部。
医療室。
その瞬間。
ザコの指が、僅かに動く。
右眼の奥で、微光。
まだ目覚めない。
だが――
天は、見ている。
ポータルの向こうで。
レオニウスが、ほんの少しだけ首を傾けた。
「遅いわね」
夜は、裂けたまま。
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