第48話: 遠隔干渉
ポータルは揺らいでいた。
紫と黒の光が渦を巻き、玉座の間へと続く回廊を映し出す。
黒衣の使者が告げる。
「長くは保てません」
エリアスは医療室の方角を一瞥した。
ザコは昏睡中。
右眼は閉ざされたまま。
アルベルトはまだ帰還していない。
時間がない。
「……行くしかない」
イーリスが静かに頷く。
「半数が参集。半数が残る」
守りをゼロにはできない。
ガロンが医療室の警護に残る。
エリアス、アリア、イーリスはポータルへ向かった。
踏み込む直前。
エリアスが低く呟く。
「なぜ、ザコを要求しない」
返答はなかった。
だがポータルの向こう――
玉座の間で、レオニウスが微笑んだ。
「眠っているのでしょう?」
その声は、直接脳裏に響いた。
空気が凍る。
「無理に起こすのは酷よ」
紅茶を傾ける仕草。
「いずれ、こちらへ来るわ」
ポータルが閉じる。
王都に残されたのは、薄い守備と、眠る少年。
そして――静寂。
⸻
医療室。
窓の外で風が止んだ。
ガロンが腕を組み、壁にもたれている。
「嫌な夜だな……」
その瞬間。
ザコの右眼が、ゆっくりと開いた。
焦点が合っていない。
だが、光っている。
赤黒い輝き。
「……開門」
低い声。
ザコのものではない。
床に魔力が滲む。
紋様が浮かび上がる。
ガロンが跳ね起きる。
「おい、待て……!」
王都の上空。
誰にも見えぬ魔法陣が展開される。
精神回線。
遠隔同調。
⸻
アルカディウス。
玉座の間。
レオニウスは目を閉じていた。
指先が、わずかに動く。
「素直ね」
エリアスが睨む。
「何をしている」
レオニウスは目を開けない。
「壊していないわ。触れているだけ」
イーリスの顔色が変わる。
「精神干渉……遠隔で?」
「ええ」
微笑。
「器の強度を確かめているの」
⸻
白い空間。
ザコは横たわっている。
動かない。
その背後に、巨大な“眼”。
ゆっくりと瞬く。
そこへ、靴音が響く。
レオニウスが歩いてくる。
「起きなさい」
指先が、少年の額に触れようとした――
羽音。
空間が軋む。
光が裂ける。
巨大な影が、背後から睨みつける。
レオニウスの眉が、僅かに動いた。
「……なるほど」
干渉が、弾かれる。
⸻
医療室。
ザコの身体が跳ねる。
右眼が一瞬、黄金に輝いた。
そして閉じる。
魔法陣が消える。
ガロンが息を呑む。
「今のは……なんだ」
⸻
玉座の間。
レオニウスがゆっくりと目を開ける。
「面白いわね」
初めて、ほんの少しだけ。
愉悦が混じる。
「壊れない」
エリアスが剣に手をかける。
「貴様……!」
レオニウスは首を傾げる。
「安心して。まだ奪わない」
微笑。
「けれど――守れると思わないことね」
沈黙。
王都は、今も静かだ。
だが見えない糸は、既に繋がっている。
夜は、深くなった。
汚ねえ天使は 祈らない —汚天祈(おてんき 末紀世 @matz_kiyo
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