第44話: ねむれる眼
王都は静まり返っていた。
遠くで鐘が鳴る。
夜番の合図だ。
医療室には、ランプの灯りだけが揺れている。
ベッドに横たわるザコ。
細身の身体。
黒髪は乱れ、目の下の隈は消えない。
眠っているだけ――のはずだった。
「脈も安定している。呼吸も正常です」
マッテオは優しく包帯を整える。
「ですが……」
言葉を濁す。
アリアが静かに問う。
「ですが?」
マッテオは視線を上げる。
「右眼だけ、反応があるのです」
その瞬間。
ザコの右眼が、ゆっくりと開いた。
瞳孔は動かない。
だが――
奥に、淡い青白い光が揺れている。
意識はない。
身体も動かない。
なのに、眼だけが“こちらを見ている”。
ラミエルが小さく息を呑む。
「お姉ちゃん…」
イーリスが首を振る。
「いや。これは違う」
静かな声。
「これは、天が“覗いている”眼だ」
空気が重くなる。
⸻
――夢の中
白い空間。
地平も空もない。
ただ、鐘の音。
ゴォン……
ゴォン……
水が、空へと逆流していく。
ザコは立っていた。
貧相な装備のまま。
錆びた短剣を持ったまま。
「……なんだよここ」
声は吸い込まれる。
そのとき。
声がした。
「選べ」
低くも高くもない。
感情のない声。
「何をだよ」
「選ばれし者だけを救うか
それとも――」
世界に亀裂が走る。
光の裂け目の向こうで、
無数の“何か”が蠢く。
ザコは顔をしかめる。
「はぁ?知らねぇよ」
「逃げれば、楽だ」
その言葉に、ザコは笑った。
情けなく、乾いた笑い。
「逃げるのは得意だけどな」
一歩、前に出る。
「でもよ。選ばなきゃいけねぇなら」
右眼が、強く光る。
「選ばねぇ」
――その瞬間。
白い世界が砕けた。
⸻
現実
ザコの右眼から、
一滴、青い光が零れ落ちる。
それは床に触れる前に、消えた。
マッテオが震える声で言う。
「……恐らく、夢を見ています」
アリアの手が杖を握りしめる。
「理力ではない……これは」
イーリスは静かに目を細める。
「目覚めは近い」
窓の外。
星の並びが、僅かに変わる。
誰も気づかないほど、ほんの少し。
だが確実に。
夜は、まだ終わらない。
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