第23話: 神意を名乗る者


⸻静寂も束の間の気休め…

レオニウスの黒い、でも流れとして

   正しい蹂躙が始まっていた。



最初に滅びたのは、名もなき小都市だった。


石造りの神殿、低い城壁、季節ごとに市場が立つだけの、どこにでもある街。

武装した兵は少なく、王と呼ばれる者すらいない。


ただ――

神を疑ったことなど、一度もない街だった。


⸻


空が、静かに割れた。


雷鳴はなかった。

爆音もない。


影が落ちただけだ。


禁忌術式によって姿を消した兵たちが、

“最初からそこにいた”かのように街の上空に現れる。


降下。

斉射。

制圧。


すべてが、淡々と進んだ。




⸻


「抵抗は確認されませんでした」


玉座の間で報告を受け、レオニウスは扇子を軽く打ち鳴らす。


「そう。良かったわね」


その声音は、心底ほっとしたようですらあった。


「争いは、神もお嫌いになるもの。

 だ、が ――沈黙された今、誰かが“判断”しなくてはならないのよ」


壁一面に広げられた地図。

一つの都市が、赤く塗り潰される。


⸻


次は、山間の交易都市。


次は、学問で知られた自治領。


次は、神殿を多く抱える、信仰国家ですら。


理由は毎回、違った。


• 神意の解釈が甘い

• 同盟の意思が曖昧

• 神の沈黙を軽んじた


だが結果は同じだった。


「裁きは下された」


それだけで、すべてが終わる。


⸻


グラナディア王都・軍議室


地図の前で、誰も言葉を発しなかった。


赤い印が、確実に近づいている。


「……三つ、か」


ザコが、思わず数えてしまう。


次に塗り潰されれば、

その次は――グラナディア。


右眼が、わずかに熱を帯びた。


(逃げ道を、探している)


その事実に、ザコは唇を噛む。


英雄なら、立ち向かうことを考えるべきだ。

だが自分は、一兵卒のザコだ。


「神意、神意って……」


ダンテが軽口を叩こうとして、途中で黙る。


「……いや、冗談にできねえな、これ」


ガロンはもはや癖になってしまった盾を磨く手を止めない。


音だけが、やけに響いた。


⸻


ヴェルサニア・聖域


イーリスは、膝をついていた。


神域に満ちる静寂。

オーディンは、何も語らない。


「……主よ」


声が、震える。


裁きを名乗る者が、世界を壊している。

それを止める言葉を、神は与えない。


沈黙は、肯定ではない。

だが――否定でもない。


(委ねた、ということ……?)


ヴァルキリーとして、

神の意思を伝える役目を持つ者として。


イーリスは、初めて“神が遠い”と感じた。


⸻


ザコの内側


(ミカエル……)


答えはない。


だが、右眼の奥で、確かな焦燥が渦巻いていた。


――遅い。

――そして選別が、早すぎる。


天界なら、まだ議論があった。

まだ迷いがあった。


だが地上では、

「正しい」という言葉が刃になる。


(あいつは……裁いているんじゃない)


ザコの背中を、冷たい汗が伝う。


(“終わらせて”いる)


ミカエルの感情が、初めて濁る。


焦り。

怒り。

そして――恐怖。


このままでは、

“選ばれる”前に、すべてが消える。


⸻


地図の赤は、また一つ増えた。


世界は、神を待たない。


そして裁きを名乗る者は、

次の“正しさ”を決めるため、微笑んでいる。


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