第24話: 神に届かなかった祈り



―――これは、神を憎む前のレオニウスの話。



まだ彼が「大司教」でも「裁きの代行者」でもなかった頃。

アルカディウスは、ただの寒村だった。


レオニウスには、守るべき人がいた。

名は出さなくていい。

恋人でも、家族でも、弟子でもいい。


共通しているのはひとつ。


世界にとっては、どうでもいい命だった。



その日、村は襲われた。


理由はくだらない。

金、権力、快楽、あるいは「気分」。


加害者は逃げた。

法は届かなかった。

王は動かなかった。


そして――

神も、沈黙した。



レオニウスは祈った。


必死に。

神殿で。

血に濡れた手のまま。


「正義を示してくれ」

「裁いてくれ」

「このままでは、何も救われない」


返事はなかった。



数日後。

ヴァルキリー・イーリスが現れる。


彼女は告げる。


「魂は運ばれました。

 それが、神の定めです」


レオニウスは怒り、そして笑った。


「定め?

 では、奪った者は?」


イーリスは…答えない。

答えられない。



その瞬間、

レオニウスの中で“神”は死んだ。


いや、正確には違う。


神は「存在しているのに、裁かない存在」だと理解した。


これが決定的だった。



レオニウスは誓う。


「ならば、私が行こう」

「神に代わって、裁こう」

「神の沈黙を、暴いてやる」


彼は知恵を集め、力を集め、

禁忌と呼ばれる術すら拒まなかった。


目的はただ一つ。


神に、直接“なぜ裁かないのか”を問うため。



やがて彼は国家を築く。


神聖魔導国家アルカディウス。


信仰の名を借り、

神の権威を利用し、

神に最も近い場所へ登りつめるための国。



その過程で、

実妹、イーリスは離脱する。


「あなたは、正しい。

 でも……それは神ではない」


レオニウスは答える。


「ならば聞こう。

 神は、いつ裁く?」


イーリスは沈黙する。


それが、決別だった。



回想の最後。


現在のレオニウスが静かに呟く。


「神は見届けると言った」

「委ねると言った」


「……だから私は、裁く」


“神が沈黙を選んだ世界で、

 最も神に近い者”として。


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