第19話: 狼煙


城から帰還したグラナディア学級の面々は、兵舎で一息ついていた。


疲れた体を伸ばし、布団や簡素なベッドに横たわる。

窓から差し込む午後の陽射しが、普段通りの平和な空気を漂わせる。


「王様、寝てたか?」

ダンテがふざけた口調で声を上げる。


仲間たちも笑いながら、軽く肩を叩き合ったり、武器の手入れをしたりしている。


その一方で、ザコの中では青い右眼がひっそりと考えを巡らせていた。


ミカエル――ザコの右眼に宿る天界の存在は、自身が天界へ戻る道筋と、地上での行動計画を慎重に練っていた。


天界の秩序と、地上の命を守る責任の板挟み。

静かな時間の中で、彼女の意識だけが忙しく動いている。


カルディス高地の砦――両国の合意で“共有”されることになったその要塞は、現在、実質的にグラナディアとヴェルサニアの友好関係を象徴していた。


戦いの足音が遠ざかったかのような、束の間の平穏。


しかし、その日も長くは続かなかった。

北の空に、突如として暗雲がたちこめる。


厚い雲が太陽を覆い、不穏な空気がグラナディアの街と兵舎に降り注ぐ。


兵舎の窓辺で、ザコは無意識に体をこわばらせる。

遠くから聞こえる低い轟音、何かが動く気配――それは、これまでの平和を破壊する予兆だった。


「……なんか、嫌な感じだな」

ガロンが眉をひそめ、窓の外を見上げる。


その視線の先には、まだ見ぬ敵、あるいは天界さえも揺るがす“何か”の気配があった。


アウスタークの監視台から狼煙があがる。

それは“侵攻”を意味する知らせだった!


いち早く察知したのはヴェルサニアのイーリス率いるヴァルキリー軍団。


アルカディウス魔道国家の大軍がグラナディア地方を目掛け南進している!!

至急知らせよ!


そんな事も知らぬまま、グラナディアでは酒盛りが始まっていた。



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