第18話: 神の沈黙を好機とする国

アルカディウスの空は、今日も曇っている。


その国の最奥、円形魔導議場で――

レオニウスは背筋を伸ばして立っていた。


白髪交じりの長髪を後ろに流した、落ち着いた年嵩の男。

腹は出ていないし、威圧感もない。

なのに、誰も彼を軽く扱えない。


「んー、でね。結論から言いますぅ」


柔らかく、ほんのり笑みを浮かべて話す。

声はオネエだけど威嚇じゃなく、軽いお喋り感。


「神様、ちょっと黙ってるわねぇ」


ざわ、と議場が揺れる。

天使は落ち、ヴァルキリーは判断を保留。

禁忌は破られ、死者は戻り、

でも、裁きは来ていない。


レオニウスは手をひらりと動かし、

宙に浮かぶ魔導地図に目を落とす。


「沈黙ってのは、無視とは違いますぅ」

「判断を保留するってことは、放置してるのと同じ事」


軽く肩をすくめる。

周囲の者は息を飲む。


「ならば、私たちがやればいいわけ」


魔導地図が淡く光る。

光点がひとつ、グラナディア方面に動き出す。


「侵略じゃないのよ。あくまで“介入”」

「奇跡が勝手に暴れ出す前に、ちょっとお手入れするだけ」


議場の一人が小さく口を開く。


「それって、戦争になりませぬか……?」


レオニウスはふっと微笑む。


「戦争ってね、勝ち負けを決めるゲームみたいなもの」

「私たちは遊びに来たんじゃないの」


少し真剣な目になる。


「秩序を回収する」

「奇跡を管理する」

「無自覚な“希望”が世界を壊す前にね」


魔導陣が静かに唸り、空間が低く震える。


「神が動かないなら、天使が迷うなら、

人間が可能性を示したなら――」


ふわっと柔らかい笑みで宣言する。


「――次は私たちの番です。ほほっ」


地図の光点が動き出す。

軍じゃない。

計画そのものが、進軍を始めた。


まだ誰も知らない。

停戦の裏で、

戦争よりずっと厄介な存在が動き出したことを


大司教レオニウス。


神を代行する男。

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