第17話: 全体救済への兆し



玉座の間は、拍子抜けするほど明るかった。


重厚な神殿でもなければ、魔法陣が刻まれた床でもない。

日差しが差し込み、窓際には観葉植物。

玉座は玉座だが、どこか座り慣れた椅子のようで、肘掛けには無数の傷が刻まれている。


そこに――

アルベルト・グラナディア王は座っていた。


「おお!

勇者ザコよ!」

「そなたのけいけんちは…ゴニョゴニョ…


…初対面である。


ザコは一瞬、言葉を失った。

隣のガロンが小声で「これwマジでドラ◯エだった……」と呟き、イーリスは必死に笑いを堪えている。


「いやぁ、遠かったろ?

道中、沼とか踏まなかったか?」


「えっ?いやw踏んでません」


即答するザコ。


アルベルト王は豪快に笑った。

白髪はあるが、顔色は驚くほど良い。

背筋も伸び、毎日この椅子に座っていると言われても疑わない。


――この男が。

数百回の禁忌・蘇生術を行使した王。


ミカエルは、無言でその姿を見つめていた。


神の視座から見ても、この男は異常だった。


老化。

衰弱。

昏睡。

寿命の切り売り。


禁忌の術を使うたびに、代償は確実に積み重なるはずだ。

だがアルベルト王は、立っている。

座り、笑い、喋り、統治を続けている。


「おお、そっちの綺麗な嬢ちゃんは?」


「……イーリスです」


「ほう!

イーリスと申すか!」


ザコ「…王様、隣国の指導者様ですよ!」


「ドキィーっ!♡」


ミカエルは、初めて理解できない感情に触れていた。


この男は――

神を知らない。

神に興味がない。

裁きを恐れていない。


それでもなお、神の領域を踏み越え続けている。


「王よ」


ミカエルがザコを介してついに口を開く。


「なぜ……

なぜそこまでして人を救う?」


アルベルト王は、首を傾げた。


「ん?

そりゃあ――」


少し考えてから、あっさりと言った。


「時間をかけりゃ、救えるからなぁ?」


一瞬、玉座の間が静まり返る。


「一人分の命でもさ、

ちまちま使えば、いっぱい助かるだろ?」


「……神の裁きは、怖くないのですか」


「来たことねぇしなぁ」


カラカラと笑う。


「来るなら来るで、その時考えるさ。

ほら、寝込んだり老けたりはするけどよ、

今すぐ死ぬわけじゃあないしな?」


ミカエルの中で、何かが音を立てて崩れた。


――これは。

奇跡ではない。


理論だ。

継続だ。

積み重ねだ。


選別でも、審判でもない。

時間を味方につけた救済。


ミカエルは、確信してしまった。


全体救済は、夢ではない。

神の特権でもない。


人間が、すでに証明している。


「……ザコ」


ミカエルは、震える声で言った。


「私は……

神のみわざを体現する人間を、初めて見た」


ザコは、王を見た。


ギャグみたいなおっさん。

適当で、雑で、神を知らない男。


けれど――

この男は、確かに救っている。


「なぁ王様」


ザコは一歩、前に出る。


「…

世界、全部救えると思うか?」


アルベルト王は、少しだけ真面目な顔をした。


「ほやぁ?全部は無理だ」


即答。


「でもな」


椅子の肘掛けを叩く。


「無理じゃない分は、全部やる」


その言葉を聞いた瞬間。


天界が光った。


それでも


神自体は沈黙を続けている。




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