第6話: 世界は 優しくない
焚き火が、ぱち、と鳴る。
夜の前線拠点は、妙に静かだった。
静かすぎる。
勝っているはずなのに。
誰も、浮かれていない。
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「……兄貴」
ガロンが、焼けた干し肉をかじりながら言う。
「俺さ」
「正直、よく分かってねぇんだよ」
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「……何がだ?」
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「俺ら」
「誰と、どこまで戦ってんだ?」
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少しだけ、間。
「そういや…よく分かってねぇな…」
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近くで酒を飲んでいた古参兵が笑う。
「……お前ら新人は、そうなるよな」
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男は、焚き火の向こうを見る。
まるで、地図を思い出すみたいに。
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「今、俺らがやり合ってんのは」
「ヴェルサニア魔導公国」
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ガロンが眉を寄せる。
「魔導公国……って、あの?」
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「ああ」
「魔法を兵器にした国だ」
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火の粉が舞う。
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「俺らの国――」
「グラナディア残存王国はな」
「生き残りの国だ」
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「昔、何回も負けて」
「逃げて」
「逃げて」
「……それでも、残った」
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ザコは、黙って聞いていた。
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「でも」
「ヴェルサニアは違う」
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「勝つために」
「魔法を作る」
「兵を作る」
「戦争を作る」
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ガロンが、少しだけ顔をしかめる。
「……勝つために、生きる国か」
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「いや」
古参兵は首を振る。
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「勝つために、“死なせる”国だ」
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沈黙。
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「……で」
ザコが、初めて口を開く。
「もっと上も、いんだろ」
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古参兵が、苦く笑う。
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「ああ」
「いる」
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「アルカディウス神聖魔導国」
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空気が、少し重くなる。
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「……あそこは」
「魔法も」
「宗教も」
「神様も」
「全部、本気だ」
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「人間を、守るために」
「人間を、選ぶ」
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焚き火が、大きく弾ける。
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「価値のある街は守る」
「価値のない土地は切る」
「それが、“救済”だと本気で思ってる」
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ガロンが、小さく呟く。
「……なんだよ、それ」
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「世界はな」
古参兵は言う。
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「優しくないんだ」
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沈黙。
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その時。
頭の奥で、声。
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《……当然だ》
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冷たい。
だが、どこか静かな声。
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《選別は、合理的だ》
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ザコは、小さく息を吐く。
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「……だりぃな」
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少しだけ。
焚き火が、強く燃えた気がした。
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遠くで、雷が鳴る。
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世界は今も。
どこかで。
何かを。
切り捨てている。
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そして。
そのどこかで。
誰かが。
逃げて、生き延びている。
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