第5話: 大司教レオニウス出立!



砦攻略から数日。


小国部隊の進軍速度は、明らかに異常だった。


勝つ。

だが、誰も無理をしていない。

死者が、少なすぎる。


その報は、やがて魔道国家へ届く。



大聖堂、上層。


「……連勝、ですか」


レオニウスは報告書を指先で撫でる。


「可愛いわねぇ」


側近が一瞬、固まる。


「小国が必死に生き延びようとしている姿、嫌いじゃないの」


微笑む。


「……でも」


「壊れる時は、一瞬よ」



数日後。


密偵の報告。


「一兵卒が、戦況を操っているように見える」


レオニウスは、静かに笑った。


「好きよ、そういうの」


「一番弱そうな場所が、物語を壊す」



小国・前線拠点。


空気が、撫でられた。


誰も気付かなかった。


最初からそこに居たみたいに。



「ごきげんよう」


白金の法衣。

整いすぎた姿勢。

磨かれた靴音。



「……兄貴」


ガロンが小声で言う。


「……なんか来たぞ」


別の兵が呟く。


「誰だよあの……濃いオッサン」


「聞こえてるわよ?」


レオニウスは振り向かないまま言う。


「失礼ねぇ」



視線は一直線。


ザコへ。



「あなた」


「顔、上げてくださる?」



ザコが顔を上げる。


その瞬間。


レオニウスの呼吸が止まった。



一歩、下がる。



「……あら……」



「……まあ……」



小さく、笑う。



「醜くて」


「……美しい」



沈黙。



「神の右眼」



空気が凍る。



レオニウスは、ゆっくり近づく。


「それ……危ないわよ?」


優しい声。


だが、完全に上から。



(欲しい)


(これは、絶対に)



「放っておけば」


「あなた、壊れる」


「周りも、壊す」



一瞬。


本音。



「……研究したいわねぇ」



すぐに、微笑む。



ガロンが前に出る。


「……こいつに何の用だよ、オッサン」



沈黙。



レオニウスは、ゆっくりガロンを見る。


そして。


笑う。



「元気ねぇ」


「嫌いじゃないわ」



少しだけ、声が低くなる。


「今は、何もしない」


間。


「でも」


「そのうち、ね?」



去り際。


振り返らないまま。



「その眼」


「……大事にしてあげて?」



完全に。


所有物を見る目だった。



沈黙。



「……兄貴」


ガロンが言う。


「……何なんだよ、あのオッサン」



「やめろ」


別の兵が小声で言う。


「絶対ヤバいオッサンだろ、あれ」



ザコは、何も言えない。



(……やべぇ)



《当然だ》


頭の奥。


冷たい声。



《合理的に考えれば》


《お前の眼は、回収対象だ》



「回収って言うな……」



《安心しろ》


《最短で終わる》



「安心材料が一個もねぇよ……」



遠く。


雷鳴。



何かが。


確実に。


動き始めていた。


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