第4話: 進撃と…戒め


瓦礫が崩れる音。

鉄の匂い。血の熱。


ザコは前に出た。


「……俺は死なねぇ」


強がりではない。

言い聞かせだ。


右眼の奥で、冷たい意識が揺れる。


――無謀だ。


声は淡々としている。


矢が飛ぶ。


本来なら、避けられた。


だがザコは、わずかに反応が遅れた。


肩を裂く衝撃。

肉が裂ける音。


「ぐっ……!」


地面に膝をつく。


――警告はした。


「……なんで、避けさせねぇ」


――許可していない。


冷たい。


守護ではない。

審査だ。


ザコは血に濡れた手を握る。


「俺は……俺の足で、生き残る」


沈黙。


そして、ほんのわずかに。


視界が研ぎ澄まされる。


罠の位置。

敵の死角。

瓦礫の崩落予測。


だがそれは“完全な奇跡”ではない。


最適解の提示だけ。


選ぶのはザコだ。


ガロンが叫ぶ。


「兄貴!下がれ!」


ザコは立ち上がる。


「……黙れ。俺はまだ立ってる」


痛みは本物。

恐怖も本物。


だが、生きている。


その事実が、何よりも重い。


右眼が、微かに青を宿す。


――生存は許可する。


「……上から目線だな」


かすかに笑う。


快進撃と呼ばれるほど華麗ではない。


泥臭い。


転び、這い、血を流しながら前へ出る。


だが部隊の損耗は異様に少なかった。


偶然か?


違う。


誰も気づいていないだけだ。




———




遠く、神聖魔導国家アルカディウス。


大司教レオニウスは報告書を閉じる。


「一兵卒が……死なぬ?」


静かな笑み。


「匂うわねえ?」


名前を記す。


一兵卒ザコ


まだ嘲笑の印として。



———



戦場に戻る。


ザコは肩を押さえながら空を睨む。


「俺は選ばれたわけじゃねぇ」


――ならなぜ生きている。


「知らねぇよ」


風が吹く。


煙が流れる。


右眼は静かに閉じる。


――証明しろ。


その声は、戒めだった。


ザコは歩く。


無敵ではない。


許可制の生存者として。

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