第28話 結
「卒業証書、授与」
見渡せば、数人しかいない体育館。
マイクの前に立つのは校長先生ではなく、中学生の担任。
「鏑木 心」
「うっす!」
一人だけいた隣には誰もいなく、壇上へ向かう途中にも今年小学生を卒業する二人しかいない、もはや家族や教師の方が多い。
そんな人数に対して広すぎる体育館に声が響くと、周りの人たちの表情が少しだけ綻んだように見えた。
「鏑木くん、高校生になっても頑張りなさい。明るく素直な君を、先生はこれからも誇りに思いずっと応援していますよ」
「あざっす、これからも石橋を叩いていきます!」
「それは……君には少し難しい、かも?」
「あれ? 使い方って……合ってますよね?」
「三日前の補修でやったからね……それは大正解、花丸あげたいけどね? 鏑木くんには難しいかもって先生は思っちゃうなぁ~」
「正解なら良いんですよ、正解なら」
一枚の卒業証書を貰った心は、壇上の上から両親に向かって大きく手を振って派手に壇上から飛び降りる。それから二人の小学生たちを抱きしめ、存分に頭を撫で回した後、笑いながら体育館を出た。
「卒業かぁー、あっという間だった」
終わってみれば、早すぎるとさえ感じるほどだ。
小学生の時からいるとは言え、入学式が一昨日くらいに感じる。
「あ、そうだそうだ」
スマホを取り出して、委員長――――〝玉石 ここ〟へ連絡を入れる。
「卒業式おわったー! 委員長も卒業おめでとう! っと。……委員長も忙しいんだろうなぁ」
一月から連絡がほとんど返って来ないことが気がかかりではあるが、自分には全く理解できないくらい難しいことをやっているから忙しいんだろうと割り切った。
どうせ、いつかは会うことになる。その時に聞けばいい。
「さて、帰るかー。今日くらいは家でゆっくりしよっと」
すると、体育館の方から呼ぶ声が響く。
「心! 一緒に帰るわよー!」
「ぶぇっ、ぐっ! ぶぇっ! こんなにっ、大きくなって……! ダメだ! お父さん……涙で前が見えないよっ!」
「いや、親父……泣きすぎじゃない?」
もはや母さんに支えられて歩いてる状態の親父は、これから車を運転して帰ることが出来るのだろうか……
「ちょっと、みっともないわよ?」
「だってぇええ!」
「もう三回目なんだから少しは慣れなさいよ!? ……もうっ」
何も問題なく、いつも通りに戻った日常を謳歌した。
正直言うと、委員長がいなくなって一人だったのは寂しかったけど……。
「あははは! やっぱ泣きすぎだって!」
そんな日と――――間もなく、お別れだ。
◆
三月十二日 午前十時二十分。
対馬 船着き場。
「そんじゃ、行って来ます」
本島へ向かう客船へ乗り込む。
「京都の学校に行っても気合で頑張るのよ、心」
「全寮制だって帰って来てもいいんだからな? お父さん寂しいから」
「俺も寂しいからちゃんと帰るよ。久しく会えないから、姉さんと兄ちゃんによろしく言っといてね」
「癸さんによろしくね」
「うん、わかった!」
しばらくの別れ。
その事実を実感すると、少しだけ淋しく思える。
船が出発し、島と離れていく度に帰りたい気持ちが湧き上がるような……そんな気持ちだ。
そんな思いに
「――――あっ」
船から見える、島の端にある家から二人の姿が見える。
「行ってらっしゃい」
「行ってこい」
豆粒ほどの大きさでも、心の耳にはしっかりと声が届いた。
「そっか、そういや……師匠たちはこの島から出られねぇんだっけ? でも、二人は普通に会えるでしょ」
切っても切れない関係だ。
簡単かは分からないが、二人には両親よりは多く会う機会があるはず。
それでも人前にほとんど出ない師匠まで見送ってくれていた。
その言葉に返答するように、心は大きく手を振る。
次第に沖ノ連島が見えなくなっていき、海の上を進んでいく。
「色んなことがあったなぁ」
人生とはどう変わるか分からないものだと、ここ二ヶ月間で感じることが増えたような気がする。今までの当たり障りない日常に色付けられたものは、それほどまでに濃い色をしていたのだろう。
今までのことを思い返していること約二時間――――本島に到着した。
「おぉ~、なんか詰め込まれてんなぁ。ニュースで見る景色だ」
沖ノ連島のような自然は感じない。
むしろ、心の瞳にはニュース番組で見た景色よりも黒く染まって見えた。
大小様々な建物、大勢の人、車……パッと数えられないほどの多さに、これが本島かと田舎者のように関心していると、
「心くん」
「おっ」
船着き場には誓さんが待ってくれていた。
「誓さん、久しぶりっすね~。スーツ姿もお似合いっすよ」
「ははは、ありがとう。心くんも大きくなったね……それに随分と鍛えたみたいだ。前に会った時とは雰囲気から違うよ」
「そうっすかぁ、照れるな~」
「ふふ……さぁ、行こうか。もう気持ちは切り替えられているようだしね」
誓の少し後ろを着いていくように歩き始める。
「後はなるようになるんでね。……まずは、俺がやりたいことを見つけないと」
「良い心がけだね、少し会わないだけで物凄い成長を感じるよ。向こうに行ったら、今まで何をしていたか聞かせてくれないかい?」
「あんまりっすよ~? やってたこと毎日同じだったし」
人混みに紛れながら、船着場を後にすると黒塗りの車が停まっていた。
窓から中が見えないスモークガラスになっており、中に何があるのかは外から全く見えない。
「あの黒い車……あんな車あるんすねぇー」
「どれだい?」
「ほら、あの黒い車。俺の目だと黒いから見分けつけんのムズいっす」
「あぁ、あの車かい? ははは、確かに心くんには紛らわしいかもしれないね」
すると、誓の足はその黒塗りの車のもとへ、
「さっ、乗ってくれ。お昼ご飯を食べてから向かおう」
「なんだよ、誓さんの車かよ」
黒い車に乗り込むと、中は予想通り少し暗かった。
それにしっかりと呪術が施されているのが見て取れる。
「……ふぅ、久しぶりの外は大変だよ。何故か皆の視線を避けることが出来ないんだ、死角に入っていても見つけられてしまう」
「そりゃーね、誓さんカッコいいっすもん。テレビで見るアイドルなんて目じゃないって、もし願とか祈も一緒にいたら大変なんじゃない?」
「そういえば……二人も同じようなことを言っていたかもしれない。というか、話は変わるんだけどお昼は何が食べたい? 本島は色んな食べ物があるよ」
「いいっすか? いっぱい食べますけど……」
「何にも気にせず、どーんと食べてよ」
「それじゃ、テレビで見たんすけどマックってとこ行きたいっす!」
「おっ、いいねぇ。確かに沖ノ連島にはないもんね、それじゃ行こうか」
車を静かに発進させた後も二人の会話は尽きることはなかった。
マク○ナルドのあの特徴的な看板が見えるまで、それは続く。
「というか、荷物少ないね? それで全部かい?」
「こんなもんじゃないっすか? 一応、必要なもん全部持ってきましたけど……あっ、スマホの充電器がねぇ」
「いや、それ以外にもっと必要なものがある気がするけど……?」
「なんすか?」
「ほら、服とかさ。絶対に足りないでしょ、それじゃ」
「入ってますよ、七着。このバックめっちゃ収納できるんです!」
「……一応、陰陽寮にも服屋はあるから心配いらないか」
「信用ないっすか……」
マックに到着し、心の大量の注文に店内が大慌てになるという問題もあったが……その後も他愛もない会話を繰り返し車を走らせる。
それから一時間ほど経過した、午後三時頃――――
「なんか、人気ない場所に来てますけど?」
車は山道を走っていた。
前にも後ろにも他の車は見当たらず、景色全てが緑色に染まる。
「流石に車ごと陰陽寮へ行くからね。監視カメラもなく、他の視線もないような場所じゃないといけないんだ」
「あー、なるほど」
「夜だと簡単なんだけどね、昼間は少し大変なんだ」
坂道を上がって行き、より遠くの景色が見渡せるようになった瞬間。
「――今だね」
少し速度を落としながら、誓は一枚の札を外に投げる。
すると大きな〈表開扉〉が現れた。
「(この向こうが――――)」
車が〝写し世〟へと入ると、景色が一変する。
緑一面だった景色は大量に車が停まっている、どこかの駐車場に着く。
車を移動させてゆっくりと停車、
「さぁ、到着だよ」
車から出ると、街並みが少しだけ見えた。
「おぉ……ここが――――」
ほとんどが瓦屋根の古風な造りになった建物。
道はレンガで作られており、その上を人々が闊歩する。
その他も沖ノ連島にあったものや、少しだけ景色を楽しんだ本島のものとは造りが違うように見える。
まるで、別の時代にタイムトラベルしてしまったのような気分だ。
「陰陽寮かぁ~」
見慣れない街並み。
感じたことのない空気感。
島の何倍となる人の動き。
「心くん、着いて来て。やることが沢山あるんだ、まずは私の家――
持って来ていたバックを肩にかけ、誓の隣へ移動する。
「久しぶりだなぁ、会うのが楽しみっすね」
「みんな同じ気持ちさ」
陰陽戦鬼 豚肉の加工品 @butanikunokakouhin
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