文化祭3

「先生……どうしてここに……!!」


 私が聞くと、先生は息を整えながら答えた。


「……本当は、ただ君達を見守るつもりだった。有紗先生が笑顔でいられるのなら、誰と仲良くなろうが構わないと思った。……でも、ただ見守るなんて無理だった。俺、有紗先生が他の男と付き合うのは嫌だ!……有紗先生、俺の恋人になって下さい!!」


 先生が真剣な目で私を見つめる。……これは、夢? 本当に先生が、私と恋人同士になりたいって言ったの?


 私が呆然としていると、脇坂がバンバンと私の背中を叩いた。


「何ボーっとしてんだよ、豊橋! お前、先生がこんなにハッキリ言ってんだぞ? 早く答えてやれよ!」

「脇坂……」


 私が振り向くと、脇坂は何か吹っ切れたような笑顔で言った。


「あーあ、遠藤先生がここに来なかったら、俺にもチャンスがあると思えたんだけどなあ……。遠藤先生、豊橋の事、宜しくお願いします!」


 すると、遠藤先生は脇坂の方に視線を向けて力強く言った。


「うん、絶対に有紗先生の事を大切にする。……有紗先生、本当は君を指導する立場の俺が君に恋愛感情を持つのは良くないんだけど、なんとかするから。君の指導係を徳田先生に変更してもらうとかすれば、論文の不正を疑われたりはしないだろうし」


――だから有紗先生。俺の恋人になって。


 そう言われてしまえば、もう断る理由なんて無かった。私は、目に涙を浮かべたまま笑顔で答える。


「はい。これからは恋人として宜しくお願いします、遠藤先生!」



『では、本日最後のカップル! エントリーナンバー5番の脇坂先生、豊橋先生、お願いします!』


 司会の声が聞こえる。私は、オロオロしながら小さな声を出す。


「ど、どうしよう。私もう、脇坂とカップルとして出場するなんて無理だよ……!」


 次の瞬間、遠藤先生が私の右腕をグッと掴んだ。先生は、悪戯をする子供のような笑顔で言う。


「じゃあ、俺と出ちゃおうか」

「ええっ!!」


 遠藤先生は、私の腕を引っ張ったままステージに上がる。私も戸惑いながらステージに上がった。


『おっ……どういう事だあ? 脇坂先生ではなく、細胞制御学の遠藤准教授がステージに上がって来たぞお!? しかも、遠藤先生は仮装すらしていない!!』


 司会者が、機転を利かせておどけたように状況を説明する。遠藤先生は、ツカツカと司会者に近寄ると司会者のマイクを奪い取った。そして、観客に向けて笑顔で言う。


「皆様! 私遠藤一哉とここにいる豊橋有紗先生は、たった今恋人同士になりました! なので、申し訳ないですが脇坂先生に代わり、私が急遽ステージに上がらせて頂きます!……俺は、幸せ者だああああああ!!」


 一瞬静まり返った後、「ウオオオオオ!!」と、観客が大盛り上がりで拍手する。私は、恥ずかしくて居たたまれなくなった。


 マイクを持った遠藤先生は、更に続ける。


「で、今後俺が有紗先生の論文の添削をするのは良くないと思うんで、えーと……あ、いた! 徳田先生、有紗先生の指導係、俺の代わりにお願いしまーす!」


 すると、観客席の後ろの方から一人の男性がズンズンと近付いて来た。あの方こそ、細胞制御学の教授である徳田光則みつのり先生。御年六十歳。


 徳田先生は、両手を口に当てると、マイク無しでもステージに響き渡る様な大声で叫んだ。


「バカヤロー! 遠藤、こういう事すんなら先に言え! 俺は、目立ちたくないんだ!! でもおめでとう!……あ、それと、豊橋い! 明後日、教授室まで今進んでる分の研究成果を見せに来い! 俺が直々に見てやる!!」


 ……あ、徳田先生、祝福してくれてるんだ。私は、笑顔で叫んだ。


「必ず行きます! ありがとうございます、徳田先生―!!」


 すると、いつも仏頂面をしている徳田先生は、フッと笑った。……ああ、私は、良い先生達に恵まれたなあ。


 司会者が、遠藤先生からマイクを取り返し、笑顔で言う。


「これはもう、パフォーマンスの必要はありませんね! おめでとうございます、遠藤先生、豊橋先生! 皆様、今一度このお二人に盛大な拍手をー!!」


 湧き上がる拍手の音を聞きながら、私と遠藤先生はステージを降りた。降りる瞬間チラリとステージの側を見ると、呆然と佇む福田さんの姿が見えた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る