文化祭2

 そして文化祭二日目の夕方。私は、庭にある野外ステージの側で待機していた。今は丁度十八時。司会役の男子学生がマイクを持ってアナウンスする。


「それでは、只今より『カップル仮装コンテスト』を開催致します!」



 会場から大きな拍手が沸き上がる。私の隣にいた脇坂がこっそりと私に囁いた。


「俺達の出番、五組目だったよな。そして、トリでもある」


 私は、小さく頷いた。どうも、参加者が少なかったらしく、カップルが五組しか集まらなかったらしい。


「どうせなら優勝したいな」

「そうだね」


 頷いてから、私はチラリと横目で脇坂を見る。

 脇坂は今、江戸時代を舞台とした人気アニメの主人公の格好をしている。白地に青い波のような模様の入った着流しが良く似合う。


 そして私は、遊郭に住む女キャラの格好をしている。その女キャラは花魁おいらんではなく裏で汚い仕事をする役どころなので、服装は意外と地味だ。黒字に赤い花模様の入った着物は似合っていると自分では思う。


 ちなみに、私達のいる待機場所はベニヤ板で囲まれており、観客からは見えないようになっている。




「それでは、エントリーナンバー1番! 生薬しょうやく学を専攻する茂木もぎ君と佐々木ささきさんカップル!」


 司会者の声を合図に、二人の男女がステージの上へと上がっていく。天使と悪魔のコスプレをした茂木君と佐々木さんは、いわゆる恋人繋ぎをしていて、とても仲良さそうに見える。


 観客に手を振った後、見つめ合う二人。その幸せそうな横顔を見て、私は少し羨ましくなってしまった。



 ぼーっと二人を見つめる私に気付いた脇坂が、小声で言う。


「……やっぱり、お前、本当は遠藤先生とコンテスト出たかったんだろ?」

「え!?」


 私が目を見開いて振り向くと、脇坂は目を伏せがちにして言葉を続けた。


「お前が先生を好きなのは分かってた。研究室を決める時、お前、迷いなく細胞制御学を選んでたもんな。一年の時は『物理化学の教室に行こうかな。教授が優しいって話だし』とか言ってたのに」


 ああ、やっぱり脇坂には私の気持ちがバレていた。私が赤くなっているであろう顔を背けると、脇坂がポツリと言った。


「……あの先生は、やめておけよ」

「え?」


 脇坂は、拳をギュッと握って声を絞り出した。


「遠藤先生は、真面目で仕事一筋の人だろ? お前の気持ちに応えてくれる可能性はどれくらいあるんだよ!?……不毛な恋をするくらいなら、俺にしとけよ!!」

「え……」

「俺は、大学一年の時からお前の事が好きだった! 俺なら、デートでお前の行きたい所に連れて行ってやる! お前に何回でも好きだって言ってやる!……だから、俺を選んでくれ!!」



「以上、茂木君と佐々木さんカップルでしたー!!」


 司会者がそう叫ぶと、観客席から大きな拍手が聞こえる。茂木君と佐々木さんは、私達がいるのと反対側の待機場所へと退場して行った。


 しばらくの沈黙の後、私は口を開いた。


「……確かに、遠藤先生は私の事を好きになってくれないかもしれない。私は地味で、美人でも無くて、先生に可愛く甘える事も出来ないから。……でも、諦められないの! 私は、私は……!!」

「有紗先生!!」


 大きな声が聞こえ、私は目を見開いて振り向く。私達のいる待機場所に駆け付けて来たのは――荒い息をする、遠藤先生だった。

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