文化祭1
私が遠藤先生への感情に嘘を吐いた日から、もう五か月の時が過ぎようとしている。先生とは表面上今まで通りの付き合いが出来ているけれど、どことなく気まずい空気が流れていた。
そして、季節は秋。学園祭の季節である。
私が学食で昼食を取っていると、一人の人物が近付いて来た。
「あー、有紗先生、こんな時間にランチですかあ? 研究、お忙しそうですねえ」
そう言って私の向かいの席に座ったのは、ゼミ生の福田さん。白いブラウスにベージュのカーディガン、濃いブラウンのロングスカートという女性らしい服装をしている。
青いトレーナーに白いジーンズという格好の私とは対照的だ。
「あ、有紗先生、一緒にランチを取ってもいいですかあ?」
「いいけど……あなたもランチの時間が遅いのね。もう午後二時よ」
私が言うと、福田さんは笑顔で答えた。
「もうすぐ文化祭じゃないですかあ。私、文化祭の実行委員なんで、何かと忙しくてえ」
ふうん。福田さん、そういうの面倒くさがってやらないと思ってた。
「それでえ。文化祭の最終日に、面白いイベントを用意してるんですよお。『カップル仮装コンテスト』っていうんですけどお。カップル何組かに仮装してもらって、来場者に人気投票をしてもらうんですう。それで、一番票が集まったカップルが優勝で、お菓子の詰め合わせがプレゼントされるんですう。出場カップル募集中なので、有紗先生もどうですかあ? あ、有紗先生はカップルになってくれる男性がいないかあ」
福田さんが、意地悪そうな笑顔でそんな事を言う。私に彼氏がいない事を知っててそういう事を言うんだからこの子は……。
「ん? なになに? 文化祭の話?」
そう言って話に入って来たのは、私の同期である脇坂。福田さんは、脇坂の方を見ると笑顔で挨拶した。
「あー、脇坂先生。こんにちはー。そうなんですう。文化祭のイベントの事を話しててえ」
ん? 福田さんと脇坂、知り合いだったのか。そう言えば、福田さんはテニヌサークルに入っていて、脇坂も数年前までテニスサークルに所属してたな。二人が知り合いでも不思議は無いか。
イベントの説明を聞いた脇坂は、少し考えるような表情をした後、福田さんに尋ねた。
「福田さん、その『カップル仮装コンテスト』って、本物のカップルじゃないと出場できないの? 賑やかしで親友同士がペアを組んで出場しても良いのかな?」
福田さんは、脇坂の顔をジッと見ると、ハッとしたような顔になり、笑顔で答える。
「本物のカップルじゃなくても大丈夫ですよお。脇坂先生も、お相手がいましたら是非是非―!」
それを聞いた脇坂は、私の方を向いて言った。
「……なあ、豊橋。俺と一緒にコンテストに出ないか?」
「え、脇坂と?」
私は考えた。コンテストに出るなら、遠藤先生とが良い。でも、本物のカップルでなくても良いという話だし、どうせ遠藤先生と結ばれないのなら……。
「いいよ。一緒にコンテストに出よう、脇坂」
私がそう答えると、脇坂は満面の笑みで言った。
「やった! サンキューな、豊橋!」
◆ ◆ ◆
それから約二週間が経ち、あっという間に文化祭当日を迎えた。文化祭は二日間開催されるけれど、一日目の今日、私はいつも通り研究室でデータ解析に勤しんでいた。
私は店を出すサークルにも関与していないし、研究の事が頭から離れなかったのだ。
夕方、私がパソコンでデータを纏めていると、研究室のドアが開かれた。入って来たのは、遠藤先生。
「あ、有紗先生、研究室にいたんだね」
ぎこちなく笑う先生に、私は苦笑して答えた。
「はい。研究の事が気になりますし、一緒に店やイベントを見に行く相手もいませんしね。あ、お昼に店で焼きそばは買いましたよ」
それを聞くと、先生は目を伏せがちにして言った。
「そっか……。有紗先生は、脇坂先生と一緒に文化祭を楽しんでるのかと思った」
「まあ、確かに脇坂とは親友ですけどね。今回は一緒に店を回ってはいません。……あ、でも、明日のカップルコンテストには二人で出場する予定ですよ?」
私がカップルコンテストに出る事になった経緯を説明すると、先生は何故か険しい顔で聞いてきた。
「有紗先生。本当に、脇坂先生とは本当のカップルじゃ無いの?」
「はい。あくまで賑やかしとして出るだけです」
「……そっか」
そう言う先生は、何故か少しホッとしているように見えた。そんなはず、無いのに……。
私は、ふと気になって尋ねた。
「そういえば、遠藤先生はコンテストに出ないんですか? 福田さん辺りが、先生を誘うんじゃないかなって思ったんですけど」
先生は、宙に視線を向けて答える。
「ああ、そういえば、誘われたよ。断ったけど」
「……そうですか……」
福田さんみたいな可愛い子の誘いでも断るんだから、きっと私が誘ったとしても先生は断っただろうな。
私は、少し寂しい気持ちになりながら笑った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます