第30話 正解の空白
学級会は、静かに始まった。議題は平凡だった。来月の行事内容。案も十分に出ている。
問題は、決める役が決まっていない事だった。
「……剛力、どう思う?」
誰かがそう言った瞬間、教室の視線が、まるで最初から用意されていたかのように集まった。
珠音は、顔を上げない。
鉛筆で、紙の端に小さな四角を描いている。
「進行役なんだし、まとめてくれてもいいんじゃない?」
担任の声は柔らかい。否定も命令もない。
ただ、置かれる。
珠音は、ゆっくり顔を上げた。
「確認します」
その一言で、教室が息を止めた。
「私が決めた場合、結果が悪ければ、責任は私ですか?」
担任は、一瞬だけ言葉に詰まる。
「……みんなで決める、とは思うけど」
「では」
珠音は、淡々と続ける。
「私が決めなくても、結果が悪ければ、責任は誰かが取りますか?」
沈黙。
誰も答えない。否定もしない。珠音は、それを見て頷いた。
「条件が不明確です。判断は致しません」
「ちょっと待って」
誰かが慌てて声を上げる。
「じゃあ、どうすればいいの?」
珠音は、静かに答えた。
「皆さんが決めれば良いと思います」
「でも……」
「私は、妨げません」
それだけ言って、口を閉じた。
教室は、ざわついた。だが進まない。誰も前に出ない。結局、その日は決まらなかった。
放課後。担任は、珠音を呼び止める。
「もう少し、協力的でも……」
珠音は、首を傾げた。
「私は、場を壊していません」
担任は、何も言えなくなった。
帰り道。
事務所の階段を上りながら、珠音は小さく呟く。
「決めない事は、逃げではありません」
一拍置いて、続ける。
「決めさせる事です」
その日、クラスは一つも決まらなかった。だが、誰も「間違えた」とは言えなかった。
空白だけが、残った。
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