第27話 珠子の判断

 夜の事務所は静かだった。テレビは点いているが、誰も見ていない。

 

 珠音は宿題をしている。

 

 珠子はソファに座り、コーヒーを飲んでいた。


「今日、学級会があったんだって?」

 

 何気ない声で答える。


「はい」


「まとめ役、やった?」


「進行役です」

 

 珠子の手が、わずかに止まる。


「で?」


「決めませんでした」

 

 珠子は笑わなかった。


「……なるほど」

 

 しばらく沈黙し質問を始めた。


「怒られた?」


「少し」


「泣かれた?」


「少し」


「嫌われた?」


「たぶん」

 

 珠子はコーヒーを置いた。


「それで?」

 

 珠音は顔を上げる。


「クラスは、何も決まりませんでした」


 珠音は黙る。


「それ、楽?」


「いいえ」


「得する?」


「いいえ」


「じゃあ、なんでやったの?」

 

 珠音は少し考えてから答える。


「それが、一番壊れなかったからです」

 

 珠子は、息を吐いた。


「……あ〜あ」

 

 頭を軽く掻く。


「最悪だわ。もう完全に、向こう側じゃない」


「向こう側?」


「責任を投げる側じゃなくて、盤を触る側」

 

 珠子は立ち上がる。


「はっきり言うね」

 

 一瞬、空気が締まった。


「そのやり方、誰も守ってくれない」


「はい」


「大人にも嫌われる」


「はい」


「間違えたら、全部が自分のせいになる」


「はい」

 

 珠子は、そこで言葉を切った。


「……それでも、やる?」

 

 珠音は、迷わなかった。


「必要なら」

 

 珠子は、少しだけ目を細めた。


「そんなもん、小学生がやる事じゃないわよ!」


「知っています」


「でしょうね」

 

 珠子は背を向けて、キッチンに向かう。


「じゃあ、条件を一つ」

 

 振り返らずに言った。


「自分が壊れそうになったら、盤を捨てなさい」


 珠音は頷いた。


「はい」

 

 珠子は小さく笑った。


「ほんと、面倒な才能」

 

 その夜、珠子は一つだけ確信した。この子はもう、正しい子ではいられない。

 

 でも、必要な場所に立てる子だ。

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