正しさの運用者達

第26話 クラス全員の責任

 学級会が開かれた。

 

 議題は「クラス目標が守られていない件」。

 

 誰が悪いかは、最初から決まっていない。

 

 だからこそ、全員が少しずつ息を潜めていた。


「このままだと、クラス全体の評価が下がります」

 

 担任の言葉に、ざわめきが走る。


「誰かがちゃんと注意しないと」


「でも、言い出したら嫌われるし……」

 

 視線が、ゆっくり珠音に集まった。

 

 まとめ役。空気を整える人。

 

 いつも正しい所に立つ子。


「珠音ちゃん、どう思う?」

 

 珠音は、すぐに答えなかった。

 

 一度、全員を見回す。

 

 逃げている目。期待している目。責任を置きに来る目。


 全部、見た上で。


「私がやります」

 

 教室が、ほっと息を吐いた。


「ありがとう」


「やっぱり珠音だ」

 

 担任も頷く。


「じゃあ、珠音さんに進行を任せよう」

 

 珠音は黒板の前に立った。チョークを持つ。

 

 でも、何も書かない。


「最初に確認します」

 

 静かな声だった。


「これは、誰か一人の問題ですか」

 

 誰も答えない。


「次に」

 

 少し間を空け喋り出した。


「私がまとめたら、皆はこの件に関して、もう考えなくていいんですか」

 

 空気が変わる。


「え……?」


「どういう意味?」


「まとめ役がいると、責任はそこに集まります」

 

 珠音は淡々と言った。


「それで安心している人が、今、この教室に何人いますか」


 手は挙がらない。

 

 でも、答えは見えていた。


「私は、進行役を引き受けます」

 

 一歩前に出る。


「でも、決めません」

 

 クラス全体がざわめく。


「決めるのは、全員です」


 担任が慌てる。


「珠音さん、それだと話が……」


「進みます」

 

 珠音は教師の言葉を遮った。


「今から五分。このクラスとして、何をするかを決めてください」


「決まらなければ?」


「決まらなかった、という結果になります」


 残酷な言い方ではない。ただ、逃げ道が無い。


 五分間。

 

 教室は、初めて本当の意味で騒がしくなった。

 

 誰かが言う。


「じゃあ当番を厳しくしよう」


「でも、それって結局……」

 

 反論。妥協。沈黙。

 

 珠音は、何も言わない。

 

 タイマーが鳴った。


「時間です」

 

 誰も、完璧な案を出せなかった。担任が、苦い顔で言う。


「今回は……クラス全体の反省、という事で」

 

 珠音は頷いた。


「はい。それが、このクラスの結論です」


 放課後。


「助けてくれなかったね」


 誰かが、半分冗談みたいに言った。


「助ける話ではありませんでした」

 

 珠音は答える。


「これは、全員の問題です」


「……でも、あなたがやれば、もっと上手くいったと思う」

 

 珠音は立ち止まる。


「上手くいく、とは?」


「……怒られない、とか」

 

 珠音は振り返らなかった。


「それは、解決ではありません」

 

 その日から、クラスは少しだけ不便になった。でも、誰も「珠音が何とかしてくれる」とは、言わなくなった。

 

 珠音は、責任を引き受けた……空っぽのまま。だからこそ、責任はクラス全体に正しい重さで落ちた。

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