第24話 灰原の後日談
協会の廊下は、相変わらず無駄に広い。
掲示板に貼られた通達を、灰原は立ち止まって読んだ。
『怪異対応指針 改訂のお知らせ』
撤回ではない。廃止でもない。ただ、名前が消えている。
「……器用な事しやがる」
誰も責任を取っていない。だが、誰も反対出来ない形に変わっている。
現場裁量の尊重。案件ごとの再検討。判断基準の明文化は「今後の課題」。
どれも、前に進んでいる様で、実際は一歩引いている。
灰原は鼻で笑った。
「奴に任せて正解だな」
事務所に戻ると、珠音はいつも通り書類を読んでいた。
顔も上げない。
「終わったぞ」
「そうですか」
それだけだ。
「お前、分かってたろ」
「何がです?」
「撤回なんて言わせる気、最初から無かった」
珠音は、少しだけ考える素振りを見せた。
「撤回は、反発を生みます。改訂は、記憶を薄めます」
「性格悪いな」
「合理的です」
灰原は乾いた笑いをした。
「正しさを武器にしなかったな」
「武器は、向けられますから」
向けた瞬間、相手も構える。だから、持たせたまま自分で落とさせる。
灰原は、椅子にもたれ掛かる。
「なあ、珠音」
「はい」
「次は、こうはいかねえぞ」
今回は、全員が臆病だった。
次は、誰かが進んで責任を背負うかもしれない。
珠音は、ようやく顔を上げた。
「その時は」
「その時は?」
「責任の重さを、正確に量るだけです」
灰原は、もう一度笑った。
「マニュアルなんて作るからだ」
「人は、考える事を放棄したがります」
「だから?」
「だから、壊れる様に使わせます」
灰原は、何も言わなかった。ただ、少しだけ寒気がした。あれは、子供の目じゃない。正義の目でもない。
結果の置き場所を、最初から決めている目だ
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